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増幅使いの這い上がり  作者: aaa168(スリーエー)
神野樹と、藍祐介
59/127

66

あれからは、ご飯を食べて部屋に戻り、明日に備えて早めに寝た。


朝起きて、体調の確認をする。


……うん、大丈夫だよね。


一応テストって言うんだから、僕自身ちょっと緊張してるかも……。


何よりも、藍君が心配だ。


――――――――――――


クラスメイトは全員集まっていたようで、アルゴンさんにマール先生、それに王女様もいた。


相変わらず王女様は凄く美人だ、本当に羨ましいよ。


「いつものようにして頂ければよろしいですから」


そう言う王女様は、本当に僕達の魔法の進歩が気になっている様子だ。


……頑張らないと。ここでもし出来なかったら……考えたくない。


―――――――――――――――――


あれからテストのようなものは進み、クラスメイト達はほぼ完璧な魔法を見せていた。


「次、カミノイツキ!」


名前を呼ばれ、僕は皆の前に出る。


見せるのは、昨日マール先生が教えてくれた聖属性中級魔法である、『ホーリーバリア』、『ホーリーブラスト』だ。


まず一つ目。僕は目を瞑りイメージする。


聖の魔力で、障壁を創造する、そんな感じ。


「……!」


目の前に、縦横に六メートル程の壁が出来た。


よし、二つ目。


ホーリーブラストは、ホーリーアローの質量を三倍程にすればいいだけだ。


聖の魔力を集め固めた塊を、速度をつけて放つ。


ホーリーアローと違い難しいのは、塊の制御、速度だというが……よく分からない。


「……」


これも、無詠唱で僕は発動した。


横をこっそりと覗くと、王女様が笑みを浮かべていた。


よかった……大丈夫そうかな。


「以上です、マーリン様」


そう言うアルゴンさん。


よかった、やっぱり藍君は――


「――あら、あの方がまだでしょう?」


そう放つ、王女様。その視線の先には……藍君が居た。


アルゴンも予想していなかったみたいで、藍君が王女様と話を進めていく。


どうやら、固有魔法を王女様に見せるようだ。


属性魔法が使えない藍君は、それで評価してもらう、ということなのかな……?


固有魔法は確か、あまりマール先生も分からないって言ってた。


藍君、固有魔法はもう使えるのかな……?


