第三十二話 割譲案件
荊州攻略戦スタートです
赤壁で大勝し江陵を得た俺達劉備軍はその後ゆっくりして…… なかった。
曹操をわざと逃がした関羽に汚名返上をと二万の兵を与えて夷陵に向かわせた。
しかし夷陵に着いた関羽は敵と戦う事なく城を得た。
なぜなら夷陵には曹軍の姿が無かったからだ。
江陵防衛を任された曹仁は全軍を襄陽に集めてそこで防衛する事にしたらしい。
襄陽に籠る曹軍は三万、河を挟んで北に有る樊城に楽進の一万の兵が居る。
襄陽を包囲して攻めても樊城からの援軍で連携して打ち破られる事だろう。
北荊州の防備は中々に固い。
そして襄陽を攻める算段をしている時に周瑜率いる呉軍五万の兵が江陵に現れた。
「劉備殿。江陵を得た事おめでとうございます。これからも我が軍と協力して曹軍と当たって頂きたい」
「これはありがとう。周瑜殿。もちろん我らもそのつもりだ」
周瑜が兵を率いてきたから『すわっ、戦いか?』と思ったが、周瑜は大人の対応をして見せた。
そして、きっちりと釘を刺す事を忘れていなかった。
「曹軍は襄陽に籠っておりますが、今の我らの勢いならばこれを退けるのは容易でしょう。まずは我らが当たりますゆえ、劉備殿は後方にて待機して頂きたい」
要は『襄陽より北は俺達が頂くから邪魔すんなよ』と言う事だろう。
本当は俺達が江陵を得た事に文句を言いたいだろうが、先に江陵を占拠したのは俺達だ。
文句を言われる筋合いはない。
しかし赤壁で孫呉は多くの血を流している。
何も得る物が無かったでは済まないのだ。
だから俺達に釘を指す。
『江陵はお前達に預けてやるがそこまでだ。それ以上は高望みするなよな!』と。
周瑜の周りの若い将達は明らかに敵意を俺達に向けている。
でもね。お前達のメンチなんて可愛いもんだよ。
だって俺の隣に居る赤ら顔で髭の長い人と、虎髭でお目めパッチリの人の方が百倍怖いもんね。
その二人の威嚇を受けた若い孫呉の将達は目を逸らした。
ちっ、意気地無しめ。
やはり将としての格が違うと言う事か?
だったら最初から喧嘩を売るなよ。
周瑜や魯粛みたいに大人の対応をしてれば恥をかかなくて良かったものを。
見ろよ、新しく加わった文官連中に笑われてやがる。
江陵を得てしばらくすると孔明の推薦を得た連中が表れた。
『孟建、石韜、崔州平』らだ。
彼らは孔明の学友で本来なら曹魏に仕えていた者達だ。
しかし今は劉備に仕えている。
明らかに史実とは違ってきている。
これは良い方向に変わっているんだよな?
でも一部で懸念がある。……周瑜だ。
周瑜は史実なら江陵を攻めていた時に矢傷を負って、無理をして城を攻めた結果、城を落とした後に傷が悪化して亡くなっている。
本来なら周瑜が亡くなった事で劉備は江陵を得るのだが、俺達は既に江陵を得ている。
なら周瑜の死亡イベントを回避した事になるのか?
このまま周瑜が長生きするならそれは俺達に取って脅威ではないのか?
