鍵
戦車を倒した後、俺達は塔の方へと進む。
近付けば近付く程大きく感じていたが、こうして目の前になると一層だ。
散りばめられた青いライトが俺達を照らすが、もう戦車以外機械は見当たらない。
「あいつが、この塔の守護者だったのかもな」
結局いつか対峙していたのなら、今倒せて良かったのかもしれない。
しかし油断は大敵。
「樹、また何か魔力を感じたら教えてくれ」
樹は魔力量が多いからか、そういう感知に優れている。
俺もこれまでの経験で大分殺意に気付けたが、樹の方が優秀だ。
「……」
任せて、というように頷く樹。
俺はそれを確認してから、塔の周囲を散策する。
この塔は、周辺は特に何もないように見える……先程の戦車が戦いやすいようにだろうか?平らな地面が塔の周りを囲っているようだ。
今のところ入口は見当たらないが――どこかに必ずあるはず。
―――――――――――
「……これが、鍵っぽいな」
塔の周囲を歩き回るのを繰り返し一時間程。
これだけ巨大だと、入口を見つけるのが億劫だ。
でも、苦労の甲斐あって、それっぽい所を見つけることが出来た。
全体の大きさの割に、かなり小さなドアのような場所。
まるで隠されたかのようにあったそれは、最初は通り過ぎて二周目にやっと気付く事が出来た。
そしてそのドアノブのようなものには、小さな『何かを差し込む』所があった。
こんな機械の町に似合わない、違和感のあるその穴。
「……鍵?」
樹は『それ』を見てそう呟く。
「かもしれない」
ドアノブらしきものを回すものの、やはり開かない。
どうする?壊してしまうか?……いいや。恐らくこれはそんな柔いものじゃない。
この塔の入口……相当厳重なのだろう。それに、無理やり入ろうとして『何か』に感知されたらそれこそ不味い。
「……どうしたもんか」
考える。
恐らく入口はここだけ。何処かに鍵が落ちているわけもないし……
……ん?鍵?
「……藍君?」
「……いや、そんな、まさかな」
突然カバンをごそごそしだす俺に、樹が不思議そうな顔をする。
俺がしようとしている事は、かなり現実味のない事。
ただリスクもない。いや……リスクはあるか。もし変なものをこの穴に突っ込めば……アラームみたいなものが鳴るかもしれないな。
「うーん」
「……?」
このまま止まっていても時間が過ぎるだけ。
また戦車のようなヤツが出てきたら面倒だ……よし。
「樹、ちょっと試したい事がある。もし失敗したらすぐ逃げるぞ」
「……!」
頷く樹を確認して、俺はカバンの奥から『あるモノ』を取り出す。
金属で出来たそれは、軽く手に握れる程小さい。
平で、大小形状それぞれ様々な凹凸のブレードに、丸い頭部。
……そう、俺の家の鍵だ。別に特別でもなんでもない。
使う事ないなんて思っていたから……かなりカバンの奥にあった。
まあでも俺の能力はモノの力を増幅させる――可能性はある。
これでもし解錠する事が出来たら、それこそ窃盗をやりたい放題なんだが……無論そんなことしないけどさ。
ただこれも、かなりの不法侵入だ。まあ今回はしょうがない。
人はいないはずだし、いたらその時だ。
誰か中にいたら謝ろう……
「よし」
期待は一割程度。
逃げる準備だけしておく。
「『増幅』」
俺は、手に持った鍵に魔力を込める。
すると、金属で光沢があった鍵が、詠唱と共に更に光る。
そして。
「どうだ……?」
俺は勢いままに、その穴へ突っ込んだ。
「っ!」
……は、入ったぞ。
違和感などなかった。
この勢いのまま。
そのまま頭部を回して――――
―――――ガチャ
「あ、え、開いたのか……」
まさか開くとは思わなかった。
これは……ピッキング、と呼んでいいのか?
「……!」
影から覗く樹も、茫然としている。
いやまあ、そりゃそうだよな……色んな意味で俺の能力は悪用出来そうだ。
勿論やらないけど。
「……まあいいか」
少し自分の能力にびっくりしたが、入れるのであればそれでいい。
警告音なども聞こえない。これは大丈夫そうかな……
「……」
俺の傍に寄る樹。
樹は準備万端の様。
……さて、行こうか!
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