灰色の少女
新ヒロインです。
俺達は、ようやく『辿り着いた』
それがゴールかは分からない……が、もう上はない。
この塔の、ここが最上階。
身体の震えが止まらない。やっと、やっと分かる気がするんだ。
ここは何処なのか?なぜこのような特殊な場所が存在しているのか。
きっと、この場所で何かが分かる。
それはこの地の地理か、謎か、脱出方法か。
そしてそれを、ずっと俺達は探してきたんだ。
最上階。俺は、最後の扉に向かう。
「『増幅』」
光る鍵を、鍵穴に押し付ければ……最後のドアが開く。
―――――――――――――――
「――っ!?」
扉を開けた先の空間。
そこには不気味な程に生活感の無い、しかし『人』の部屋だった。
ソファーにベッド、テレビにキッチンや書斎まで。
これまでのような場所とは全く異なる、違和感のある空間。
そして、一番の衝撃は。
「……か、帰って」
『彼女』は、動かない犬の造形の機械を抱え、震えながら俺達に告げる。
『灰色の少女』。その言葉が彼女にはピッタリだった。
不気味な程に美しく白い肌。
黒と白が均等に溶け込んだ、綺麗な灰色の頭髪と、眼。
俺達より二回りも小さい、小さな身体。
光を失った虚ろな目。
――明確な、敵対心。拒絶反応。
「いや、俺達は――」
「――出て行って!」
俺が何を言っても、恐らく何も進展しない。
そんな反応。その表情。
フラッシュバック。むしろ、それよりも酷いかもしれない。
「っ……」
唾を飲み込む。
俺は、この少女にどう声を掛けたらいい?
「――」
拒絶の視線。
「俺達は――」
『敵じゃない』
そう言いかけて淀む。
彼女が抱えているのは、俺達がずっと倒してきた機械の化け物そのもの。
まるでそれは、とても大切な、仲間のように。
何を言おうとしてるんだ……俺は。
「俺の言葉は、分かるのか?」
「……っ」
少女は顔を背ける。
この反応なら分かっているのだろう。
だが、それでどうする。俺はどんな言葉を言えばいい。
頭が言葉を探す。
見つからない。探すつもりが、すべてごちゃごちゃになって分からなくなる。
「出て行って!」
引き戻す少女の声。
「っ、そうか、そうだよな……行こう、樹」
今の俺は、ただの侵入者だ。この子を怖がらせただけだ。
後ろに向く。
心配そうな樹の手を引き、俺達はその部屋を後にした。
―――――――――――
扉を閉める。
「……どう思う?樹。あの子の事」
答えを見つけられなかった俺は、樹に助けを求める。
「……」
黙って考え込む樹。
樹は、あの光景がどう見えていたんだろうか。
「……僕は、凄く寂しそうに、見えたかな」
樹はそう、静かに答える。
『寂しい』、か。
あの子はずっと一人だったのだろうか。何年も、もしかしたら十何年も。
分からない。
だが、俺なら寂しいと思う。
「そっか、そうだよな」
俺は――何を考えてるんだ。樹に聞かずとも分かってるだろ。
……あの灰色の彼女の表情を見た時から、ずっと脳裏にチラついていた『俺自身』。
父さんを亡くした時の、昔の俺の顔そっくりだったろ……彼女は。
「あのさ、樹」
人目見た時から、俺はあの子を――――――
「……?」
「ごめん、ちょっと待っててくれ!」
まとまった答えなんていらない。
俺の気持ちを、ただ伝えれば良いんだ。
あの時の俺と一緒なら――きっと、あの子は助けを求めている。
だから。
この灰色の土地の謎も、この場所の事も、今はどうでも良い。
浮かぶのは、あの少女。
あの表情だ。
戻ろうとした道を引き返して、さっきの部屋に走っていく。
鍵は、掛かっていなかった。
―――――――――――
「はあ、はあ……」
息切れする自分を抑えて、少女へ向く。
彼女は驚いているが、こちらには向かない。
小さな背中の向こうは、きっとあの表情なのだろう。
「……ごめん。俺は、君の仲間を殺してしまった」
俺は大きく頭を下げた。
「ただ――それは生き延びる為だった。君を殺そうだとか、この地を略奪する為だとかじゃないんだ」
そのまま俺は言葉を並べていく。
「この場所に初めて出会った時、俺は凄く感動したんだ。この枯れた灰色の地に、こんな壮大で綺麗な場所があるんだなって」
「そして俺は、この場所をもっと知りたいと思った……それで、中央のこの塔を目指して歩いて、そして登り続けた」
「最上階、それで俺は今、この地で君と出会ったんだ。だから――」
後ろに向いて、黙り込む少女。
しかし、言葉の節々でピクリと肩が動いていた。
「――俺は、君の事が知りたい。君と、俺とで色んな話がしたい、そう思ってる」
何一つ曇りない、俺の本心。真正面から言いたい事を伝えた。
気持ちが伝わったかは分からない。
でも、この行動が悪い方向へは行かないはずだ。
「……だから、さ。また来ていいかな」
現れる沈黙。
俺は彼女の言葉を待つことしか出来ない。
「……」
だが、逃げない。
厚かましいなんて言われても、俺は彼女の『言葉』を待つ。
きっとそれは、彼女の気持ちを表す。
「……す、好きに、したら」
――背を向けたままの少女は、弱々しくもそう呟いた。
沢山のアクセスにブックマーク、評価までして頂いた方……本当にありがとうございます。
おかげ様で50万PV、1000ポイントが夢では無くなってきました……
これからも応援していただけると嬉しいです!




