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増幅使いの這い上がり  作者: aaa168(スリーエー)
『機灰の孤島』編
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二の狼

俺達は、灰色の土地を歩いていく。


先程までの機械達の騒々しさが嘘のように、静かな道中だった。


灰色の地面は変わる事無く、ずっと続いている。


何者にも出会う事無い道。



「何も居ないな……」



そんな事を自然と呟いてしまう程、平和なのだ。



「……」



横を見れば、青く透明な杖を構えている樹。



「そういや、樹は自分でその杖を選んだのか?綺麗だよな」



武器は性能も大事だが、見た目も同じくらい大事だ。


見た目でやる気とか結構変わるからな。


俺のスタッフは……無惨な姿に変わってしまったが。



「……マール、先生に……」



そう言う樹。


マール先生か、そういやこのスタッフもあの人に勧められたんだっけな。


……あの人は、色んな人に杖を勧めていたのだろう。



「はは、樹によく似合ってるよ。マール先生はセンスが良いな」



樹は、個人的にだが派手な装飾が施された杖は似合わなそうだ。


だからこそ、綺麗な単色のこの杖は……樹にピッタリだと思う。


青色ってのも樹に凄く似合ってるな、うん。



「……藍、君の杖も……」



俺が樹の杖を見ていると、俯きながらもそう言ってくれる樹。



「はは、ありがとうな。俺も結構気に入ってるんだ」



手に入れた時から、ずっとこのスタッフで戦ってきたんだ。


愛着も湧くし、折れた今でも役に立ってくれている。


はは、折れた今の方がこの杖に合ってるんじゃないだろうか。


二つの内持ち手だけの方は刃を創造して剣に、もう一方はそのまま鈍器として。


うん、かなり使い勝手が良いと思ってる。


……本当に、マール先生には感謝するよ。



「だから、本当にありがとうな。樹が俺の元に来てくれなかったら……もうこれを握る事も無かったかもしれない」



鞄からスタッフを取り出し、握って見せる。


実際、そうだしな。


ここに来て俺の元にあったのは、制服とライターの二つだけだ。



「…………」



少し目があったと思えば、また俯いて顔を紅くする樹。


よく見れば、小さく微笑んでいるのが見えた。


嬉しいのと照れているのが半分半分で交わっているような、そんな感じの表情。


俺は……いつの間にか、そんな樹の表情を見つめてしまっていた。


釘付けってやつだろう。



……正直な所、かなり樹の笑っている顔は可愛い。


俺の鼓動が、乱れる程に。



「……ふう……」



深呼吸する。


だめだだめだ、落ち着け俺。


この鼓動を治めなければ。


「……?」


不思議そうに、こちらを覗き込む樹。


そりゃそうだ、いきなり深呼吸だもんな。



「はは、何でもない。気を引き締めて行こう」



俺は、自分へと言い聞かせるようにそう言った。


―――――――――――


灰色の道は、あれからも何も出てこない。


「本当に、何もないな……」


一体終わりは何処にあるんだろうか、そんな不安が出て来たそんな時。



「――!」


聞き覚えのある、機械音。


警戒し近付き見えたのは、狼のような見た目の機械の化け物。


……だけでは無く、対峙するもう一つの影があった。


遠目で見れば、もう一匹。


しかし、近付いて見ればそれは金属の造形では無い、皮膚も肉も付いている『生物』だった。


そしてそれが分かる頃には……もう、『生物』の狼は、息絶えていて。





「……――」





『機械』の狼は、ゆっくりとこちらを向く。



『生物』だったモノを、吐き捨てて。



「……樹、多分、初の戦闘になる」



そう、狼を見据えながら後ろにいる樹に言う。


「……」


この沈黙は、大丈夫という事だろう。



「――!」



スチームを吹き出したと思えば、猛スピードで向かってくる機械の狼。


スピードが、蜘蛛の時とは大違いだ。



「……狼の形してるだけあって、速度特化って事か」



そう呟き、俺は鞄の中からスタッフの持ち手では無い方を取り出して構えた。鞄は邪魔なので地面に放っておく。


……意外と、持ち手が無くても安定するな。


同時に身体に、薄い光のベールのような物が包まれた。何となく鎧のような感覚がする。恐らく樹の補助魔法だろう。


「――――!」


迫る狼に、俺は動く事は無い。


攻撃方法はさっき見た噛み付きだろう……な

ら、真正面からカウンターを決める。


「『増幅』、『付加』……来い!」


ライターを着火、詠唱による炎を身体に纏う。


油断はしない、初めて見る敵なんだ。



「――!」



口を開け、突っ込んでくる狼。


読み通り俺の頭に噛み付いてこようとする口に、容赦なくスタッフを振る。



「……あれを、避けるのか」



当たったと思った俺の攻撃は――間一髪、外れた。


寸前で俺の攻撃を避け、距離を取る狼。



「――……」



しかし無傷ではないようで、機械の足が一本無くなっていた。



「助かったよ、樹」



俺も――樹の魔法が無ければ無傷ではなかったようで。


狼は回避と同時に牙を俺に飛ばしたのだろう。


光のベールが消えると同時に、鋭く尖った金属が足元に落ちていた。



「――――……」



負傷ゼロの俺『達』と、足を一本無くした狼。


そんな状況で狼は負けを悟ったのか、振り向き逃げようとする。



「……!」


そんな狼に容赦なく、一瞬で光輝く壁が立ち聳えた。



「完璧だ、樹」



狼に逃げ場は――もう無い。

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