夕の戦闘、二
……よし。
――攻める。俺は、何としてもこの男を倒す。
「……?目付き変わったな。なんかあったか?」
声は無視し、集中する。胸に手を当て、魔力を増幅させるイメージ。
「……『増幅』!」
魔力が溢れてくる。同時に凄まじい痛みと気持ち悪さが襲うが、なんてことはない。
今はこの男に一撃入れる。それだけが頭を支配しているからだ。
山本と戦った時よりも、慣れたか魔力が増える量が多い。
あちこち痛む身体の感覚から、それが分かる。
「『増幅』、『増幅』……ぐっ」
二、三と詠唱。これだけで、前回の、十五詠唱分ほど魔力が増えている感覚だ。
おかげで、身体へのダメージも半端な物じゃないが。
でも、これでいい。
「……まあいい、何するかは知らねーがかかってこい。待っててやるからよ」
「それは、どうも」
本当に、こちらを舐めている様子だが……別に、向かってきてくれてもよかったんだけどな。
けどまあ、折角待ってくれるってなら……
「……『増幅』、『増幅』……『増幅』」
ゆっくりとイメージを濃密に頭に描き、唱えた。
唱え終わると、身体へもそれ相応の被害が襲うが……まだ耐える。
もう、いいだろう。
イメージするのは前と同じ、蒼い炎だ。想像がしやすいからな。
俺はライターを取り出し、着火する。激しく燃え上がっていくライター。
そしてイメージすると同時に、魔力をその火に送り込む。
「『増幅』、と」
詠唱を共に完了すると、前のような蒼い火へと変化する。
――しかし、前と違う点が一つ。
蒼い火へと変化させたのだが、勢いがさっきの炎とそのまま、むしろ増してるような。
……まあいいか、むしろ都合が良い。
「『付加』」
イメージと詠唱で、前と同じように蒼炎を付加させる。
一瞬消え、俺の身体のあちこちから燃え上がる蒼炎。
……そうだ、この感覚だ。身体に力が入り、今までの魔力を纏うだけより、何倍も強化された感覚が。
「……行きますよ」
「ああ」
足に蒼炎を付加。そのまま地面を思いっきり蹴って、突っ込む。
「……っ」
そのスピードは、俺自身がコントロールできない程。
それに任せアルスの前で止まり、少しフェイントをいれた後、蹴りをいれる。
蒼炎を纏った足は、アルスの脇腹へ吸い込まれるように。
「……今度は、掴まないんですか?」
残念な事に素直に食らってくれなかったが――
――アルスは、俺の蹴りを手で『弾いた』。
「ははっ、面白いなお前」
実に楽しそうな笑顔を見せるアルス。
本当に何を考えてるんだ、この人は……
「いいぜ、本当に少しだけだが……本気を出してやる」
瞬間、アルスから魔力を感じた。
非常に薄く纏っているが……分かる。
洗練されていて、濃密な魔力。
「いくぞ」




