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増幅使いの這い上がり  作者: aaa168(スリーエー)
『機灰の孤島』編
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後悔

――ここは――




ふと、目が覚めた。


俺は確か――そうだ、アルスと戦ってて……


い、樹はどうなったんだ。



まず俺は生きているのか?……大丈夫そうだ、心臓は動いている。


「――ふう」


深呼吸、深呼吸。


俺よ、一旦落ち着け。状況を整理するんだ。


周りを見ると、何処かの一室のようで。


特に特徴のない部屋。寝室だろうか?ランプが付いているという事は今は夜なのだろう。


一晩か二晩寝ていたか、それは分からないが……魔力は回復し、疲れも全て取れている。


今更気付いたんだが……俺はベッドに寝ていたようだ。



ふと、俺の足に何か当たる感覚。


「……ん……」


同時にそこから樹の声が聞こえた。


被せられていた布団を捲ると、樹が丸まって寝ている。


……樹は、布団の中に籠って寝るタイプか……


「あい、くん……いか、ない、で……」



それは寝言か、樹はそう泣きそうな声で言っていた。


俺の存在を示すよう、安心させるように頭を撫でてやる。


樹の髪はさらさらでした。



「……う、ん……」



樹は次第に、心地良さそうに寝息を立てていった。


どうやら落ち着いてくれたみたいである。



俺も樹の頭を撫でていたせいか、大分落ち着いたようだ。


……うん。


多分ここ、アルスの家だ。



「――おう、起きてたか」



俺にそんな考えが浮かんだ時、扉が開く。


アルスの声は、ついさっきまで戦っていた時とは全く異なり……敵意も殺意も感じなかった。



「俺のベッドは、大分寝心地が良かったようだ」



そう笑いながら、俺に近づいてくるアルス。


これ、アルスのベッドだったのね。



「来い。お前にだけ、話がある」



俺の前に立つと、アルスはそう言って扉を指す。



「分かりました」



間違いなく、今はアルスの事を聞くべきだ……そう判断し、俺はアルスと共に扉へと向かった。



――――――――――――――


扉から出て、階段を降り……リビングのような場所に出る。


生活観はあるものの、決して散らかっては居ない。



木の家具に包まれた、落ち着いた雰囲気の部屋だ。


アルスの部屋にしては意外だ。んじゃどんな部屋なら似合ってるんだって話だけども。



小さなテーブルに二つの椅子があり、アルスはそれに座る。


「さて、まあ座れ」


言葉通り、俺はアルスと対面する形で椅子に座る。



「率直に答えろ。お前はこれからどうなりたいんだ?」


真っ直ぐ俺を見て、アルスはそう言う。


「……っ」


不意の質問で言葉が詰まる。


今の俺が、どうしたいか。


そんな具体的な事は全然分からない。答えとしては間違っているかもしれないが……



「俺は……強くなりたいです」


これだけは、確かだ。



そう言うと、アルスは特に反応を見せず口を開く。



「そうか。……お前がこの先生き残る事が出来れば――嫌でも強くなれるぜ」



アルスは笑ってそう言う。



「それは……俺は一体、どうなるんですか?」



純粋に、疑問をぶつける。


「まず……知らねえと思うが、王国はもうお前の敵だ」


国という、とてつもない大きな組織が……俺の敵。


そのスケールの大きさにあまり実感が湧かないが、とてつもなく恐ろしいという事が分かる。


「はは、直ぐに懸賞金も懸かるだろうな。国の期待の勇者様を拐った極悪人。有名人じゃねーの」


そう笑いながら言うアルス。


極悪人、か。本当に予想もつかなかったな……こんな事になるなんて。


「お前が拐った女はな、魔力量に固有能力、どれを取っても王国が今……一番欲しいと言っても良い人材だ。そりゃそうなる」


運がなかったな、と笑いながら溢すアルス。


「はは、そうですか」


力の無い言葉しか出てこない。


当然だが、樹を連れ出した事に後悔は全く無いが……ここまで大事になるとは思ってもいなかった。


「まあそんなお前の不幸話は置いといて……そんな極悪人のお前は、もうこの土地から離れた方が良い。出来る限り、遠くへな」


そう言うアルス。



「遠く、ですか?」



遠くというのは曖昧だ。隣国か、世界の果てか。



「ああ、王国から大分離れないと駄目だろう。まあ当然、今からお前の足では無理ってのは分かるな?」



そう、アルスは言う。


「……はい」


