第二話 憧れの英雄達
関平と名乗るイケメンが三人の男を連れてきた。
一人は背丈が百七十を越えて白髪が少し見える。
目付きは優しく俺を心配しているようだ。
あっ、耳たぶが長い。
二人目は顔が赤い。
背丈は百八十を越えて三人の中で一番背が高い。
そして立派な長い髭を持っている。
ちょっと目付きが怖い。
三人目はドングリ眼で髭が跳ねている。
愛嬌のある顔をしている。
背丈は百八十くらいで筋肉質だ。
そしてがははと笑いながら俺の背中をバシバシと叩いている。
「おう、心配したぞ。この~」
バシバシがバシンバシンに変わっている。
物凄く痛い。この馬鹿力め!
「あの程度の鍛練で気を失うとは嘆かわしい。それでも兄者の息子か!だから私は反対したのだ。このような軟弱な者が我らの後継者とはな」
赤ら顔の男は俺に不満を持っているようだ。
それしても兄者の息子に後継者?
見れば耳たぶの長い人が馬鹿力を押し退けて俺を抱き締める。
「良かったなぁ~、本当に良かった。お前が死んでしまうのではないかと、本当に心配したぞ。うん、うん」
泣いているのか。声が少し詰まって聞こえる。
「あ、あの。えっと、その~」
俺は少し混乱していた。
この三人の特徴って、あれだよ。
あの劉備、関羽、張飛だよな?
「劉備様。劉封は少し混乱しているようで、記憶が曖昧になっているようです。だから……」
関平が俺のフォローをしている。
おお、このイケメン使える。
それにしても関平は関羽?とは似てないな。
顔は赤くないし、髭もない。母親に似たんだろう。
母親はきっと絶世の美女に違いない。
関平の言葉を聞いて劉備?が俺の顔をまじまじと見つめる。
「私が誰か分かるか?」
えっと、多分劉備だよな?
「劉、玄徳?」
「兄者を呼び捨てにするかー!」
「わひっ」
関羽に怒られた。
赤ら顔がさらに赤くなったような気がする。
「よいよい。そうだ、私は劉玄徳だ。こっちの男は誰か分かるか?」
劉備は関羽を指差す。
「関、雲長?」
「おお、そうだ。関羽だ。関雲長だ」
劉備は大層喜んでいる。
だが、当てられた関羽は……
「ふん」
何を怒ってるんだこの人。
当てられたのがそんなに気に食わないのか?
「おい。俺は分かるよな? な、な、な!」
劉備を押し退けて馬鹿力が自分の顔を指差している。
これは間違って答えたほうが良いのだろうか?
誰が良いかな。
「ちょう……」
「そう、そう。ちょう…」
張飛が嬉しそうな顔で見ている。
「張、翼徳?」
「ちがーう!俺は益徳だ!張益徳!何で俺だけ違うんだよ!」
張飛が地面を踏んで悔しがる。
そうか、演義とは違うのか?
「ふははは、良かったな、益徳。お前だけ覚えてなかったぞ。ははは」
「関兄、そりゃないぜ」
関羽は張飛を覚えてなかったのがよほど嬉しかったのか大きな声で笑っている。
そして張飛は肩を落としている。
「ふふふ、益徳大丈夫だ。劉封はわざと間違えたのだ。ちゃんとお前の事を覚えているよ。劉封は」
「な、なに! そうなのか?」
張飛が俺に顔を寄せる。
近い、近い、近い。それにおっかない。
「す、すみません」
俺は素直に謝った。
「お、おう。次は間違えるなよな」
張飛は腕組みして顔を背ける。
顔がちょっと赤い。どこのツンデレだよ。
自己紹介が終わるとそこからは雑談だ。
劉備がどこか痛い所はないのかと聞くと、張飛に叩かれた背中が痛いと答えた。
すると関羽がその程度の事を痛がるなと言うと、張飛はすまなそうな顔をして悪かったと謝る。
なんか暖かい。
初めて会ったはずなのに初めてじゃない感じがする。
関平は俺達から少し離れて俺を見ている。
少し安心したのか微笑んでいる。
笑顔で劉備達と話をしていると誰かがやって来たようだ。
関平が人が来たのを気づいて戸を開ける。
「おお、御主君。ここに居ましたか。どこに行ったのかと探しましたぞ。うん?おお、劉封殿。目を覚ましたのだな。良かった」
誰だろうこの人?
「それはすまなかったな子龍。そうだ、劉封。子龍は分からないか?」
「へっ、子龍? 趙子龍ですか?」
この人が趙雲か?
背丈は関羽と同じくらいか。
漫画やゲームだとイケメンに描かれてるけど実際は普通の人だな。イケメンじゃない。
「ははは、益徳。子龍は覚えていたようだぞ。ははは」
「覚えたよ!覚えたよな。劉封?」
「?」
趙雲は何の事か分かっていなかったようで、小首を傾げている。
そこに関平が耳打ちしている。
「なんと!記憶を無くしているのか?」
「ああ、大丈夫だ子龍。私達の事を覚えているのだ。直ぐに他の者も思い出すさ」
「益徳は覚えてなかったみたいだがな?ははは」
「関兄はその顔と髭が有るから分かったんだ!」
「お前はその髭が有るのに覚えてもらってないじゃないか。ははは」
「ち、ちきしょう」
関羽は張飛を弄るのが好きなんだな。
劉備と趙雲が苦笑してるから、いつもの光景なのだろう。
皆が笑っている。
とそこにまた人がやって来たようだ。
「皆さんこちらでしたか。劉備様。政務が貯まっております。急ぎお戻り下さいませ」
その男が入ってきた瞬間。
賑やかだった雰囲気が突然沈んでしまう。
「ちっ。孔明。少しは場を考えろ!劉封が目を覚ましたんで兄ぃはこの部屋に来たんだ。お前も何か言う事はないのか?」
張飛が声を荒げている。明らかに怒っている。
そして劉備はそれを見て困った顔をし、関羽はばつの悪そうな顔をしている。
関平と趙雲は笑顔から真顔に変わった。
張飛が食って掛かっているこの男は誰だ?
孔明か? もしかしてこの男が孔明?
見れば孔明はこの中で一番背が高い。
そしてイケメンだ。
この中で一番顔の造形が整っている。
しかしトレードマークの綸巾(頭に被る帽子のような物)と羽扇は持ってない。
孔明と思われる男は涼しげな目をして周りを見渡すと……
「ああ、そうでしたな。劉封殿、目を覚ましたのですね。それは良かった」
なんか冷たい声だ。全然良かったって顔をしていない。
そして孔明と俺の目が合った。
ドクン!
なんだ? なんだこれは?
俺は胸を押さえた。
「おいどうした?劉封!劉封!」
俺の異変に気付いた張飛が俺の肩を掴む。
はぁ、はぁ、はぁ。
い、息が苦しい。こ、呼吸が出来ない。
「劉封!大丈夫か、劉封!!」
劉備の声が聞こえる。
「しっかりせんか劉封!」
関羽が俺を心配している。
ドクン、ドクン、ドクン。
心臓が高鳴る。
そして俺の意識はまた途絶えた。
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