だ、大丈夫だよね……


「雫、頼めるか?」


そう言って、二ノ宮さんを呼ぶ藍君。


ぼ、僕じゃないのか……って何嫉妬してるんだろう。


藍君は今、凄く大事な時なのに。


藍君は二ノ宮さんと少し話してから、肩に手をかける。


肩に、手を……


「ウォーターアロー!」


そう唱える二ノ宮さん。唱えたその魔法は、何も変わっている様子もない、普通のウォーターアローだ。


対象の魔法を強化、とは絶対に言えないだろう。


それを見た王女様は、藍君に近付き自分で試しても良いと言う。


「ただ、これでもし何もなかったら……この王宮からは出ていってもらいます。」


加えて、そう言う王女様。


魔法の能力がないだけで追い出す。


それは凄く理不尽で、他の人達もそう思っているだろう。


そして、何よりも藍君が……この短期間、そして先程の失敗から、今この時に固有魔法を成功出来るとは僕は思えなかった。


僕の嫌な予感は、ずっと続いて。


二ノ宮さんの反論も、王女様により跳ね返されて……いよいよ藍君が魔法を発動させようとした。


「――ぐっ……!」


王女様の、苦痛の声。


僕の嫌な予感は、最悪の形で。


王女様はどこかへ行って、アルゴンさんもそれを追っていく。


クラスメイトは先程の事で騒ぎ、その場から離れていっている。


藍君は、そのまま虚ろな目で立ち竦んでいた。


僕は……藍君が心配で、訓練所の外から覗いている。


僕なんかが藍君に何か言っても、むしろ傷付けてしまいそうで、かえって気を使わせてしまうんじゃないかって。


クラスメイトが全員居なくなっても、藍君は立ったままだ。


「はは、なんでこうなったんだろうな……」


「何が固有能力だ……何が勇者様だよ」


「……俺、どうなっちまうんだか」


小さくそう聞こえた藍君の声は、今まで聞いたことのない……『弱い』声だった。


そのまま藍君は部屋へと戻っていく。


僕はそれを、影から見送る事しか出来なかった。


――――――――――――――

翌朝。


よく眠れるわけもなく。


僕は眠い目をこすり、藍君の事を考える。


昨日の藍君の光景が、声が、僕の頭を支配していく。


やがて授業の時間と気付き、僕は教室に急いで向かったのだった。


「おはよー!」


今日もマール先生は元気……?いつもより、声が疲れているような。


「昨日はお疲れ様!みんな良かったよ!」


そう笑顔で言い、何もなかったようにマール先生は話を進めていく。


今気付いたけど、藍君が……教室にいない。


「それじゃ、昨日の――」


マール先生の話は、全く入ってこなかった。


もしかしたら、藍君は、もう既に……


「………移動するよ!大丈夫?」


マール先生が、僕の肩を叩く。


どうやら話が終わって、魔法訓練室へ向かうみたいだった。


周りはもう誰もいなくて、マール先生と僕だけ。


「……あ、の」


僕は、声を出した。


聞くなら、今しかない。恥かしがってる場合じゃないんだ。


「ど、どうしたの?」


マール先生は、僕の凄く小さい声に反応してくれた。


「藍、君は……」


僕はそれしか言えなかったけど、言いたいことは伝わったようで、マールさんの表情が暗く変わる。


「……うん、アイユウスケ君だね。昨日その、色々あった子」


「……」


僕は、黙りマールさんを見つめる。


「その、何ともいえないかな。私がどうこう出来るとも思えないし……ごめんね」


マール先生は、そう言う。


「……」


僕は、唇を噛んで、黙り込むことしか出来なかった。


「私は……増幅魔法なんて珍しい固有魔法持ってる子、絶対に手放したくないけどねー!はは!」


そう笑って言うマール先生。本当に、マール先生はとても魔法が好きなんだ。


同時に、魔法を教える先生という立場から、生徒である僕達の一人が居なくなる事は……凄く悲しいことだと思う。


「まだ何も決まってないし、大丈夫大丈夫!」


そう言って、マール先生は僕の手を引く。


「さあ、行こー!魔法が君を待ってるぞー!」


……そうだ、僕は今魔法を習得しなければ。


いつか――藍君を助ける事が出来る魔法を。


心配は、後でしよう。


――――――――


「さて、昼休みかな!皆きゅうけーい!」


魔法の授業も終わり、僕達はお昼ご飯の時間だ。


他の属性魔法のクラスメイトも沢山いた。


「昨日の藍、やばくなかった?はは」


「正直あそこまで酷いと、可哀想だよなあ」


「朝もいなかったし、あいつもう来ないんじゃねーの?」


「マーリン様にあんな事したんだ……身体も触りやがって」


「はは、まあ俺達の邪魔になるだろうしなー。能力が低すぎるんだっての、運ねーよな」


嫌でも聞こえてくる、藍君への話題。


僕は、早く食べてここから出よう、そう思った時だった。


バタン、と。


「……」


扉を開けた音と共に、そこに藍君が居た。


大量の視線が、一点して集まる。


その視線が、どんな感情を載せているかどうかは、僕でも分かった。


同時にひそひそと話すクラスメイト。


藍君は、中へ入ることなく……外へそのまま出た。


一瞬見せた藍君の、その目は。


いじめれていた時の僕の目よりも、暗く光がない目だった。


……心配なんて、してる場合じゃない。



行かなきゃ、藍君が、僕が助けないと。

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