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増幅使いの這い上がり  作者: aaa168(スリーエー)
神野樹と、藍祐介
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思っていた以上に、晩餐会の会場は広く圧倒された。


料理は、思っていた以上に美味しいし。



「おい、お前……勇者一行ってのか?」



料理を食べていると、声を掛けられた。


あまりこの場では相応しくない格好に、背中の大きな剣。




「見たことない顔で、お前の魔力が周りとは桁違いに多かったからな。俺はアルス。関わりはほとんど無いかもしれないが、よろしく頼むぜ」



「……」




ま、魔力?何なんだろう。


というか、知らない人には僕は全然喋れないんだ……ごめんなさい。


心の中で謝りながら、アルスさんに頭を下げる。




「よ、よろしくな?」


「……」




僕は小さく会釈したけど、アルスさんは僕が喋らないから困惑しているようで。




「――おーい樹?誰と話してるんだ?」




凄く良いタイミングで現れてくれる藍君。


僕の心臓は、藍君で跳ね上がってるけど……




「おお、お前も――」




アルスさんと藍君が話し始めて、僕は黙る。


話を聞いていると、アルスさんは結構謎の人だ。


なんでも屋って変わってる……本当にそんな感じの職業なのかな?


―――――――――――――



「――じゃあな!」



アルスさんが話を終えて外に出ていってから、僕は無意識にずっと藍君を見ていた。


さっきは、藍君と話せていたのに……今は全く声が、出ない。


話しかけようとしても、口が開かない。ひたすらに藍君を見つめているだけ。


端から見れば、中々おかしい光景だ。


そんな僕の様子を見て藍君が僕に向き直る。



「樹、さっきはごめん。取り乱したけど、俺はあの時、樹と話せて本当に嬉しかった。」



そんな事を平然と言う藍君。


う、嬉しいって……


頭が真っ白になって、さっきの恥ずかしさと嬉しさが僕の思考を支配していった。


藍君を見つめていた事、顔が紅くなっている事に気付いてから、僕はすぐに俯く。


そのままこの場所から逃げて、晩餐会から抜け出してしまった。


うー、今から戻って藍君と話す……無理だよね。


はあ、なんで僕はこうなんだろう。


――――――――――


部屋に戻ってからは、ベッドで今日の事を振り返っていた。


異世界に来たという事は全然実感は無いのだけど、どうやらそうらしい。


勇者とか魔族とか魔法とか、僕には分からない事ばかりだ。


これはもしかしたら、とんでもない事に巻き込まれたのだろうか?


でも。


でも、でも……今の僕の頭の中は……



《「俺はあの時、本当に嬉しかった」》



……藍君しか、考えられない。


僕はあの時、本当にこの部屋で、藍君へ……


ね、ねよう!


―――――――――――――――


朝。


気付いたら、僕は寝てしまっていたようだ。


起きても、何も変わっている事は無い。


昨日までの夢のような出来事は、本当に現実だ。


あくびをして、顔を洗って、服を着替えて。


身体の調子は、この世界に来て本当に良くなった。


飲んだことないけど、エナジードリンクとか飲んだらこうなるのかな……?


支度を整え、部屋を出る。


今日は何をするんだろう。


―――――――――――――――――


僕達は、グラウンドのような場所に案内された。


どうやらそこで僕達の能力を見るらしい。


よく分からないけど、能力なんて目に見えて分かるものなのかな……?


