覚悟
山本と、対峙する。
山本は依然とした、ニヤついた顔で俺を見ている。
杖を持ってることから、確実に魔法を使ってくることは分かるな。
――なら、速攻で。魔法を発動させる前に。
「纏」
一瞬で思考し、魔力を纏ってから山本へ向かって走る。
「させると思ってんのか?……ウォーター」
山本が唱えた後に、杖が光ったと思うと、その周辺に水の球体が生成され、浮かび上がった。
そして、その数は数十個に至る。
……嘘だろ?
「食らっとけ、『ウォーターバレット』!」
そう思ったのは束の間、こちらへ向かってくる水の砲弾。
「ぐっ!」
なんとか避けようとするが、数が多すぎるために避けきれず、水の玉が腹に直撃した。
同時に、腹を思いっきり殴られるような感覚に襲われ、堪らず踞る。
「おいおいこんなんも避けれねーの?ほら、お前らやっちまえ」
その声を耳にして直ぐ、先程の二人が俺の身体に剣を振る。
「ひひっ、ざまあみろよ。おら!」
「調子のってんじゃねえっての!」
容赦なく振るわれる一撃一撃に、俺の身体がいうことを効かなくなっていくのを感じた。
「く……そが」
「どうだ?悔しいか?……そうだな、お前らそれぐらいにしとけ」
攻撃が止むと、俺は身体から力が抜けてそのままうつ伏せに倒れる。
「はは、無様だな藍。別にそのまま死んでもいいんだぞ?」
「っあ!死んでたまるかよ」
俺は身体を叩き起こし、なんとか立ち上がる。
「チッ、まあその程度で死なれたらな。……さて、お前には俺の魔法の的になってもらうか。はは、この魔法を人に当てるのは初めてだから、『覚悟』、しとけよ?」
「おいおい佑樹、これ以上したら本当に死ぬかも」
「だ、大丈夫なのか?」
山本の言葉に、戸惑う二人。
「うるせえ!あいつなんか死んだらいいんだよ!」
ニヤつく顔は怒りに染まり、これまでにない剣幕で言う山本。
「……チッ、お前らはそこで見とけ!おら行くぞ!ウォーター!」
先程とは桁違いの魔力が、杖に宿っていくのが見えた。
同時に水の球体が、ちらほらと現れる。
「……ま、纏」
俺はない魔力を引き出し、山本の魔法にそなえる。
「『水よ、我に力を』」
詠唱と共に、山本の周り一体から数えきれない程の、水の球体が生成されていく。
「『タイダル・ウェーブ』」
山本が唱え終わった途端、球体が弾けたと思った瞬間。
俺の方向へ、大量の水が一斉に流れ込んでくる。
水の壁とも言えるその波は、俺に逃げる隙を与えず、押し寄せて来た。
俺は視界が青一色になり、そのまま流される。
「がっ……あ」
山本のニヤついた顔が遠ざかりながら、暴力的なその水量に溺れる俺。
そして魔法訓練所の端へと俺を押し戻し、叩き付けたあと、水は消えていった。
スタッフは、手から離れどこかへ。
打ち付けられた後、そのまま意識が切れそうになってしまう。
これが……魔法か。恐ろしいな。
倒れたまま、身体が動かない。
――俺は、このまま死ぬのか?
その問いへ答えるよう、ポケットから、ライターが溢れて落ちる。
……はは、なに考えてるんだ俺は。
途切れかけていた意識を、呼び醒ます。
俺にも、『魔法』が有る。
自分でもまだ得体が知れない、俺だけの魔法。
魔力量も、魔法適正も、相性も何もかもあいつに負けているが。
それでもまだ、あいつとの『勝負』には負けてない。
「見せてやるよ――俺の魔法を」




