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増幅使いの這い上がり  作者: aaa168(スリーエー)
神野樹と、藍祐介
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夢のような

「……樹か?」


藍君の問いかける声、目が覚める。


気付いたら、僕は藍君のベッドで寝ていたようだ。


周りは真っ暗で……もう授業も終わったのだろうか?


「……」


寝起きの僕は、頭が働かずふらふらと藍君をぼーっと見る。


少しの沈黙。


「……はは」


藍君が笑う。


それが終われば、ゆっくりと静かな時間が流れていく。


温かい、心地よい時間。


……しばらくして。


僕を見つめる、藍君の目から涙が流れていく。


それは、藍君がこれまでに抑えてきたものが落ちていくようだった。


クラスで自分だけ低い能力であること、魔法が使えないこと、王宮から追い出されること、クラスメイトの視線、これからのこと、他にも様々な苦悩を藍君は抑えてきたんだろう。


「ご、ごめんな、これは」


藍君は泣きながら、僕にそう言う。


初めて見る藍君の涙に、僕は思っていたより動揺しなかった。


……僕が、今の藍君に出来ることはなんだろう。


「…………んっ」


少し考えた後、藍君に抱き付いた。


もし僕が同じ状況なら、藍君にそうしてくれたら嬉しいから……そう思ったからだ。


藍君は僕の突然の抱擁に驚く様子もなく、そのまま腕を僕の背中に回す。


「……ありがとな、樹。このままいてもいいか?」


そう言う、藍君に。


僕は凄く愛おしくなって、もっと抱き締める。


「……うん」


それは、僕の口から自然と出た。


同時に藍君も僕を抱き締め返す。


薄い寝起きの僕の意識が、やがて落ちるまでそれは続いた。


――――――――――――


「……」


僕は、目が覚める。


さっきまでの事は……夢?


余りにも現実とかけ離れた行為が行われていた。


いやその、僕と藍君がしてたんだけど。


僕、藍君に抱き着いて……それに藍君も僕を……


顔がどんどんと紅くなっていくのを感じた。


魔力回復は、あれは、いやあれも凄く駄目だけど、さっきのは違う。


僕が一方的にしたんじゃなく、藍君もまた僕を抱き締めてたんだ。


「……ぅ……」


ベッドに倒れて項垂れる。


香る藍君のにおいで、また顔が紅くなるのを感じた。


同時に頭もまわってくる。


夢じゃない、きちんと、あの時の藍君が僕を抱き締め返した時の感覚が残っていた。


藍君の涙の光景も、僕のあの時の思考もどんどんと戻ってきたよ……。


僕は、一度頭を冷やすべく考える事をやめる。


……


……藍君の匂い、本当に良い匂いだなあ……


って、なにしてるんだ僕は。早く自分の部屋に戻らなきゃ。


今藍君に会ったら、その、何も出来ずに顔を背けて動けないだろう……


どこかへ行っているんだろうか?良かったけど……


急いでドアに向かって、出た後自分の部屋に戻った。


「はぁ、はぁ……」


息切れしながら自分の部屋のドアを閉める。


僕は、ベッドに飛び込んだ。


「……」


さっきまであった藍君の温もりと匂いはもうない。


ちょっと、さびしくなってしまう。


「……」


毛布のようなものにくるまり、僕は目を閉じる。


藍君、本当に回復してくれてよかった。


それはいいけど、僕、当分顔見れそうにないよ……


紅くなりながら僕は意識を落としていく。


明日からはまた魔法の訓練だ、頑張らないと……


―――――――――――――――


朝。


凄く良い目覚めだ。


……昨日、あんな事があったからかな。


寝たら少しだけ落ち着いたようで、僕はぼーっとしながら立った。


藍君は、僕がベッドにいない事で、何か考えてるだろうか。


僕がいない朝に、ほんの少しでも寂しいと思ってて欲しい、そんな我が儘を考えながら顔を洗う。


「……」


……僕、なに考えてるんだろ……


顔を拭きながら我に帰り、同時に時計を見た。


もう授業が始まる時間だ。


――――――――――――――


昨日は昼からいなかったけど、意外とあんまり進んでいないみたいで。


中級魔法は数が多く得意なものを取得していけばいいらしい。


僕は聖属適正が高かったおかげもあり、教えてもらった魔法は全部出来てしまった。


例えば。


ホーリーバリアより範囲が広い、聖壁を築くホーリーウォール。


範囲が凄く小さい代わりに耐久力があるホーリーシールド。


防御魔法だけでも、まだまだ有るらしい。


しかし、回復魔法は、教えてもらったのはあの時のホーリーヒールのみだ。早く知りたいなあ……


マール先生はクラスメイトが躓く事があまり無いため、どんどん新しい魔法を教えてくれた。


そんなこんなで一日は早く、あっという間に過ぎて行く。


「そろそろおしまいかな!皆お疲れー!吸収ほんと早いね、びっくりしちゃうよ……」


授業も終わり、マール先生はそう言ってくれた。


クラスメイトは得意気にしながら、訓練室を後にしていく。


「よっ!昨日は大丈夫だったかい?昼からいなかったけど……」


前と同様、マール先生に声をかけられた。


「……」


頷くと、マール先生は満足気に笑う。


「実は今日、ずっと見てなかったユウスケ君が元気に走り回っててさ」


意味ありげに、それだけ言った後溜めを作る。


「……そういえば、お昼にいなかったよね、君のおかげかな?ふふ」



悪戯に笑い、そう言ったマール先生。


「……」


僕は顔を隠すために、俯く。これじゃ肯定してるのと一緒だ……


「はは、別に照れることないって!んじゃーね!」


マール先生は本当に鋭いというか、何というか。


そんな事を考えながら僕も訓練室を後にした。


このまま、食堂行こうかな。


――――――――――――――――


食堂はもう、かなり人がいた。


マール先生と話していて、時間が経っていたからかな?


人が居ない、端の方の席に移動しようとした時。


「――うー、今日はちょっと魔力使いすぎてしんどい……」


「はは、雫も頑張ってんだな」


「当たり前だよー!そういえば先生がね、私が出す魔法は綺麗だって褒めてくれたんだー」


「おいおい、それ口説かれてんじゃねーの……」


「はは、まさか――」


楽しそうに話をしている、二人。


藍君と二ノ宮さんは本当に仲が良さそうで。


僕は、嫉妬の感情が胸から溢れてくるのを感じた。


「……」


藍君に気付かれないよう、静かに移動する。


席に座っても二人が気になって、僕はこっそり耳をたてていた。


こんな事しても辛くなるだけなのに。


―――――――――――――


結局二人がどこかへ行くまで、嫉妬の感情に支配されっぱなしだった。


どうやら二人は、夜また待ち合わせをするらしくて。


……二宮さん、凄く美人だもんね、この世界の人を魅了してるぐらいだし。


はあ……藍君も、二宮さんみたいな人が良いのかな。


今日は、いつもあるはずの食欲も沸いてこない。


ご飯は無理やり口に入れた後、そのまま部屋へと戻った。


横になって昨日の事を思い出す。


あの幸福感を思い出しながら、少し切なくなってしまった。


それで眠れないなんてことはなく、僕はそのまま眠りにつく。

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