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あれからは、ご飯を食べて部屋に戻り、明日に備えて早めに寝た。
朝起きて、体調の確認をする。
……うん、大丈夫だよね。
一応テストって言うんだから、僕自身ちょっと緊張してるかも……。
何よりも、藍君が心配だ。
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クラスメイトは全員集まっていたようで、アルゴンさんにマール先生、それに王女様もいた。
相変わらず王女様は凄く美人だ、本当に羨ましいよ。
「いつものようにして頂ければよろしいですから」
そう言う王女様は、本当に僕達の魔法の進歩が気になっている様子だ。
……頑張らないと。ここでもし出来なかったら……考えたくない。
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あれからテストのようなものは進み、クラスメイト達はほぼ完璧な魔法を見せていた。
「次、カミノイツキ!」
名前を呼ばれ、僕は皆の前に出る。
見せるのは、昨日マール先生が教えてくれた聖属性中級魔法である、『ホーリーバリア』、『ホーリーブラスト』だ。
まず一つ目。僕は目を瞑りイメージする。
聖の魔力で、障壁を創造する、そんな感じ。
「……!」
目の前に、縦横に六メートル程の壁が出来た。
よし、二つ目。
ホーリーブラストは、ホーリーアローの質量を三倍程にすればいいだけだ。
聖の魔力を集め固めた塊を、速度をつけて放つ。
ホーリーアローと違い難しいのは、塊の制御、速度だというが……よく分からない。
「……」
これも、無詠唱で僕は発動した。
横をこっそりと覗くと、王女様が笑みを浮かべていた。
よかった……大丈夫そうかな。
「以上です、マーリン様」
そう言うアルゴンさん。
よかった、やっぱり藍君は――
「――あら、あの方がまだでしょう?」
そう放つ、王女様。その視線の先には……藍君が居た。
アルゴンも予想していなかったみたいで、藍君が王女様と話を進めていく。
どうやら、固有魔法を王女様に見せるようだ。
属性魔法が使えない藍君は、それで評価してもらう、ということなのかな……?
固有魔法は確か、あまりマール先生も分からないって言ってた。
藍君、固有魔法はもう使えるのかな……?
だ、大丈夫だよね……
「雫、頼めるか?」
そう言って、二ノ宮さんを呼ぶ藍君。
ぼ、僕じゃないのか……って何嫉妬してるんだろう。
藍君は今、凄く大事な時なのに。
藍君は二ノ宮さんと少し話してから、肩に手をかける。
肩に、手を……
「ウォーターアロー!」
そう唱える二ノ宮さん。唱えたその魔法は、何も変わっている様子もない、普通のウォーターアローだ。
対象の魔法を強化、とは絶対に言えないだろう。
それを見た王女様は、藍君に近付き自分で試しても良いと言う。
「ただ、これでもし何もなかったら……この王宮からは出ていってもらいます。」
加えて、そう言う王女様。
魔法の能力がないだけで追い出す。
それは凄く理不尽で、他の人達もそう思っているだろう。
そして、何よりも藍君が……この短期間、そして先程の失敗から、今この時に固有魔法を成功出来るとは僕は思えなかった。
僕の嫌な予感は、ずっと続いて。
二ノ宮さんの反論も、王女様により跳ね返されて……いよいよ藍君が魔法を発動させようとした。
「――ぐっ……!」
王女様の、苦痛の声。
僕の嫌な予感は、最悪の形で。
王女様はどこかへ行って、アルゴンさんもそれを追っていく。
クラスメイトは先程の事で騒ぎ、その場から離れていっている。
藍君は、そのまま虚ろな目で立ち竦んでいた。
僕は……藍君が心配で、訓練所の外から覗いている。
僕なんかが藍君に何か言っても、むしろ傷付けてしまいそうで、かえって気を使わせてしまうんじゃないかって。
クラスメイトが全員居なくなっても、藍君は立ったままだ。
「はは、なんでこうなったんだろうな……」
「何が固有能力だ……何が勇者様だよ」
「……俺、どうなっちまうんだか」
小さくそう聞こえた藍君の声は、今まで聞いたことのない……『弱い』声だった。
そのまま藍君は部屋へと戻っていく。
僕はそれを、影から見送る事しか出来なかった。
――――――――――――――
翌朝。
よく眠れるわけもなく。
僕は眠い目をこすり、藍君の事を考える。
昨日の藍君の光景が、声が、僕の頭を支配していく。
やがて授業の時間と気付き、僕は教室に急いで向かったのだった。
「おはよー!」
今日もマール先生は元気……?いつもより、声が疲れているような。
「昨日はお疲れ様!みんな良かったよ!」
そう笑顔で言い、何もなかったようにマール先生は話を進めていく。
今気付いたけど、藍君が……教室にいない。
「それじゃ、昨日の――」
マール先生の話は、全く入ってこなかった。
もしかしたら、藍君は、もう既に……
「………移動するよ!大丈夫?」
マール先生が、僕の肩を叩く。
どうやら話が終わって、魔法訓練室へ向かうみたいだった。
周りはもう誰もいなくて、マール先生と僕だけ。
「……あ、の」
僕は、声を出した。
聞くなら、今しかない。恥かしがってる場合じゃないんだ。
「ど、どうしたの?」
マール先生は、僕の凄く小さい声に反応してくれた。
「藍、君は……」
僕はそれしか言えなかったけど、言いたいことは伝わったようで、マールさんの表情が暗く変わる。
「……うん、アイユウスケ君だね。昨日その、色々あった子」
「……」
僕は、黙りマールさんを見つめる。
「その、何ともいえないかな。私がどうこう出来るとも思えないし……ごめんね」
マール先生は、そう言う。
「……」
僕は、唇を噛んで、黙り込むことしか出来なかった。
「私は……増幅魔法なんて珍しい固有魔法持ってる子、絶対に手放したくないけどねー!はは!」
そう笑って言うマール先生。本当に、マール先生はとても魔法が好きなんだ。
同時に、魔法を教える先生という立場から、生徒である僕達の一人が居なくなる事は……凄く悲しいことだと思う。
「まだ何も決まってないし、大丈夫大丈夫!」
そう言って、マール先生は僕の手を引く。
「さあ、行こー!魔法が君を待ってるぞー!」
……そうだ、僕は今魔法を習得しなければ。
いつか――藍君を助ける事が出来る魔法を。
心配は、後でしよう。
――――――――
「さて、昼休みかな!皆きゅうけーい!」
魔法の授業も終わり、僕達はお昼ご飯の時間だ。
他の属性魔法のクラスメイトも沢山いた。
「昨日の藍、やばくなかった?はは」
「正直あそこまで酷いと、可哀想だよなあ」
「朝もいなかったし、あいつもう来ないんじゃねーの?」
「マーリン様にあんな事したんだ……身体も触りやがって」
「はは、まあ俺達の邪魔になるだろうしなー。能力が低すぎるんだっての、運ねーよな」
嫌でも聞こえてくる、藍君への話題。
僕は、早く食べてここから出よう、そう思った時だった。
バタン、と。
「……」
扉を開けた音と共に、そこに藍君が居た。
大量の視線が、一点して集まる。
その視線が、どんな感情を載せているかどうかは、僕でも分かった。
同時にひそひそと話すクラスメイト。
藍君は、中へ入ることなく……外へそのまま出た。
一瞬見せた藍君の、その目は。
いじめれていた時の僕の目よりも、暗く光がない目だった。
……心配なんて、してる場合じゃない。
行かなきゃ、藍君が、僕が助けないと。