そりゃそうだ、移動中追っ手に見つかってしまえば……どうなるかは分かる。



「――そこで、だ。俺が手を貸してやる」



それだけアルスは言うと、腰のポケットから何かを取り出し机に置く。


それはただの大きいガラス玉のように見える。


「これは転移石って言ってな。使えば瞬時に転移出来る。……何処まで行くかは知らねーけどな。まあ少なくともこの王国の支配下からはぶっ飛んだ所だろう」


そう、説明してくれるアルス。


俺にこの転移石を使わせてくれるという事だろう。しかし、これは……



「ああ、分かると思うがこれは失敗品だ。転移先が分からねえ転移石なんてゴミ同然。でもまあ、面白いだろ?」



そう言い、笑うアルス。


今更だがこの人は本当に変わってるな……


「つまり、俺はこのどれかの転移石を使って……行き先の分からない、何処かへ飛んで逃げるって事ですか?」


「ああ、理解が早いな。そういうこった」


頷き、そう問うアルス。


方角は……かなり大事だ。


東は一番安全に見える。西は……運が悪ければ魔族領土だ。南は遠くに行くと獣人族が居る所、安全とは言い難い。


……。


北は……一番駄目だろう。海を越えたら、未知の大陸しかない。たしか1000年……誰も足を踏み入れてないんだったか。


そして、何よりこれを使うという事は。



「長い間、ここには嫌でも戻ってこれねえ。最悪墓がその土地に立つぜ」


墓が立てば良いけどな、と笑いながら付け加えるアルス。



「それが嫌なら――ここ、王国の支配下の真ん中から、怯えながら逃げ出すんだな」


そう言い放つアルス。


俺は転移石を使う方が良いと感じる、アルスもその考えだろう。



「……有難うございます」



そう、俺は頭を下げる。恐らくアルスの助けがなければ、俺は国に捕まり……想像したくないな。



「おう、感謝しとけ」


俺に、軽くアルスはそう言う。


もしこの選択で、俺が――世界の彼方に飛んだとしても、俺はアルスを恨まない。


でも、それならたった一つ、アルスへ願いがある。





「樹を、お願いします」





頭を下げたまま、俺はその台詞を告げる。



「……ああ。お前の心配はもう無用だ、この一件で王国はあいつをさらに保護する。危険な目には合わない」



そうか、良かった。


はは……結果的に、樹がより安全になったんだな。


良かった、本当に。俺なんかといるより、よっぽどに。



そうだろう、俺。


…………これで、良かったんだ。




「お願いします、俺の、決、意、が、揺るがない……内に、お願い、します」


自分に言い聞かせるとは裏腹に、無理やり押しこんでいた悔しさと悲しさが、俺を襲う。


気付けば俺の眼から、涙が出ていた。



「お前は本当に――それで良いんだな?」



そう、容赦なく言うアルス。




「……」



声が、出てこない。



「俺はてっきり、死ぬ気で襲い掛かってくるかと思ったんだがな……期待外れか」



「……」



そりゃ、俺が強ければ。


樹を王国から連れ出して。


俺が、樹を守って。



「……」 



でも……嫌でも分かってしまったんだ、俺自身が、『弱い』ということに。


一般人以下の魔力量。


魔法適正の低さ。




これで一体、どう樹を守れるというんだ。


なら……強くならなきゃだめだろう、俺が、『一人で』。


強くなるのに、樹を巻き込んじゃ駄目だ、とてつもなく危険だから。



なんとか今までは誤魔化せた。


でも、アルスと戦った事で、俺の弱さはもう浮き彫りだ。



――何時か起こる可能性。


俺が足枷となり、樹が……そう考えるだけでもう、駄目なんだ。


もう、俺は――――


「俺は、『一人』じゃないと駄目なんです」



俺はそうアルスに言い転移石を手で持つ。




「馬鹿が。……そんなに一人が良いってんならな――さっさと行け!」




見たことのない、怒りの表情のアルスがそこに居て。


それはとてつもない剣幕で、俺は圧倒されてしまった。


「起動」


静かな、アルスの詠唱。


俺の手の中にある転移石が、光輝いていた。





「……お前が選択した事だ。後悔すんじゃねえぞ」




俺はいつの間にか転移石が発している光に包まれている。



――――――転移が、始まっているんだ。


感覚でそれが分かる。


どこか、知れない場所へ――もの凄い速さで移動していく。




アルスの忠告は、俺がこの部屋で聞く、最後の言葉となった。

とりあえず今日もう一話投稿頑張ります。行けるかな……

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