だって周瑜は魯粛と違って劉備穏健派ではないからだ。
それを証明するかのように目の前の周瑜は挑発的だ。
しかしその挑発もこれまで海千山千の相手をしてきた劉備にしてみればどうと言う事はないのだろう。
全く動揺した様子はない。
それどころか劉備の次の発言で逆に周瑜の方が動揺した。
「周瑜殿。我らはこれよりこの江陵を本拠地としたいと思っている。そこでここ江陵に劉琦殿を招き荊州牧となって貰おうとも思っている。そうなると今の我らでは江夏の地を守る事は出来ないだろう。だから良ければ貴君ら孫呉に江夏の地を譲渡したいと思うのだがどうか?」
「なっ、それは、宜しいのですか? 劉琦殿抜きでそのような大事を決めてしまっても?」
おっと、初めて見たぞイケメン周瑜の驚いた顔を。
それに周瑜の後ろにいた者達も驚いてる驚いてる。ぷくくく。
「これは劉琦殿には既に話している事なので心配ない。どうだろうか周瑜殿。受けて貰えないだろうか?」
まあ、要するに『江陵取っちゃってごめんね。変わりに江夏を挙げるからそれで許してね』と言う訳だ。
これで孫呉は江夏を補給地にして襄陽を攻める事が容易になるだろう。
これを断る事は周瑜には出来ない筈だ。
そして周瑜は劉備に江陵は取られたが代わりに劉備と交渉して江夏を得たと孫呉の文官連中に言えるだろう。
赤壁での戦果が江夏郡だけと言うのは寂しいが、孫呉に取って江夏は因縁の土地だ。
それを得る事が出来るのだから当分文句は言ってこないだろう。
これで少しは時間が稼げる筈だ。
そしてサラッと劉琦に荊州牧に付いて貰うと言っているので、荊州の主権は俺達に有るんだよと牽制もしている。
まあ今は江夏の事で頭一杯になってるみたいだけどね?
この絵図を描いたのは勿論、我らが三軍師だ。
いや~頼りになりますよ本当に。
周瑜は直ぐにも襄陽に向かう為に事後処理は魯粛に一任して去っていった。
残った魯粛は嬉しいような困ったような顔をしながら孔明達と話をして、一旦柴桑に帰っていった。
「これで孫呉は北に目を向けましょう。我らはその間に南を平定致しましょう」
江陵より南は未だに曹操の支配下だ。
と言っても半分は独立状態なんだけどね。
「進軍経路と致しましては、武陵、零陵、桂陽となります」
「孔明よ。長沙が抜けていると思うのだが」
孔明の言に突っ込みを入れる劉備。
あ、そうだよ。
俺(劉封)の故郷長沙が攻略から抜けてるぞ?
「長沙には少数の軍を派遣するだけ宜しいでしょう。そうですな孝徳殿?」
「へ? あ、いや、その~」
ど、どうなんだろうその辺は?
「ああ、そうだな。長沙は孝徳の故郷だったな。なら大丈夫だな。そうだろう孝徳?」
ちょっ、張飛さん肩に手を掛けないでよあんた重いんだから!
「我が君を総大将に関羽将軍、張飛将軍、趙雲将軍にはそれぞれ一万の兵を与えます。軍師として龐士元を、留守は私が、長沙には劉封殿を大将に副将に陳到将軍、軍師は徐元直に任せます。攻略は速さを優先して頂きたい。目標は一年以内の攻略です。宜しいですな?」
「「はは」」
えっと、俺はどれくらいの兵を与えられるんですかね?
「あの、孔明殿。お、じゃなかった。私に与えられる兵の数は?」
「ふふ、孝徳殿には二千の兵でお願いします。それ以上の兵は必要ないでしょう」
羽扇で口元を隠して孔明は笑っていた。
それは俺を信用してるのかね?
それとも失敗するのを願っての事なのかね?
「私が付いておりますぞ。孝徳殿」
「孝徳殿なら出来ます。大丈夫です」
陳到~。徐庶~。
「頑張ってね孝徳。残念だけど僕は父上と一緒だから」
「なんなら一緒でも良いんだぞ。関平」
「遠慮するよ。そろそろ僕もちゃんとした武功が欲しいからね。このままだと君に置いていかれてしまう。次に会う時は僕も武功を重ねて置くよ」
そう言って関平は去っていった。
今まで一緒だったからちょっとさみしい。
でもそうだな。男なら友と差を付けられたままで良いわけないもんな!
よし、俺も更なる武功を手にするぞ!
こうして劉備軍は南荊州攻略を俺は長沙攻略に着手するのだった。
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