そりゃ、そんな事出来たら便利だけど。


説明も終わり、僕達はその能力を見れる板のようなものを触れるよう言われた。


アルスさんの言っていた事が、本当なら僕は魔力量が多い事になる。


魔法適正とかは分からないけど……


クラスの人達は、次々といい能力が出ているようで。


僕達は『勇者』であり、期待を大きくされている。


そう、ここで逆にいい結果じゃなかったら……。


これ以上は考えたくはない。




「よし、次だ……君だな!」




不安に捕らわれる中、あっと言う間に僕の番になる。




「……」




先ほどやっていたように、僕は能力を測る板へと手を載せた。


すると、一瞬の間でもう一つの板に僕の能力が明らかになった。




「……魔力量、一億だと?」




文字通りの周りより一桁多い魔力量、属性魔法の適正の高さ、固有能力といい、僕の結果は凄く良かったようで……。


後ろの魔法使いの人達も、これまでに無いほどどよめいていた。


……実感は全く無いし、特に嬉しいと感じることはない。


でも、取り敢えず、取り敢えず安心は出来た。


そして、余り期待はしてほしくないなあ……



「次来てくれ!」



次は、藍君だった。


藍君なら、物凄いとは言わないまでも、僕よりは良い結果だろうな……。


藍君と一緒に戦えるなら……それも悪くないかも。


あ、そろそろ藍君の結果が出――




「――うん?俺の見間違いか?……すまないな。もう一回やり直してくれ。」




僕の目に、クラスの人達の目にも、その結果は写された。


これまでの人達より何桁も下の魔力量。


属性魔法適正に至っては……『無し』だ。


固有能力が有るから、それでなんとかなっているとアルゴンさんは言っている。


藍君……大丈夫だよね……


なんで僕に一億あって藍君に……もしかして、僕が取っちゃったの?


藍君を見ると、全然落ち込んでいない様子だった。


そうだ……きっと、この結果が強さに全て反映されるわけじゃない。


藍君も、そう考えているんだよ……ね?




「次はこっちだ、着いてきてくれー!」




考える暇も心配する暇もあらず、次の座学の場所へ。


魔法について色々教えてもらったけど、まだまだ実感が無い。


僕の場合は適正が高いから、詠唱が短くなったり効果が上がったりするらしい。


詠唱……言葉を発する事は苦手だから、適正が高くて良かったよ。


その後に魔力を出したり、水の玉を出したりしたけど、何か不思議な感覚だ。


この感覚が、この世界では当たり前なんだろうけど……早く慣れなきゃ。


――――――――――――――――


それからは前衛と後衛を分けたり、後衛はマールさんに着いて行って武器を選んだりした。


僕は後衛で、藍君も同じ、後衛だった。ちょっと嬉しい。


武器も同じスタッフ。正直良く分からない。見た目で選んじゃえばいいかな……?


僕がどれにしようか悩んでいると、マールさんが僕に話しかけてきた。




「魔力量一億の子だよね!その、是非これを選んでほしいな!……えっと、魔力消費が大きいんだけど、その代わり効果は絶大なんだ!」




それだけ言うと、マールさんは僕にスタッフを渡して駆けていく。


それは、周りの派手なものとは違う……青い透明な杖。


地味といえばそうだけど、装飾もない透き通った青が綺麗だ。


……これにしようかな。




「皆決まったね!夜ご飯まで少しだし、これで今日は終わり!明日から本格的に魔法を教えていくから!」




マールさんの声が響く。


もう夜になっていたようだ。


明日から始まる魔法の授業の不安、藍君の心配……色んな事を考えながら、僕は部屋へ戻った。


部屋に着いたらスタッフを置き、ベッドに座る。


お腹も減ったし食堂行こうかな?早いけど……


―――――――――――


流石に来るのが早かったのか、まったく人影が見えない。料理はもう準備されてるみたいだけど。


人が居ないのは寂しいと思わないし、むしろ静かに食べられて嬉しい。


今度から早めに食堂に来ようかな……?


なんて思いながら、席を探していると。



「……」



藍君がいた。今からご飯を食べようとしているようだ。


高鳴る胸を手で押さえて、考える。


……これはチャンスだよ、今度こそ話しかけなきゃ。今なら誰もいないし。



「……」



ガタッと、椅子を引いて藍君の横に座った。



「……樹?」



そう言う藍君。



「……」




隣に座るだけで、抑えていた感情が溢れ……僕は顔が真っ赤になる。



だ、駄目だよ……やっぱりまだ無理……!



顔を藍君に向ける事も出来ず、ひたすらに黙り込む。



「……」



早く食べなきゃ、今の僕は、藍君に見せられない……


僕はひたすらに食事を口に運び、席を立つ。


「……はぁ」


藍君から別れて食堂から出た時、ため息混じりに声が出る。


僕はそのまま部屋へ戻り、ベッドの中に入るのだった。


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