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増幅使いの這い上がり  作者: aaa168(スリーエー)
『機灰の孤島』編
72/127

脱出

なんとか出来ました。

「……」



樹は、俺の身体に抱き着いたまま動かない。


俺の服は、樹の涙で淡く濡れていた。



「ごめんな、樹。もう絶対に俺は……樹を置いていかないから」



俺は樹の頭を撫でながらそう言う。


どれだけの心配や悲しさを、樹に味わわせてしまったのだろうか。


本当に俺は、全てを間違えていたようだ。



「……」



頭を撫でると共に、涙は収まってきたようだったが。


俺を確かめるように抱き締める強さは強くなる。



「……ほん、と……に?」



切れてしまいそうな、糸のような細い声。


顔を俺の身体に押し付けたまま、そう呟く樹。



「ああ」



俺がそう答えると、樹は安心したのか抱き締めていた身体を離す。




「……」




離れた樹と目線が合う。


泣いていたせいか、頬が火照り目も潤っている樹。


そんな樹に、俺はなんと言えばいいのだろうか。




《「俺がお前を守るから」》




それはかつて、俺が言っていた台詞。


しかし……今の俺は、樹にこれでもかと言うぐらいに守られている。




方法は全く分からないが、樹が来てくれなかったら、俺は――死んでいただろう。




だから……今は『守る』なんて言えない。


俺がそれを言える程強くなった時に、その台詞は取っておこうか。



「改めて……よろしくな、樹」



そう、俺は手を差し出す。


「……」


樹は恥ずかしそうに、俯きながら俺の手に小さな手を合わせようとした。




――その時。




「――――――――!」




壁を破り、こちらへ近付いてくる機械の化け物達。



「ほんと空気読めないな、こいつらは……」



そう溢す俺。


樹は、不安そうな眼差しでこちらを見ている。



「大丈夫だ。樹が居てくれるなら。……後で、回復頼んだぞ」



俺は、そう樹に言う。



「……」



嬉しそうな表情をした後、こくりと頷く樹。


その表情が、俺にはどうしようもなくなる程俺に気力を沸かしてくれる。



「――――――!」



見れば壁があちこちから壊れ、化け物達が波のようにこちらへ向かってきていた。


さっきまでは絶望の光景だったそれは、樹のおかげか全くそう感じない。


さて、一丁脱出と行こうか。



「……んっ」



俺の考えを読んだ様に、樹は俺の背中に来てくれる。



「ちゃんと捕まっとけよ。樹」



樹を背負い、背中の樹にそう言うと、手足を強く絡ませる樹。


うん、その、柔らかい感触が……駄目だ駄目だ。



「……『増幅』」



俺は深呼吸した後、ライターを着火し詠唱する。


何時ものように身体全体に蒼炎を纏うのではなく、足と靴だけに纏う。



……よし、行くぞ。



地面を蹴り、猛スピードで化け物の波へと走る。



やがて、化け物にぶつかろうとするぎりぎりまで加速した後。



――俺は思いっ切り地面を蹴り、斜め上に跳ぶ。




蒼炎で強化された靴のおかげだろうか、化け物の遥か頭上まで跳ぶ事が出来た。


化け物との距離が、あっという間に離れていく。



「――……」



小さくなる化け物の鳴き声。



見れば、俺達を追ってくるようだが……これで、終わりだ。




――想像する理想像は、ロケットブーツ。



魔力を靴底から噴出し、それに炎を着火する事で推力を上げるイメージ。






「『噴射(ジェット)』!」






イメージが詠唱と重なり合い、多量の魔力が削れていく感覚。




だが、そんな事は全く気にならなかった。



何故なら……今、俺達は空を飛んでいるから。




「はは、見ろ樹!俺達飛んでるぞ!




興奮の余りか俺は、背中の樹に声をかける。



「う、ん」



樹は風を切る感覚が気に入っているのか、目を細めて気持ち良さそうな表情でそう言う。


化け物を置き去りにしながら、空を飛んでいく俺達。




……気付けばもう、化け物達は追ってこなかった。

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