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夕の、遭遇

保存目的の硬いパンは、お世辞にも上手い!とは言えなかった。


むしろ不味い。


……ああ、顔で何が言いたいか分かるぞ樹よ。


「帰ったら夜ご飯か、今日は何だろう」


「……!」


宿の事だろう、考えてるのは。


「あのご飯のためにも、頑張らなきゃな」


「……」


勢いよく頷く樹。


俺も樹も考えてる事は一緒だ。


美味しい物が待ってるってだけで、今日頑張ろうって気になるのは凄いよな。


「あ、そういや樹の回復魔法って、先生に教えて貰ったのか?聖魔法はともかくとして」


なんとなくそんな事を聞いてみる。


今まで、普通の回復だけでなく精神の回復魔法も操ってたからな。


「……」


横に顔をふる樹。


おいおい、薄々感じてたが独学かよあれ。


……そういや、俺もこの魔法はそうだったな。誰にも教えられていない、というか固有魔法だから当然か。


「はは、似てるんだな……俺達って」


俺は、そう小さく呟く。


「……?」


不思議そうな顔をする樹。


「いや、なんでもない。樹とは本当にいいパートナーになれそうだ、これからも頼むよ」


「……」


樹は、少し照れた様子で頷いてくれる。


っと、そろそろ時間だな。


「よし、んじゃ夕方まで頑張るぞ、樹」


――――――――――


変わった事もなく、ミニゴブリン討伐は続いている。


樹の方も、せっせとケラー草を取ってきてくれているな。


「っと!」


十匹程、また襲ってきたのでやり返すと前に平けた場所、池が見えてきた。


さっきのミニゴブリンの集落だろうか?何か色々落ちている。


木の剣や石のナイフ等、やはり粗っぽい。が、中に一つだけ輝く物がある。


拾って見ると、銀色のブレスレットで、赤い石がはめ込まれていた。


「これは……売れそうだな」

「……」


いつの間にか、隣にいた樹もまじまじとみている。


「よし!区切りいいし、これで帰るか」


「……」


頷く樹。どこか疲れた様子、まあ当然か。


俺と違って採集ばっかりだったしな。


「今日も本当にありがとうな、お疲れ様」


俺達は、元の道を引き返していく。


――――――――――――


帰り道、樹と話しながら歩いている。


「さて、帰ったらギルドにこれを渡して……前のロッドと今日のブレスレットも明日、売ってしまうか」


前拾った木のロッドは部屋に置いたままだ。


使い道もないし丁度良いだろう。


「……」


うんうんと頷く樹。そういや、防具とかも買わないとな。


「明日は報酬金で買い物に行くか」


「……」


お、楽しみなの?やっぱり女の子ってショッピングが好きなんだな。


「……」


と思ってると、恥ずかしそうに顔を赤く染める樹。


じろじろ見すぎたか、ごめんよ。


しかし、樹の顔を見ていると考えている事が分かって楽しいのだ。


「……」


そんな事を考えていると、少しジト目で俺を見つめる樹。


ごめんごめん。


っと……出口はそろそろか。


夕焼けの朱が、目にはいってくる。


取り合えず今日はこの森からさよならだな。


俺達は、出口から出ようと足を踏み出す。




――その時だった




「よう」





その声が聞こえてくると同時に、尋常ではないプレッシャーが、敵意が、俺を襲って止まない。動けない。


絵に描いたような、蛇に睨まれた蛙だ。


圧倒的に、これまで会ってきた人物と違う『強さ』を、俺の第六感が感知していた。



「待ってたぞ」



真っ直ぐ俺を見据えてくる人物を、真っ直ぐ見返すことはできないが。




青い鎧。



ぼろぼろの服。



聞き怯えのある声。



背中にある大きな剣。



そして……この世界では珍しい黒髪黒目。



――この人には確実に、覚えがある。



あの時、確かに居た。話した。




一瞬の、長い静寂の後、俺はその者の名前を告げる。






「アルス……さん?」

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