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第三十一話 三人目

 江陵降落!?


 えー、ちょっと待って。


 江陵って確かこの赤壁の後に周瑜が一年間攻め続けてやっと落とした場所だよ。

 それがこのタイミングで攻略?

 しかも落としたのが劉備?


 いかん、完全に史実と展開が違ってる!?


 俺は多少混乱しながらも陸路で江陵を目指した。

 後方で投降兵を吸収して俺達を追ってきた関平と陳到とも合流し、その兵力は三万を越えていた。

 そして投降してきた兵は主に荊州兵がメインで北方の兵はそれほど多くはなかった。

 だが、北方産の馬を多く確保する事が出来た。


 北方の馬は南方に比べて馬体が確りしているので長距離の遠征も苦にしない。

 何れはこの馬を南方産の馬と掛け合わせて数を確保するのが良いだろう。

 この時代、馬の確保は馬商人から買っている。

 だから馬を多数確保するのは金が掛かる。

 だがこれからは馬は買うよりも自分たちで増やす方向が良いだろう。


 そして江陵城に着いた。


 江陵は襄陽、柴桑よりは小さいが南が長江に面しており交通の便の良さを窺わせている。

 江陵城の城門では劉備と孔明、そして見知らぬ男が居り、その背後では民達が劉備の名前を連呼していた。


「待っていたぞ」


 そう言って劉備は関羽と張飛を抱き締めた。

 思うに劉備って人に抱き付くのが趣味なのかと思った。

 だって会う度に抱き付くんだからな。

 今だってそうだ。


「孝徳。無事で何よりだ」


 劉備は俺を抱き締めてバンバンと背中を叩く。

 まあ、悪い気はしないんだけどね。

 なんか認められてるとか本当に気に掛けて貰ってるような気がするんだ。


 あっ、もしかしてこれが劉備の魅力なのかな?


 この気さくな態度で人の懐に入ってくる感じが良いのかも知れない。

 高祖劉邦や豊臣秀吉もこんな感じなのかもな。

 分からんけどね。


 一通り皆とハグした劉備は御殿まで皆と歩いた。


 これってあれだよな。

 戦勝パレードみたいだな。劉備を先頭に関羽張飛趙雲がその後ろに居て俺と関平、陳到もそれに続いている。

 民達からは凄い歓声とそれぞれの名前が連呼されている。


「す、凄いね。これは」


 俺はこんな沢山の人に名前を呼ばれる事なんてなかった。

 それにちょっと、いやかなり感動している。

 呼ばれる名前は劉封だけどね。


「そうだね。でも皆、劉封、劉封って言ってるね。父上や益徳殿よりも多いんじゃないかな?」


 いや、いやいやそれはないよ。

 そんな事ないよなぁ~でへへ。


「孝徳殿の名前はかなり知れ渡っておりますな。長坂で曹操相手に名乗りを上げた事が原因ですかな?」


 陳到にしては珍しくからかうように聞いてくる。


「そ、そうなのかな。でもあんな事で有名に成るもんなのかな?」


「ふふふ。孝徳殿はたまに無自覚でいらっしゃる。あの曹操を前に宣言為さったのですぞ。それに伝え聞くところに寄れば、曹操は孝徳殿を気にしていたとも言われております。荊州の名士に孝徳殿の事を聞いていたとも」


 うえ、何それ本当に?


