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第四十二話 さらば交州

 孫呉の歩隲を追い返して一月、俺は劉備から呼び出しを食らった。


「『臣孝徳。直ちに兵を纏め帰還せよ』以上が我が主の命に御座います」


「慎んで拝命致します。頼恭殿」


 劉備からの使者は頼恭であった。

 改めて交州刺史に命じられた頼恭は劉備の書状を持って来てここ交州に残る事になった。

 そして頼恭だけではなく、武官と文官合わせて千人が派遣されて来たのだ。

 これで俺はお役後免と言う事だ。


「私で本当に良いのですか?」


「ああ、士徽(しき)。共に行こう」


「はは。この士微。劉封殿に付いていきまする」


 士徽は涙を流していた。

 士徽は士燮の三男で中央に連れていくなら誰が良いかと相談したら彼がやって来た。

 士燮曰く息子達の中で最も血の気が多いそうだ。

 それに嫡男の士廞(しけつ)は残したいらしい。

 こちらとしては士燮の一族で有れば文句をつけるつもりはない。

 士徽は僻地交州から出られて嬉しいようだ。

 やっぱりなんだかんだ言っても田舎より都会だよな?


 そして、交州で得た人材も連れていく。

 許靖(きょせい) 薛綜(せつそう) 程秉(ていへい)の三人だ。


 許靖は史実では劉備が益州を得た後に仕えているがこの時は士燮の下に居たので、士燮の推挙で彼を召し抱えた。

 薛綜と程秉の二人は史実では孫呉に仕えていたが、この二人も士燮の推挙を受けて召し出した。

 交州は中央での争いを避けている人が多く、彼ら以外にも多くの官吏を得る事が出来たのは幸いだ。

 今の劉備の陣営は圧倒的に人手不足。

 しかも文官の数が足りないので人一人の負担が半端ない。

 彼らを連れ帰れば劉備に喜んで貰えるだろう。

 俺ももう刺史の仕事なんてしたくないしな。


 さて劉備の居る江陵に戻るのは良いとして、呼び出しの理由はなんだろうか?


「やっぱり孫呉の件かな?」


 勝手に孫呉との外交交渉をした事で呼び出しを食らったのかも知れない。


「それはおかしいでしょう。彼らが孫呉に戻る前に頼恭殿はこの合浦に向けてやって来たのですから、その件とは別の話だと思われます」


 ああ、そうだな。

 歩隲が帰ったのは一月前で、頼恭がここ合浦に来るには二月前に江陵を出ていた。

 孫呉の件とは別に俺が呼び出された事になる。


 ちなみに歩隲に渡した文にはこう書いてある。


『当方には外交決定の権限はございません。交州の件で不服が御座いましたら、我が主劉備様に直接問い合わせて頂きたい。我らは我が主の命で交州の治安を守っているに過ぎませんので悪しからず』(現代語訳)


 要するに劉備に丸投げしたのだ。


 劉備は俺に交州の全権を任してくれたが最終責任は劉備に有る。

 だからこの件の決定権は劉備に有るのだ。

 責任者は責任を取る為に居る。


 俺? 俺は中間管理職だから最終責任なんてないよ。


 江陵に戻る前に士燮達と別れの挨拶をした。


「士燮殿。若輩な私を助けて頂きありがとうございました」


「いえいえ。お気に為さらず。それより士徽の事、宜しくお願い致します」


「はい。お任せを」


 士燮は合浦で政務を取る俺を色々と助けてくれた。

 それに彼の紹介で人材を多数手に入れたのだ。

 感謝感謝しかなかった。

 本当ならもう少しここに残って士燮から色々と教えて貰うのが良いのだろうが、それはもうかなわない。

 きっとこれが今生の別れになるだろう。


「では、さらばだ。交州の王よ」


 俺がそう言うと士燮は驚いた顔をしたが、直ぐに笑みを浮かべた。


「うむ。さらばだ」


 短い間では有ったが王と呼べる人に会って学べたのは貴重な経験だった。


 さて帰りのルートだが、これは合浦 零陵(れいりょう) 武陵(ぶりょう) 江陵のルートだ。


 行きのルート。

 あれは通常のルートでは無かったので大変苦労したが、帰りは通常のルートなので行きよりは楽だ。

 しかし、それは行きのルートよりはと言っておこう。

 帰りは帰りで苦労するのだ。


 ちなみに当初問題だった山越だが、これは

 南海、蒼悟に残した馮習、張南のそれぞれが兵を出してこれを鎮圧した。

 魏延も近隣の賊を討伐する等の活躍を見せ、劉備軍の強さをアピール出来たと思う。


 そして減ってしまった兵の補充の為に交州で募兵した結果三万の兵を調達出来た。

 その兵達は鬼軍曹のしごきに耐えて晴れて我が軍に編入されたのだった。

 どの兵も募兵された時より精悍な顔をしていた。

 彼らは今から向かう未知の場所に興奮を押さえられないでいるらしい。

 皆鼻息荒いしな。


 これで遠征当初三万だった俺の軍は帰りは五万近い兵となった。


 これらを率いていざ江陵に戻る。


「なあ、士徽。本当にこいつら連れていくのか?」


「はい。もちろんです。彼らはきっと役に立ちます」


 士徽が連れて来たのは水牛だ。


 水牛は荊州南部で見られたが数はそれほど多くはない。

 その為、交州産の水牛を士徽が調達してきたのだ。

 今後は交州からこう言った動物達を定期的に購入する事になっている。

 人も欲しいが家畜も欲しいのも現状だ。

 ただ、軍の移動に連れていくのはどうかと思うんだよね?

