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増幅使いの這い上がり  作者: aaa168(スリーエー)
『機灰の孤島』編
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絶望

間違いなく、こいつは――敵だ。


倒さなければ。



じりじりと迫る蜘蛛の化け物に、俺は構える。




「――『纏』、らあ!」




俺は一瞬で魔力を纏い、蹴りを爪に放つ。




「ぐっ……駄目か」



やはり、見た目通りその身体は硬かった。



俺の攻撃は弾かれ、反撃とばかりに蜘蛛が俺に爪を突き立てる。



「――っ」


何とか避け、俺はポケットのライターを取り出した。


少ない魔力だ、使いたくなかったが……しょうがない。


出し惜しみをすれば、俺の命が無いからな。



「『増幅』」




詠唱。


火を身体に宿し距離を取る。


あの金属は恐らく普通に攻撃しても無駄だ。



なら――炎で、あの爪を焼き切るイメージ。



スタッフがあればもっと楽なんだが……しょうがない。



「頼んだぞ、俺の炎」



俺は願うよう、そうライターに呟く。



そして……蜘蛛がこちらに向かってくるのを確認し。





「集」





身体に宿した炎を、ライターにもう一度集め、宿らせる。


炎は凝縮され、凄まじい勢いとなった。



それを確認した後前を見据え、唾を飲み込み集中する。




「――!」




やがて蜘蛛は、最初に聞いた機械音を発した。


俺は腰を低くし、ライターを構える。



……来るか。





「――創造」




詠唱により爪が炎とぶつかる一瞬だけ、火を刃へと変える。





「やった、か」





蜘蛛の爪は、俺の刃により切断された。


気のせいか……蜘蛛が怯んでいる様に見える。



今のうちに、叩き込む!



「っらあ!」



蜘蛛の胴体の部分に、靴へ魔力を込めた蹴りを放つ。


一発、二発、三発四発五発。



靴により強化された俺の蹴りは、蜘蛛へと確実にダメージが入ったらしく。




「――……」




蜘蛛の機械音が、だんだんと弱っていった。


目の光も失っていっている。


保っていた手足も次々と力を失い、倒れる。



「はあ、はあ……なんとかなったか」




今目の前では、死に掛けの蜘蛛がいる。



……一応、止めを刺し――



「――っ!」



蜘蛛は最後の攻撃とばかりに、口の部分から針のような物を吐き出す。



「危なかったな……」



なんとか避けると、蜘蛛はもう動かなくなったようで。



行くか、と思い――蜘蛛から目を離し。





――――周りを見た俺は、絶望する。








「嘘、だろ――嘘だ、こんなの――」







見れば、『光』が俺の周り一体に現れているのだ。



蜘蛛が発していたような光が、何十、何百と。


一体何が居るのか分からない。数が多すぎて、何が何か分からないんだ。





――俺はもう、幾多の『敵』に標的にされている。



俺は絶望で、どうにかなってしまいそうだった。





「……――」




聞こえる近づいてくる機械音。逃げることは叶わない。



俺はもう……戦う気力を失ってしまっていて。






俺の選択は、何もかも間違いだったみたいだ。







「――ごめんな、樹――」





天を仰ぎ、そう告げる。


この絶望には太刀打ちできない。


もう、駄目だ。



「――――――!」



迫り来る、機械音。



――俺は、それを受け入れるよう、眼を瞑った。







―――――――――――――――――










―――――――――――――――――






………………なのに、何故。




何故今俺は――生きているんだ。




目を開ければ、俺の周り一帯が全く違う光景になっていて。



聖なる光を放つ巨大な防壁が、さっきまでの絶望の光景を遮断するよう立ち塞いでいる。



防壁は俺を包むように、大きなドームのように造られていた。



先ほどとは別世界のような、聖なる光が俺を照らす空間。







こんな事が、出来るのは。俺が知っているのは。



俺は――まさかと思い後ろを振り返る。






――――――「藍、君」――――――






その『声』を、俺は知っている。





その『顔』を、俺は知っている。





その『少女』を――俺は。






「『樹』」






俺は、確かめるよう少女の名前を告げた。






「もう、何処へ、も、行かない、よね?」






そう涙を流しながら、俺の身体に抱きついてくる樹。






「ああ、もう――間違えない」



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