「冗談でもそんな事言わないでくださいよ。元直殿。あの曹操が俺なんか気にしてる訳ないでしょう?」


「いやいや、かの文聘との一騎討ちの話はかなり有名ですぞ。それを知った曹操が文聘に直接話を聞いたとも言われておりますよ」


 もう何それ。本当に止めて欲しい。

 誉め殺しなんて、そんな、ねえ。ぐふふふ。


 こうして俺は上機嫌で江陵の街を通り抜け御殿にたどり着いた。


 そしてしばし休憩した後に謁見の間に集まった。

 こうして城で皆が集まるのは久しぶりだ。

 樊城以来だな。

 夏口では何人か居なかったからな。


 周りを見渡して誰一人として欠けていないのを確認して安堵した。


 よくぞあの悪夢のような状況から無事に生き残ったもんだと感動する。

 思い起こせば……


「皆、大義であった。こうして再び皆と会えた事を嬉しく思う。これも皆の働き有っての事だ。改めて礼を言う。ありがとう」


 劉備の言葉で邪魔されたが、まあいいか。

 そして劉備の言葉を受けて皆泣いている。

 関羽は堪えているようだが、顔は天井に向けているので隠しきれていない。

 張飛は照れ臭そうにしている。

 趙雲は胸を張って涙を流している。

 皆が皆、一様に泣いているこの感動の場面で一人だけ無感動なヤツも居る。


 誰とは言わない。


「我が君。宜しいですか?」


「うん。ああ、そうだな。頼む孔明」


「はっ。ではこの江陵を攻略する上で我が軍に協力してくれた者をご紹介致します。これへ」


 孔明が下座を指すと城門で孔明の隣に居た男が劉備の前にやって来る。


 身長は百七十くらいかな。この時代の人にしては大きい。少し太っている。

 顔は丸顔で愛嬌の有る顔で、目がタレ目だからかなとても親しみやすい顔をしている。

 男は拱手して劉備に頭を下げる。


「彼の名は龐統 士元。私と元直とは同門で有り、その智謀は私と同等かそれ以上で有ります。この者を我が君に推挙致します」


「龐士元と申します。劉備様の大義の一助に成れれば幸いです。どうぞよろしくお願いいたしまする」


 ほ、ほ、ほ、龐統キター!!


 マジか!本物かよおい!

 まさかまさかの龐統参戦!?

 うわっ、すげえテンション上がってきた!


「龐士元。君の助けがなければこの城は落とせなかっただろう。私からも頼もう。どうか私の大義を助けて欲しい」


 劉備は龐統の両手を握りしめて答えた。


 おお、ここに伏龍、鳳雛が!

 しかも徐庶のオマケつき。

 はっ、いかんいかん。

 徐庶はオマケじゃない。オマケじゃないぞ。


「それと我が君。他にも推挙したき者達がおります。後程ご紹介致します」


「おお、孔明。よろしく頼む」


 なんと更に人材が増えるとな?


 誰だろうな?

 う~ん。龐統が来たから後は、馬良かな?

 ちゃんとした領地が出来たから、これからどんどん人が増えるぞ。

 いやーなんかメチャクチャ元気が出てきた。

 それにこれからは長坂ほど絶望的な戦いはないからな。


 楽勝、楽勝!


 この後、それぞれが与えられた任務の報告をして劉備がそれを褒め称える。

 一見和やかな雰囲気に包まれたが関羽の報告でその場は凍りついた。


「そうか。逃がしたか」


「申し開きは御座いませぬ。兄者、いえ、我が君。軍命に背いた罪、この首を落として下され」


 そう言うと関羽は跪き首を晒す。


「雲長」


「では軍命に背いた関羽将軍の首を跳ねます。宜しいですな。我が君」


 孔明は剣を関羽の首筋に当てる。


「待て待て待て、待てーい! 関兄の首を跳ねるなら俺の首も跳ねやがれ!」


 張飛はそう言うと関羽の隣にどっかと座る。


「益徳」


「益徳。止めろ。これは私の罪なのだ。お前には関係ない」


「関係ない事なんて有るかよ!俺達は死ぬ時は一緒だって誓っただろうが、そうだろう兄貴!」


 張飛は関羽をそして劉備を見て言い放つ。


 あれ、これってヤバいのか?

 このままの流れなら関羽斬られちゃうの?

 でも演義ではここで劉備が孔明を止めるよな?


 と、止めるよな?


