転校生
神野樹の視点の章になります。
中盤以降は今までの話をなぞるだけなので……思い出す程度に読んで貰えると嬉しいです。
――異世界に召喚される、ずっと昔の事。
ある学校の一教室では、ある噂が話題にされていた。
―――――――――――――――――
「今日は、俺らのクラスに転校生が来るらしいぞ。あ、ちなみに男な」
「チッ、男かよ。どんなやつなんだろう」
「かっこいいといいなあー!」
周りの人は、その噂について盛り上がっている。
僕は……一人。友達なんていないから話し相手もいない。話す事が出来る周りがどれだけ羨ましいか。
そりゃ、喋る事が出来ないってわけじゃないよ。
でも、僕は声が凄く小さいし、人前で上手く話せないし……
いつからか、人と対面する事が怖くなっちゃって、目も合わないようにするために前髪もこんなに伸びてしまった。
僕は本当、だめだよね。
「……っ!」
自己嫌悪で居ると、いきなり椅子を蹴られた……後ろの人達に。
「ひひっ、神野おはよーう!」
「こらこら、喋れないんだってこいつ。挨拶するだけ無駄だっての」
いつもの三人組は下衆な笑いを浮かべ、僕に無意味な行為をしてくる。
「おら!ははっ元気かー?」
「お前ほんとに生きてる?もしもーし!」
「なんか喋れよ屑」
背中を押されても、周りを三人に囲まれて、傷付く言葉を吐かれても。
「………………」
弱い僕は、何もできない。
ひたすらに黙って、泣きそうになってる顔を前髪で隠すだけ。
「お前らー!席着け!大事なお知らせがあるぞ!」
教室に入ってくるやいなや、そう大声を上げる先生。
散らばる三人組だけど……よりによって後ろに三人組のうちの一人がいる。
この一人のせいで、授業中だって構わずによく嫌がらせを受けるんだ。
……運も悪いし、本当に僕に良い所無いよ。
「えー、なんと今日転校生が!我がクラスに――」
「知ってる知ってる!」
「早く出してよー」
クラスの人達は情報が行き渡っているようで、先生が言わなくても知らない人はいないみたい。
これまで転校生なんて居ないし、そりゃ皆気になるよね。
「まったくお前らは……一体どこから仕入れて来ているんだ?まあいい……」
「よし。入ってこい、藍」
先生はわかっていたようにそう言い、転校生らしき名字を呼ぶ。
藍って変わった名字だな、なんて思ったのも束の間。
スライド式の扉が開き、転校生の男の子が入ってくる。
そのまま壇上に上がり、一つ咳をして。
「……藍、祐介って言います。よろしくお願いします。えー……趣味は……」
転校生の自己紹介だっていうのに、周りの空気は異常な程の緊張感に包まれていた。
その理由は、彼の外見によるものだろう。
入ってきてからまず目に入る……まっ茶色の髪に、寝癖。
平均より高いぐらいの身長。
そして、目付きがちょっと悪い。
そう。これはまるで……『不良』。
「あー……読書かな。……先生、以上です」
しゅ、趣味適当だなあ……見た目からして絶対読書なんかじゃないよ!
人に言えない趣味だったりして?怖いなあ。
隣なんて本当に、絶対嫌だよ……
「……あー、以上か?お前ら、仲良くしてやれよ!席は……」
辺りをぐるっと見渡す先生。
僕、左の席は空いてるけど……後ろの方だし空いてる席もまだまだあるし。
「あー、そこいいんじゃないか?窓近いし。良かったなー藍」
指で席を指す先生。その先に示すのは――
――僕の隣。
……う、嘘でしょ?運が悪いなんてものじゃ……
藍君が頷くと、こちらへ向かってくる。当然だけど。
皆、藍くんが通る道を席を引いて開けていた。
向かう場所は……僕の左。
「よろしくな」
席に座ると同時に、こちらへ視線を真っ直ぐ向け、そう言う藍君。
「っ……」
思わず黙りこみ、前髪で見えないようにしてしまった。
「……あー、ご、ごめん」
悪いのは僕なのに……ごめんなさい、ごめんなさい……
「……」
そんな事は言えるわけなく、気まずい空気が流れ。
僕は、また自己嫌悪に陥ってしまう。
「よし、一時間目初めるぞ!」
最悪な始まり方で、授業は始まったのだった。
―――――――――――――――
授業は進み、気まずさもやがて消えていく。
時間は偉大で、僕も大分落ち着いてきた。
隣をちらりと見ると……意外にも彼は普通に授業に取り組んでいた。
むしろ、他の人達より熱心なぐらい。
……案外、悪い人じゃないのかな?見た目はその、ちょっと悪そうだけど。
―――――――――――――――
気が付くと三時間目だった。
あれ、授業ってこんな楽しかったっけ?
……ちょっと、今までの事を考えてみる。
あ。
僕は気付く。
いつものいじめを、受けていないことに。
「……」
後ろの人、もしかして藍君が怖くて、僕に嫌がらせ出来ないのかも?
……僕、案外運良かったのかな。
―――――――――――――――
お昼休み。ご飯を食べている時にいじめを受けるときもあるけど……今日はずっと何もされない。
周りは皆、机を配置を変えて思い思いに食べている。
当然だけど……僕は、一人。
藍君も一人みたい。チラッと見るとお弁当食べてた。お母さんが作ったのかな?
本当に見た目通りじゃないよね……
ご飯を食べ終わると、直ぐに読書に入る藍くん。なに読んでるのかな?
えっと、『明日に役立つサバイバル知識』?って、また変わったもの読んでる……
「……」
読む目は真剣そのもの。趣味が読書は本当に――
「――っ」
僕が見ていたのに気付き、こちらを見る藍君。それに目を反らす、僕。
「……」
「……」
またお互い無言。気まずい空気。心の中の謝罪。
今、絶対話すタイミングだったのに……僕、本当に駄目だな。
昼休みはそのまま、過ぎて行ってしまった。
―――――――――
午後の授業も休憩も、何事もなく過ぎて。
チャイムが鳴って、放課後に入った。友達と喋っていたり部活に行ったり帰ったり、色んな人がいる。
部活も特にやっていない僕は、そのまま帰るんだけど。
藍君も帰る支度をして、もう教室から出ようとしていた。
「……チッ」
支度をしていると後ろから聞こえる舌打ちが、怖い。
逃げるように僕は教室を出て、ちょうどいた藍君に追い付かない程度の速さで歩き、校門まで。
校門を潜ったあと、僕は左に、藍君は逆の右に。
右は駅の方向だから……もしかして電車で来てるの?
……一緒の方向でも、僕はどうせお話出来ないか。
藍君は僕の事、無口で愛想の悪い子だと思ってるのかな。
今日は藍君に酷い事しかしてないし、嫌われたかな……
本当になんで僕は、こんな……
僕は早足で帰路につきながら自己嫌悪に陥る。
それと同時に、変わった転校生の事も頭をぐるぐるしていた。
僕の隣の藍君、ちょっと見た目が悪そうで、趣味は読書。
私が、もし声を出せたのなら――仲良く、なれたのかな?




