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増幅使いの這い上がり  作者: aaa168(スリーエー)
神野樹と、藍祐介
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転校生

神野樹の視点の章になります。


中盤以降は今までの話をなぞるだけなので……思い出す程度に読んで貰えると嬉しいです。

――異世界に召喚される、ずっと昔の事。



ある学校の一教室では、ある噂が話題にされていた。



―――――――――――――――――



「今日は、俺らのクラスに転校生が来るらしいぞ。あ、ちなみに男な」



「チッ、男かよ。どんなやつなんだろう」



「かっこいいといいなあー!」




周りの人は、その噂について盛り上がっている。



僕は……一人。友達なんていないから話し相手もいない。話す事が出来る周りがどれだけ羨ましいか。




そりゃ、喋る事が出来ないってわけじゃないよ。


でも、僕は声が凄く小さいし、人前で上手く話せないし……


いつからか、人と対面する事が怖くなっちゃって、目も合わないようにするために前髪もこんなに伸びてしまった。




僕は本当、だめだよね。




「……っ!」




自己嫌悪で居ると、いきなり椅子を蹴られた……後ろの人達に。



「ひひっ、神野おはよーう!」



「こらこら、喋れないんだってこいつ。挨拶するだけ無駄だっての」




いつもの三人組は下衆な笑いを浮かべ、僕に無意味な行為をしてくる。




「おら!ははっ元気かー?」




「お前ほんとに生きてる?もしもーし!」




「なんか喋れよ屑」




背中を押されても、周りを三人に囲まれて、傷付く言葉を吐かれても。



「………………」



弱い僕は、何もできない。


ひたすらに黙って、泣きそうになってる顔を前髪で隠すだけ。




「お前らー!席着け!大事なお知らせがあるぞ!」




教室に入ってくるやいなや、そう大声を上げる先生。



散らばる三人組だけど……よりによって後ろに三人組のうちの一人がいる。



この一人のせいで、授業中だって構わずによく嫌がらせを受けるんだ。



……運も悪いし、本当に僕に良い所無いよ。




「えー、なんと今日転校生が!我がクラスに――」



「知ってる知ってる!」



「早く出してよー」



クラスの人達は情報が行き渡っているようで、先生が言わなくても知らない人はいないみたい。



これまで転校生なんて居ないし、そりゃ皆気になるよね。




「まったくお前らは……一体どこから仕入れて来ているんだ?まあいい……」



「よし。入ってこい、藍」



先生はわかっていたようにそう言い、転校生らしき名字を呼ぶ。


藍って変わった名字だな、なんて思ったのも束の間。


スライド式の扉が開き、転校生の男の子が入ってくる。



そのまま壇上に上がり、一つ咳をして。





「……藍、祐介って言います。よろしくお願いします。えー……趣味は……」



転校生の自己紹介だっていうのに、周りの空気は異常な程の緊張感に包まれていた。



その理由は、彼の外見によるものだろう。



入ってきてからまず目に入る……まっ茶色の髪に、寝癖。



平均より高いぐらいの身長。



そして、目付きがちょっと悪い。



そう。これはまるで……『不良』。




「あー……読書かな。……先生、以上です」




しゅ、趣味適当だなあ……見た目からして絶対読書なんかじゃないよ!


人に言えない趣味だったりして?怖いなあ。




隣なんて本当に、絶対嫌だよ……





「……あー、以上か?お前ら、仲良くしてやれよ!席は……」





辺りをぐるっと見渡す先生。



僕、左の席は空いてるけど……後ろの方だし空いてる席もまだまだあるし。




「あー、そこいいんじゃないか?窓近いし。良かったなー藍」




指で席を指す先生。その先に示すのは――




――僕の隣。








……う、嘘でしょ?運が悪いなんてものじゃ……




藍君が頷くと、こちらへ向かってくる。当然だけど。


皆、藍くんが通る道を席を引いて開けていた。


向かう場所は……僕の左。




「よろしくな」




席に座ると同時に、こちらへ視線を真っ直ぐ向け、そう言う藍君。




「っ……」




思わず黙りこみ、前髪で見えないようにしてしまった。





「……あー、ご、ごめん」




悪いのは僕なのに……ごめんなさい、ごめんなさい……




「……」




そんな事は言えるわけなく、気まずい空気が流れ。



僕は、また自己嫌悪に陥ってしまう。



「よし、一時間目初めるぞ!」



最悪な始まり方で、授業は始まったのだった。



―――――――――――――――




授業は進み、気まずさもやがて消えていく。


時間は偉大で、僕も大分落ち着いてきた。



隣をちらりと見ると……意外にも彼は普通に授業に取り組んでいた。


むしろ、他の人達より熱心なぐらい。




……案外、悪い人じゃないのかな?見た目はその、ちょっと悪そうだけど。




―――――――――――――――




気が付くと三時間目だった。


あれ、授業ってこんな楽しかったっけ?



……ちょっと、今までの事を考えてみる。




あ。


僕は気付く。


いつものいじめを、受けていないことに。




「……」




後ろの人、もしかして藍君が怖くて、僕に嫌がらせ出来ないのかも?



……僕、案外運良かったのかな。




―――――――――――――――




お昼休み。ご飯を食べている時にいじめを受けるときもあるけど……今日はずっと何もされない。



周りは皆、机を配置を変えて思い思いに食べている。




当然だけど……僕は、一人。



藍君も一人みたい。チラッと見るとお弁当食べてた。お母さんが作ったのかな?


本当に見た目通りじゃないよね……




ご飯を食べ終わると、直ぐに読書に入る藍くん。なに読んでるのかな?



えっと、『明日に役立つサバイバル知識』?って、また変わったもの読んでる……



「……」



読む目は真剣そのもの。趣味が読書は本当に――




「――っ」




僕が見ていたのに気付き、こちらを見る藍君。それに目を反らす、僕。



「……」


「……」



またお互い無言。気まずい空気。心の中の謝罪。


今、絶対話すタイミングだったのに……僕、本当に駄目だな。




昼休みはそのまま、過ぎて行ってしまった。



―――――――――



午後の授業も休憩も、何事もなく過ぎて。



チャイムが鳴って、放課後に入った。友達と喋っていたり部活に行ったり帰ったり、色んな人がいる。


部活も特にやっていない僕は、そのまま帰るんだけど。



藍君も帰る支度をして、もう教室から出ようとしていた。



「……チッ」



支度をしていると後ろから聞こえる舌打ちが、怖い。



逃げるように僕は教室を出て、ちょうどいた藍君に追い付かない程度の速さで歩き、校門まで。



校門を潜ったあと、僕は左に、藍君は逆の右に。



右は駅の方向だから……もしかして電車で来てるの?




……一緒の方向でも、僕はどうせお話出来ないか。



藍君は僕の事、無口で愛想の悪い子だと思ってるのかな。



今日は藍君に酷い事しかしてないし、嫌われたかな……



本当になんで僕は、こんな……



僕は早足で帰路につきながら自己嫌悪に陥る。





それと同時に、変わった転校生の事も頭をぐるぐるしていた。




僕の隣の藍君、ちょっと見た目が悪そうで、趣味は読書。




私が、もし声を出せたのなら――仲良く、なれたのかな?





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