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増幅使いの這い上がり  作者: aaa168(スリーエー)
『機灰の孤島』編
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転地

浮遊感は未だに続いている。


景色は、未だ光に包まれているせいで見えない。





《「後悔すんじゃねえぞ」》





転移際に聞いたあの言葉。



俺は嫌でも、その言葉を何度も思い返す事だろう。


でも、もうしょうがない。


俺は何が何でも生きて――強くならなければ。



「ぐっ!」



突如、光は消え、『何処か』の地面に放り出された。





最初に感じた変化は、気温。


王国の温暖だった心地良い気温ではない。


太陽の温もりが無く、肌寒い。





次に感じた変化は、視界。


太陽は照っておらず、曇っているように薄暗い。


そして何よりも、地面が……『灰色』だった。



草木は生えておらず、生き物がいる気配が全くない。


風景は灰色の靄がかかって、先が見えなかった。






最悪の結果が、俺の頭を掻き回していく。





――もしかすると、ここは。



……いや、大丈夫だ、まだ決まった訳じゃない。




とりあえず進むだけ進もう。


もしかすると、誰かいるかもしれない。



――――――――――――――――



宛もなく、一定の方向へ歩き続ける。


灰色にまみれた枯れた木々や、棒切れのようなもの。


俺が何十分か歩いて見たものは、それだけ。


風景は何も変わらず、俺が歩いているのかどうかも不安になるほどだ。





「――」




ふと、向こうで音がした。


何かが、『誰か』が、動いているような音。




――もしかしたら。


希望が、俺の頭に浮かんだ。


走って音の方向へと向かう。






音の場所の方向に近づくと、何かが光っていた。


こんな暗い所だ、もしかすると明かりを照らしているのか?



―――――――――――――




走って数十秒、その光の正体が見えて。



「おいおい、嘘だろ」



目の前にある『モノ』に、俺はそう溢すしかなかった。




それは、金属で形作られた……『犬』のようなモノ。



金属の骨格が、まるで生きているように動いている、歩いている。


俺が見た光は、眼の部分が光っていたからだった。



「――!」



それは俺に気付いたようで、目をこちらに向けてくる。


機械音のような、何か回転する音が木霊す。


俺は少しだけ、身構えた。……襲ってくるか?




機械音が次第に大きくなったと思うと、犬は元の歩いていた方向へ向きを変えて、走っていく。



凄まじいスピードで、あっという間に灰色の靄へ消えてしまった。




「なんだってんだ、ここは」



そう呟いても、誰もいない。


音もまた、無音になってしまった。


……あの犬に、着いて行くべきだったか。



――――――――――



歩いていく内に、俺は少し冷静になれた。


ここがどういう場所かは全く分からないが……取り合えず、何かがある。


それが希望なのか、絶望なのかは分からないが。





ああ……そういえば荷物。


肩にいつもあったバッグがない、まあそりゃそうか。



アルスの部屋にあるのだろう、惜しい。


武器も無い。折れたスタッフは、アルスは捨ててしまっただろうか。


……ライターは。




「……良かった」




何もかも無いと思っていたが、ライターだけはポケットに入っていたようで。


でも、それだけだ。



《「後悔すんじゃねえぞ」》



はは……さっそくしてしまったな。




『後悔』、か。


ふと――樹の顔が浮かぶ。



樹は、元気にしているだろうか。


樹は、俺が勝手に転移した事に、怒っているだろうか、悲しんでいるだろうか。




……駄目だ。



考えれば考える程、俺のあの時の判断が鈍っていく。


アルスの、あの時の最後の言葉が、俺の頭に張り付いて来る。




「くそっ、どうすりゃ良かったんだよ、俺は!」




あてもなく、灰色の空に俺は叫んだ。



「はあ、はあ……」



叫んだ事で、少しスッキリしたが……ちょっと疲れた。


はは、俺は何をやって――






「―――――!」






突如、右耳を――劈くような機械音。





刹那。




「――っ!」



第六感が、避けるべきだと。




俺は……出来る限りの力で、左に飛んだ。



「……な」




眼前に迫る『ソレ』に、身体が固まる。



俺の身体程ある、鋭い爪のようなモノが、数センチ先で――地面に刺さっていた。




そしてその主は三メートル程ある、金属の蜘蛛のようなシルエット。




爪のように見えたのは、この化物の手足であったらしく。


八つの爪を地面に突き立て、この場に立っているようだ。




「――……」




機械音をばら撒きながらスチームのようなものを噴出し、俺に迫る。


眼の部分は淡く光っており、何個もある眼が俺に向けられていた。




「言葉は……通じないよな」



俺は諦めるようにそう呟く。


応えるよう、爪を振り上げる蜘蛛の化物。




この灰色の地で、初めて戦う事になりそうだ。

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