「兄貴!」


「益徳。雲長は己の罪を認めた。しかし、そうだな。孔明よ。雲長が死ねば私も生きては行けん。雲長の罪を許す事は出来ないだろうか?」


「あ、兄貴~」


 劉備の言葉に張飛は涙を流すが孔明は眉一つ動かさない。


「罪を犯した者は法に照らし合わせ罰を与えなければなりません。関羽殿の罪は曹操を討ち漏らした事。それは関羽殿の命一つで購えるでしょうか?」


「そ、それは……」


 え、ヤバいよこれは。

 俺は周りを見渡すが誰もが顔を背けるばかりだ。

 あっ、いや違う。

 徐庶と龐統が俺を見てる。

 それに孔明も何回か俺をチラ見してる。


 はっ、俺? この状況を俺に何とかしろってか?


 俺は自分を指差すと徐庶と龐統が頷く。

 孔明も目線で早くしろと言っている。


 こ、こう言うのはさ。前もって段取りを組もうぜ!


 俺は関羽の前に立ち発言する。


「我が君。いえ、義父よ。関羽将軍はこれまで何度も養父を助けて来ました。ですからこれまでの功を持って罪を減じ、鞭打ちの刑にしては如何でしょうか? これならば罰を受けた事にはなりませんか? 養父よ」


「そうです。孝徳殿の言う通りです!」


「我が君。どうか関羽将軍をお助けください」


「我らからもこの通りです」


 うっわー、茶番臭い。


 俺の言葉を皮切りに皆が関羽を擁護する。

 これって俺じゃなくても良かったんじゃないの?

 俺は劉備に頭を下げながらも徐庶と龐統を睨むが二人は俺から目線を逸らした。


 そしてこれら関羽擁護の声を聞いた劉備は安堵した表情を見せた。


「そうだな。孝徳。そして皆者。そなた達の言を用いよう。雲長よ。そなたの今まで功を持って罪を減じる。罰は鞭打ちとする。これで良いな孔明よ」


「はは。見事な裁きに御座います」


 こうして関羽はこの場で鞭打ち百回の刑に処された。


 ふぅ、良かった。でも今度から前持って話をして欲しいもんだ。


 関羽の刑が終わると皆退場した後に別室で軍師三人に文句を言った!


「孝徳殿の進言ならば我が君も素直に聞くと思ったのです。さすがは孝徳殿です」


 それ、褒めてないだろう孔明。


「いやいや、これで我が君の慈悲が噂になりましょう。良き事ですよ。ははは」


 龐統さん。本当にそんな事思ってます?


「関羽殿があの場で罪を認めるとは思ってなかったのです。それにあの場では我らより孝徳殿が進言なさった方が良いと思いましたので」


 徐庶~。


 文句の言葉も尽きた辺りで俺は三人に江陵攻略の話を聞いた。


 内容は実に簡単だった。


 劉備が城の前に現れて守将の曹仁を呼び出す。

 曹仁は一部の兵を守り着かせて城を出て劉備と問答。

 その間に城に潜入していた龐統と一部の協力者、それに城に入っていた流民が一斉に蜂起。

 城は瞬く間に劉の旗が翻った。

 それに気付いた曹仁は兵を連れて一時撤退。

 現在は夷陵の城に居るらしい。


「でもまあ、今頃は夷陵も落ちてるかもな?」


 そう言って龐統は笑っていた。


「士元とは夏口に居る時から連絡を取っておりました。前もって協力して貰おうと思いまして」


「元直から文(竹簡)を貰ってな。面白そうだと思って協力したのよ。江陵には名前を出したら城に通して貰ってな。毎日ご馳走三昧だったぜ。それに酒が旨いのなんの。北の酒も悪くないなと思ったねえ。ははは」


「はぁ。まあ、こういう人です。仲良くやってください孝徳殿」


「は、はあ」


 珍しい事に孔明が俺に頭を下げて頼んだ。

 これは俺が彼に認められたと思って良いのかな?

 それに龐統は張飛に近い感じがする。

 仲良くやって行けそうだ。


 こうして俺達は江陵を得て、さらに龐統をも得た。


 劉備の覇業はこれから始まるのだ。


 建安十三年 冬


 劉備 赤壁にて曹操を火計にて退け 江陵を得る


これにて赤壁篇終了です


誤字、脱字、感想等有りましたらよろしくお願いいたします


応援よろしくお願いします

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