 それに士徽の話では象やサイも購入する予定なのだそうだ。

 一瞬、江陵に動物園でも作るのかと思ってしまった。

 しかし象やサイは立派な労働力として使われる。現代の重機としての扱いだ。

 交阯では珍しくないのだそうだ。


 それと玉石、サファイアやルビーの原石だ。

 その他にもこの当時では珍しい調度品の数々、中にはガラスまで有った。

 これらの品々も一緒に持って帰る。

 献上品の品は多くて困る事は無いからな!


 こうして交州で得た様々な物を携えて江陵に戻った。


 江陵までの道のりは三ヶ月。

 そういえば一年以上も江陵に帰ってなかった事に気づいた。

 長沙攻略から交州平定。

 本当に長い旅をしてきたと思う。


 その旅もようやく終わりだ。


 建安も十三年から一気に十五年に変わっていた。

 まあ十三年の終わりに出兵したからなんだけどね。

 江陵までの旅路は脱落する兵も少なくすんだ。

 最も三千近い兵が逃げたが、行きよりは全然ましだ!

 これだったら桂陽からじゃなくて零陵から行けば良かったよ。

 道がしっかりしてるって本当に素晴らしいよね!

 今後は定期的に道の整備をするように頼恭には頼んでいる。

 南海、蒼悟、合浦、交阯等の交州の道は結構整備されているが荊州南郡から交州の道は整備が行き届いていないのだ。

 そこで荊州南郡から交州を繋ぐ道の整備を重点的にやらせる事にした。

 交州からだけじゃなく荊州からもやらせるように劉備には頼むつもりだ。

 これで軍の移動だけじゃなく人や物流の流れが良くなるだろう。

 道が整備されれば荊州と交州の距離も近くなる筈だ。


 江陵に戻ると早速劉備に挨拶に向かった。


 江陵の城門で出迎えて貰えると思ったが、そんな事はなかった。

 ちょっと寂しい。


「臣孝徳。交州平定の任を終え只今戻りました」


 正確にはまだ終わってはいないがな。


「良く戻った。病を得たと聞いて心配したが何ともないようだな?」


 あれ? 抱き締めたりしないの?


「はい。もう何とも御座いません」


「そうか、そうか。それにしても顔つきが少し変わったな。頼もしく思うぞ」


「はは。ありがとうございます」


 なんだろう。言葉は優しいが劉備とちょっと距離を感じるな。

 それに関羽、張飛、趙雲らの姿も見えない。

 劉備の側に居るのは孔明と龐統と文官連中ばかりだ。

 それに文官の中には見た事の無い連中も多い。


「長い遠征で疲れただろう。しばし休め」


「はは、ありがとうございます」


 劉備との謁見はこうして終わった。

 交州での詳しい報告は徐庶が行うと言うので、俺は与えられた屋敷でゆっくり過ごす事にした。


 なんだろう。なんか拍子抜けするな。


 もっとこう緊急事態で呼び出されたと思ったのにそんな事は無かったな?


 そう思っていたが劉備が一人で屋敷に訪ねて来て、重要な話があると二人きりで話をする事になった。


 何時もより緊張感のある顔をしている劉備は怖かった。


「孝徳。よく聞きなさい」


「は、はい」


 ごくりと生唾を飲み込む。


 な、何。何なの?


「お前、女を知っているか?」


 はぁ?


「あ、あの。それはどういった事ですか?」


「ああ、いや。その、だな」


 慌てた様子の劉備に俺は直感した。


 これはあれだ! 嫁取りイベントか。


 劉備が俺に嫁を紹介するイベントだな?


 そうか、俺もとうとう結婚かぁ~。

 もうすぐ二十三だからな。

 こっちでは早いのかな、遅いのかな?

 日本だと早いほうだけどどうなんだろう?


 となると相手はやっぱり劉備の娘だよな?


 俺は劉備の養子だから繋がりを強化する意味で嫁は劉備の娘一択なんだ。

 以前関羽や張飛がそれらしい事を言っていたしな。


 でも待てよ。劉備の娘はまだ十二だよな?


 早すぎないか?


「義父、いえ父上。その、私にはまだ早いと思うのですが、それに彼女もまだ若いですから……」


「うん? 何!? お前相手が居るのか?」


「え? いや、だって。あれ?」


 なんか違った?


「そうか、お前に相手がな。それは知らなかった。して誰だ? 私の知っている者か。年が若いと言えば誰が居たかな。う~ん」


「あ、いや。相手ってそれは……」


「思い当たらんな。孝徳。先方には待って貰え。いいな。これは父としてではない。君主としての命だ」


「は、はい」


 なんか誤解が有ったがまあ良いか。

 っていうかやっぱり劉備の娘と結婚するのか!


「半年前に孫呉から提案が有った。お前の嫁取りだ。相手は孫権の妹だ。婚礼は春の予定だが、出立の準備をして置くように。そうだな。お前の相手の親には私から話をしておこう。まあこの話はもう知っていると思うがな? で、相手の親は誰だ?」


 はい? なんで俺が孫権の妹と結婚するんだ?


 あれ? だって史実では、劉備の嫁取りイベントだったよな。


 その日、俺の嫁が決まった。


これにて第三章終了です


誤字、脱字、感想等有りましたらよろしくお願いいたします


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