第五十四話 益州攻めの準備
五章スタートです!
劉備からの次の任務は『益州攻略』だった。
出兵は春の予定だ。
そして襄陽の周瑜の下に援軍を送る準備が進められた。
援軍は劉備自ら率いる。
兵力は五万。将は関羽、張飛、趙雲の三本柱。軍師にはなんと孔明と龐統のコンビが出陣!
この戦いに対する劉備の本気を内外に見せる為にこの布陣と成ったのだ。
準備が整うと劉備は出陣していった。
そして居残りが俺と主な面子が、陸遜、徐庶、劉巴、陳到、黄忠、関平、廖化、魏延だ。
この面子から廖化を抜かしたのが益州攻略組だ。
その他には藩濬、馮習、張南、蒋琬、霍峻、傅彤らを連れて行く予定。
俺は劉備が出陣している間に益州攻略組の陣容を整える事に専念した。
蒋琬
孔明の後に大将軍になった人物だ。
漢中から上庸を攻める計画を立てるも周囲の反対で断念。その後亡くなっている。
今回、彼を連れて行けるのは大きい。
後方担当を任せる事が出来る人物は多い方がいい。
藩濬だけに負担を掛ける訳には行かないからな。
ちなみに蒋琬の妹が藩濬に嫁いでいるのでこの二人は義兄弟だ。
このコンビに俺は期待している。
霍峻
彼は劉備の益州攻略に参戦。葭萌関を数百の兵で守る。一万の兵に一年間包囲されるも最後は敵を撃退している。
その後漢中攻めの前に亡くなっている隠れた名将だ。
漢中攻めの前に亡くなったのはおそらく葭萌関の戦いで負傷し、その傷が原因で亡くなったのだろうと思う。
彼は今回連れていこうか迷ったが、本人の希望により連れて行く事にした。
傅彤
夷陵の戦いで呉軍に囲まれるも降伏を拒否して『漢の将軍が呉の狗に降れるか!』と言って戦死した人物だ。
彼は槍の名手で俺の護衛として参戦する。
呉に行った後に山越討伐した事が孔明達に知られて俺に護衛を付けなくてはと言う事で彼が選ばれた。
彼は俺の護衛に選ばれて大変喜んでいる。
なんせ俺が彼に声を掛けると彼は涙を流し跪いたのだ。
ちょっと忠誠心が強すぎるような気がする。
他にも連れて行く者達も要るがそれは徐庶と劉巴に任せている。
そうして準備していたのだが、年が明ける前に劉備は帰って来た。
劉備から襄陽の戦いの顛末を聞くと……
襄陽の戦いは樊城に周瑜、襄陽に程普が籠り曹操軍を待ち構える形で始まった。
曹操軍は十万、周瑜は一万、程普二万の戦い。
曹操は本隊七万で樊城を取り囲むと別動隊として曹仁に三万を与えて襄陽に送り込み、樊城と襄陽の連携を断ち切る作戦で来た。
序盤は曹操軍が優勢に進めるも、周瑜の頑強な抵抗に合い攻めあぐねる。
そうしている間に江夏から魯粛の一万が、江陵から劉備の五万が襄陽を包囲する曹仁に迫った。
これを知った曹操は城攻めを断念して撤退して行った。
劉備は曹操のあまりに早い撤退に驚くも、一旦襄陽に入って再度曹操が南下して来ないか様子を見た。
しかし曹操は完全に兵を退いたらしく、再度の侵攻がないことを確認して戻ってきたのだ。
「様子見、と言うところか?」
「何が?」
俺と陸遜は碁を打っていた。
劉備達のあまりに早い戻りで益州攻めの準備を孔明達に取られてする事が無くなったからだ。
孔明は本当に仕事中毒だよな。
ブラック企業でも嬉々として働いていそうだ。
末路は過労死だと思うけど。
「曹操の今回の侵攻は本気ではなかったと言う事だよ。よし、ここだ」
そこに打ち込む? う~ん。
「ならこれで。狙いは?」
ふふん。我ながら上手い手を打てた。
「そうきたか。狙いは我ら孫呉との同盟の確認の為だろうね」
「なるほど」
曹操が自ら兵を率いたにしては兵が少ない。
曹操が本気なら二十万ぐらいの兵を出してもおかしくない。
なのに今回は中途半端な兵力で攻めてきた。
劉備と孫権の連携を確かめるのが狙いなら、十万の兵でも事足りる。
あわよくば襄陽を攻めとれるだけの数だとも言える。
「それと周都督の実力を知る為とも思えるね。これでどうだい?」
周瑜の実力か? あっ! やられた。
「赤壁や襄陽攻めで嫌と言うほど分かってると思うけどな? う~ん」
「それはどうだろう。赤壁では河川の戦い。襄陽で対峙したのは曹仁だ。直接曹操が周都督と戦った訳じゃないからね」
「ねえ、ちょっと。私達の相手をしてくれない?」
そんな世間話をしながら打っていると四人の女の子が近づいてきた。
俺達は屋敷の庭先で打っていたので、庭で鍛練をしていた四人がやって来たのだ。
その四人は孫尚香、孫英、劉華、劉春だ。
今、俺の屋敷では俺と尚香、陸遜と英が住んでいる。
それとお付きの侍女達が居るが彼女達を入れても俺の屋敷は大きすぎるのだ。
当初は俺達夫婦と侍女達の予定だったのだが、尚香が英も一緒にと言ったので陸遜夫婦と一緒なのだ。
ちなみに以前の屋敷は引き払った。
そして劉備が新婚の俺達の為に用意した屋敷に住んでいると言う事だ。
そこに劉華と劉春が遊びに来たのだ。
尚香は華と春を見て一目で気に入り『私の妹達よね!』と言って英を連れて四人で色々と遊んでいた。
最初は詩歌や楽器を使っていたが、いつの間にか外で薙刀に似た武器を振り回していた。
危ないと思って陸遜と二人、見守るつもりで近くで碁を打っていたのだ。
でも俺達が心配する事もなく、四人は馴れた様子で鍛練をしていた。
尚香や英はともかく華と春はいつの間に武器を扱うようになったのだろう。
もしかして俺が留守にしている間にあの鬼軍曹に鍛えられたのでないだろうな?
