サレニデ森林へ
「えっとそれじゃ……あの席でいいか」
酒場へ移動。酒は飲まないよ?
空いている二人用テーブル席に座り、樹も座ったのを確認して図鑑を開いていく。
えっとミニゴブリン……これか。サイズで言うと確かにノーマルゴブリンより小さい。討伐証明部位は耳か。
樹はケラー草のページを見ていた。何々……大体森林にでもいけば生えてるんだな。それならサレニデ森林でついでにやっちゃおう。
特徴とか色々ノートに写しておくか。
お互い目標を確かに確認してから、返却口に返して、ギルドの出口へ。
「たしかサレニデ森林は南に行けばいいんだったか。よし、んじゃ初依頼がんばるぞー」
「……」
頷く樹。いつもより気合い入ってるな。
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コルナダの南側の出口は遠く、かなり歩いた気がする。
道中では水と昼食用にパンを買っておいた。あと剥ぎ取るためのナイフ。全部で五百アゼル程だ。
門を抜けて、壁で見えなかった景色が見えてくるが……うん。草原だな。
向こうに森林が見えるからあそこだろう。
またずっと歩いていく。日が射してきてるな。これは暑くなりそうだ。
―――――――――――――――
もうすぐ森林につくという頃。
俺は一つ、ずっと疑問に感じていた。
「なあ樹、今暑いと思うか?」
見れば横の樹は、少し汗をかいている様子だ。さっきは水飲んでたし。
どう見ても暑いだろう。樹も少し戸惑いながら頷いている。
「そっか、そうだよな」
俺の疑問は確信へと変わる。
……まあその、俺が全然暑くないのだ。
別に俺が極端な寒がりってわけじゃない。
答えは、この制服に。俺は今、ちょうどいい辺りの体感温度で過ごせている。エアコンかかってるかってぐらいだ。
超快適。汗一つかくこともないため、喉も乾かないしそんなに体力を消費せずに来れた。
便利だね、俺の能力。
……まあ流石に防御はそんな厚くないだろうし、慎重に行こう。
俺達は『サレニデ森林』に足を踏み出す。
―――――――――
そこは、言うことない普通の森林。日は遮られ、異世界の樹木が立ち並ぶ。
しかし前と違うのが……
「っ!いきなりかよ」
ミニゴブリンの出迎え。
まさかこんな早く襲われるとは思わなかった。
数は三匹。図鑑通りの大きさで、知能もあまりなさそうだな。
突っ込んできたミニゴブリンをスタッフで殴ると、それだけで大人しくなってしまった。
後の二匹も同様。正直かなり弱いんじゃないか……?
ノーマルゴブリンみたいに連携も取らないし、こりゃ初心者向けのモンスターって感じです。
「……」
そして樹は辺りの草花に屈み、一束掴んで俺に持ってくる。
「お、ケラー草か。ありがとう、これだけでもう三本はあるな」
探すの早いなー樹……とりあえず見つけてくれたケラー草を袋にいれておく。
そして俺に渡した後、奥へ進みまたケラー草を探してくれているようだ。
次々と見つけてくれるが何か探すコツでもあるんだろうか?
俺はさっきから探してるが、なかなか見つからない。こういうの苦手なのか俺。
「……」
っと、また持ってきてくれたのか……って多いな!軽く十はあるぞ。
「すごいな樹、採集依頼に関しては誰にも負けないって」
「……」
少し頬を染めた後、また駆け出して向こうへ行く樹。
本当に樹には助けられてばっかりである。申し訳ないぐらい。
俺はそうだな……樹の周辺の見張りでもしておこうか。
いくら弱いと言えども油断はしない。って言ってるそばから出てきたな。
数は十匹。って纏めて突っ込んでくるのかよ!
――――――――
……うん、ここまで連携しないとは思わなかった。弱すぎだ。
突っ込んでくるのをスタッフではたき落とすだけで終わってしまうとはね……
正直な所Fランクなだけあって、依頼の報酬金も少なめだと思っていたがそれに比例して難易度もちゃんと下がるようである。
まあ、それでも油断はしないけどね。
次は倍の二十でも来るかもしれないしな、うん。……ないか。
「……」
そんな事を考えていると、樹が戻ってくる。
ちょっと遅かったな。流石に少しは手間取って……え?
「……これ、樹一人で?」
俺に手渡されたのは、二十近いケラー草の束。
こっちが二倍来るのかよ!
「……」
渡した後、そのまま立ったまま居る樹。
何かをせがまれているような感覚。もしかして。
「いやー本当に凄いな樹は。はは、ありがとうな」
我ながら下手くそな褒め方だが……
「……」
頬を染めて嬉しそうな樹を見ると、良いのかなと思ってしまう。
こういうとこ可愛いんだよなーってだめだ、依頼に集中しないと。
……うん、もう一頑張りしたら昼にしようか。




