異世界召喚は唐突で
スローペースで進んでいきます。
主人公が活躍するのは20話ほど先になります。
今日は金曜日。
高校生である俺、藍祐介は、明日から始まる休みに心を踊らせながら、いつものように遅刻ギリギリで朝の教室へと向かった。
転校してからそんな経ってないししょうがない、決して寝坊したわけではない。
教室に入ると、男子や女子からの嫌な視線が出迎えてくれる。
全員から嫌われているわけではないと思うが、やはりこういった事は精神的にくるものだ。
まあ、そんなことはどうでもいい……とは考えれないんだよな。
俺はこういう見た目だが、中身は脆いのだ……
こんなにも皆から避けられる原因として、俺の外見にある。
まず茶髪が地毛であり、おまけで目付きが悪い。そんなこんなで近づいてくれる子は少ない。
それでも、少しだが友達はできそうであった。
身だしなみとか努力して、一般的な学生に近づいたからな!
それで終わりなら良かったが……
席についた俺は、いつものように隣席の女の子、神野樹に声をかける。
「おはよ、元気か?」
「……」
「明日は休みだな!」
「……」
「……」
っておい俺まで無言になっちゃったよ!
やる事が無いので、本でも読みながら考え事をする。
……樹は、ショートボブカットで、前髪が長く目が隠れている、変わった髪型な女の子で……あと背も小さい。
そして、無口すぎて今まで声を聞いたことがない。
聞いてみたい。というか話がしたい。不思議な子?って感じだな、本当に。
この子は俺が転校した時から隣席にいたが、最悪な事にクラスの一部からいじめを受けていた。
俺が隣にいるからやりにくかったんだろうが……それでも俺が転校してから数日後にいじめを受け、それを見た俺が止めたのだ。
止め方のせいか、俺が恐いのか分からないが、もう樹には誰も手出ししないようになった。
それからは、俺は樹と友達になろうとしているんだが…この様だ。
その騒動で軽い付き合いのあった友人は離れていったんだっけ。
だがまあ、その事については一切後悔なんてしちゃいない。
樹に何かしようとする奴らは消えたわけだしな。
それに――
「よう、相変わらずだな」
「ほんと、相変わらずね」
先に声をかけて来た方が尾上春樹。
身長が高く、筋肉質のベリーショートのイケメンだ。中身は賢いのかアホなのか分からない。
ただ俺なんかに仲良くしてくれているのだから、凄く良い奴だ。
もう一人が二ノ宮雫といい、このクラスの委員長。
綺麗な黒髪を肩より下まで垂らし、眼鏡をしている。あと身長が高い。
春樹ほどじゃないが……男子の俺と一緒ぐらいか?
そのままでも美人なのだが、眼鏡を外した時は女神とまで言われているらしい。
見たことはない。
この二人のように、俺がいじめを止めてからも仲良くしてくれている、良い友人もできた。
明日の休みは、この2人と映画を見に行く予定だ。この2人とは趣味もよく合う。
こんな俺なんかと一緒に行ってくれるなんて、本当に良い友達だ。
「……明日の事忘れてないよな?」
「忘れるわけないでしょー?楽しみよね」
「はは、本当にな」
春樹も雫も楽しみなようで何よりだ。
……しかし、さっきから俺に対する周りの男子の視線が痛い。
理由は分かる、そんな関係じゃないってのに。
「っともう朝礼か、また後で明日の事を話そう」
「りょうかい!」
「おう!」
やっぱり話できるのって良いなあ…なんて考えながら、俺は授業を受けたのだった。
――――――――
―――――
授業も終わり、そんなこんなで昼休みを向かえ、樹と机をひっつけて昼飯を食べていた。
いつも雫と春樹は違うグループで食べているので、樹と二人だ。
お互い無言だが、なんとなく嫌がっている感じではないので、毎日こうしている。
「……おい!」
雫曰く、心配しないでいいらしいが。
それでもやっぱり、俺はエスパーじゃない。
心配になるのが人間のサガだ。
「おい、聴いてるのか?」
でもなあ……樹って一人が好きなタイプかもしれないし。
それにしても静かすぎると思うんだけど。
「返事しろって」
……ああ!うるせーな!
ってあれ?こいつは――
「すまん考え事してたんだよ。どうかしたか?」
「……ったく。いつも言ってると思うが、雫とは話すな」
「はあ?」
「僕は雫がお前みたいな不良と話しているところは見たくない。雫は俺の大事な幼馴染なんだ。だから――」
……いきなり何いってんだコイツは……
この男は、一寺隼人だ。
学年に一人はいる完璧超人のイケメン。
雫達のグループにいたと思ったが、またこっちに来たのか……あ、雫がこっち来た。
……あいつも大変だな。
「ああうん、俺と雫はそういう関係じゃないから安心しろ。というかうるさいし、雫もこいつ持って帰ってくれ」
「ごめんね祐介君……ほら隼人、迷惑かけないで」
「まだ話は終わってな……」
おーおー、さすが雫だ。あっという間にあっちに連れて行った。
「はは、ごめんな樹。うるさくして」
「……」
そんなことないって?樹は優しいな!
……さて、放課後まで頑張るか。
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放課後になり。
「とりあえず明日は一時ぐらいでいいか?」
「うん」
「おう」
「わかった、おっと…じゃあなー、昼の一時に駅前で」
「「おー」」
「おい雫、明日何か……」
雫達と軽く明日のことについて話し終えたあと、隼人に絡まれないうちに離れる。
そのまま、かばんを持って樹とまだ騒がしい教室を出ようとした時に……『それ』は突然起こった。
床下に光が生じ、それは教室全体へ。
勢いはずっと増して、魔法陣のような形となりながら広がっていく。
教室にいた全員が唖然としている中、その魔法陣はさらに輝き続けている。
第六感がここから離れるように言っているが、体が動かない。
どうなってんだよこれ――
「なにこれ!?」
「おいおいどうなってんだ」
「おいこれ、魔法陣ってやつじゃ――」
騒ぐクラスメイト。
無常に過ぎる時間。
逃げ出そうにも、全員がその場にいた。
――そうして、魔方陣が急に消える。
同時に。
俺たちは――この教室から居なくなった。