「兄様。私に指導して下さい」「下さい」
ふっ、しょうがないな。
俺は愛用している訓練用の槍を持つと二人の相手をしてやることにした。
決して碁で負けていたからではない。
勝負から逃げた訳じゃないんだからね。
「ちょっ、私も」「お姉様」
尚香が俺達に混ざろうとしたのを英から止められる。
尚香とはあまり話をしていないし、食事も仕事を理由に別々に摂っている。もちろん寝室も別だ。
家庭内別居と言うやつだ。
これでは行けないとは思いつつも、もどかしい日々を送っている。
年が明けると俺は益州に向かう。
そうすれば彼女はここに残る事になる。
それまでにはこの状況を何とかしないと行けないのだが、その勇気が俺にはない。
彼女に何と話し掛けて良いのか分からないのだ。
それは彼女も同じようで俺に何を話して良いのか分からないようだ。
「あ痛、つぅ~」
「ごめんなさい。兄様大丈夫ですか?」「大丈夫?」
考え事をしながら相手をしていたら華の薙刀を受け損ねた。
我ながら情けない。そんなに鋭い攻撃ではなかったのにな。
直撃は避けたが鈍い痛みに顔をしかめた。
「何してるのよ。全く、しょうがないわね。見せて」
尚香が近づいて来て俺の傷の治療をする。
患部が腫れているのを見て、馴れた手つきで布を巻き付ける。
そんなに痛くはなかったが、それを言うのは止めておいた。
久しぶりに彼女との距離が近づいたからだ。
こ、ここだ! ここで話をするんだ!
「あ、ありがとう。尚香」
「ど、どういたしまして。痛い?」
「いや、痛くないよ。尚香のお陰だ」
「そ、そんな事、ないわ」
俯いた彼女の顔は赤かった。
こうやって改めて近くで見るとやはり彼女は美人で美しい。
「兄様。顔が赤いです」「赤い」
うおっ! 華と春を忘れていた。
くそ、良いムードだったのに!
その日、華と春を屋敷に泊める事になった。
尚香はよほど華と春を気に入ったらしい。
華と春を隣に座らせて食事を一緒に摂るほどの気に入りように、俺はちょっと二人に嫉妬してしまった。
しかし俺と陸遜は別の部屋で食事を摂ることになった。
それと言うのも徐庶と劉巴が訪ねてきたからだ。
二人は俺とは違い益州攻めの人選を進めていたのでその報告を兼ねて一緒に食事を摂ることにしたのだ。
なんともタイミングの悪い事だ。
「このような人選になります。うむ。この口に入れた感じが何とも」
「これで足りるとは思うが。まあ、足りない分は向こうで補えば良かろう。それにしてもこれは良いな。さっぱりして旨い」
「そうだろう。向こうの料理人を連れてきたかいが有ったな。こっちではまだまだ食べられないからな」
徐庶と劉巴は豆腐を気に入ってくれたみたいだ。こっちに帰ってから豆腐が食べられないのは残念だと思って向こうの料理人を連れてきたのだ。それにお腹に優しいから胃の痛くなる仕事をしている連中にはちょうど良い食べ物だと思う。
食事の後も話し合いは終わらない。
向こうでの戦略に関しての打ち合わせは、深夜まで及んだ。
「ふぅ、だいぶ遅くなったな」
深夜まで掛かった話し合いの後に寝室に戻ろうと廊下を歩いていると寝室の前に人影が見えた。
誰だと思ったら尚香だった。
「何をしている。夜は冷えるぞ」
「ねえ、益州に行くって本当?」
「なんでそれを?」
「華達が寝たことを教えようと思って部屋に行ったら話声が聞こえて、それで…… ねえ、どうなの?」
はぁ、話をする前に知られたか。
「本当だ。春には向こうだ」
「そう。私は?」
「当然残す。危ないからな」
連れていかなければ彼女は呉に帰ってしまう可能性も有るが、嫁さん連れて援軍に行くとか、どう考えてもおかしいだろう。
本当は連れて行きたいんだ!
でも、でもさ。出来ないんだよ。
「私も付いていくから、絶対に!」
「尚香?」
「昼間。華にやられるくらい弱いんだから、私があなたを守ってあげるわ!良いわね!」
「あ、うん」
「ふん。じゃあ、おやすみ」
「おやすみ」
尚香の勢いに飲まれてつい返事をしてしまった。
良いのだろうか、これで?
本当はとても嬉しい。嬉しいのだが。
あっ! しまった!
その日、尚香と一緒に寝れるチャンスを逃したと気づいて寝れなかった。
また男になり損ねたよ。
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