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増幅使いの這い上がり  作者: aaa168(スリーエー)
『灰色の少女』編
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約束

「……!」



目が覚めると、私の横にはイツキが居た。


ユウスケの横にいた女だ。



……でも、どうしてここに?



「……貴方、ユウスケは?」



どうしてか顔を赤らめる少女は、私に気付くとハッとしたように向き直る。



「藍君、は……今、戦ってる。君の為に」


「……貴方は?」



そう聞くと、少女は不快な顔など一つせず。



「僕は、藍君を信じてるから。きっと帰ってくるって」




笑ってそう言う。



ユウスケとイツキの関係性は、あまり聞いていないけれど……深い信頼関係があるのだろう。



……ほんの少しだけ、私はもやもやした。






「そう……私は、やる事があるから」



「――待って!」



イツキは、私の腕を掴む。



「……何?」



「それは、藍君の為に、する事なんだよね?なら、僕も手伝いたい」




そう言うイツキ。


……まあ、いい。



「……貴方に出来る事なんてないと思うけれど。邪魔はしないで」


「……!」



頷くイツキを尻目に、私は走り出す。





――――――――――――




私は、『上』に登っていく。


50階を超えたその上が、バルドゥール達を制御する部屋。



エニスマを現した大きな画面が、私を出迎えた。




「……やっぱり、操作出来ない……」



紅く光る画面は、私を全く認識しない。


最終防衛体制に入った今、パパの手ではない私では駄目なのだろう。



……しかし。




「ユウスケ……こんなに強かったの」




画面に映るバルドゥール達の所在の紅い光。


赤い点が、次々と光を失って黒くなっていく。


それが、凄い勢いで戦闘不能状態になっている。


このエニスマに居るバルドゥール達はかなり強い。



パパの自慢のものばかりで、『武器』というものを持っている。


それらが束になってユウスケに向かっているはずなのに。



「……でも、数が多すぎるわ」



エニスマには、私を守る為に大量のバルドゥールが配置されてある。


それらが今、一斉にユウスケの元に向かっているんだ。



「止めないと……でも――うっ!」



何度触れても無駄だった。


私の操作でも無理という事は、パパしか不可能だということ。



ユウスケは凄く強い。でも――周りから、『集まって』きているのだ。


エニスマ周辺から、バルドゥール達が。



どうすれば――




「……この子達は……」



モニターを見る内、ある事に気付く。


今動いているバルドゥール以外、倒されたバルドゥールの色は『紅』くない。



色を失った、灰色だ。




「もしかしたら――」



紅くないという事は、コントロールできるかもしれない。


バルドゥールは魔力で動いている、だから魔力を送り込む必要があるけれど。


周囲の魔力工場は動作を停止している――私が、直接やるしかない。




「……えっと、これで、あとは……」




モニター横のカバー、パスワードを打ち込んで開ける。


現れた棒のようなものが、魔力をバルドゥールに送りこむ為のもの。


魔力を直接送り込む対象をモニターで選んで、私がこれを握れば自動的に私の中の魔力が行く。



今まで使った事がない。パパが使用した所を見ただけ。


パパの魔力でしかこれは動かないけれど……パパから創られた私もほぼ同じ魔力だから大丈夫なはずだ。



パパは魔力の量が凄まじかったけれど、私はどうなのか分からない。


……でも、やるしかないんだ。



「――っ」




身体から、何かが抜けていく。


恐らくこれが魔力なのだろう……まるで生気が吸い込まれるような。


思っていた以上に辛い、でも――耐えないと、ユウスケが。




「うっ――!」



身体が警告を出す。


吐き気と頭をガンガン打ち付ける頭痛。




「まだ、ユウスケが――」



朦朧として手が離れかけた、その時。



「――僕も、手伝うよ」



私の背中に、温かい感触が現れたと思えば――手にイツキの手が重なっていた。



「無駄よ――これは、パパの魔力じゃないと――」



「……君の魔力に、僕の魔力を合わせるから、大丈夫……」




イツキはそう言ったと思えば、私の手を通じて魔力が溢れてくる。


まだ、まだ増える――莫大な量のその魔力。



これは、パパと同等――いや、それ以上。





「貴方、一体――」



私の魔力が塵に見える程の量のそれは、私の手を通じて装置へ送り込まれる。




そして。




モニターの灰色の点達が『青色』になっていく。







「や、やった――!」





見れば、バルドゥール達が紅いバルドゥール達を抑えていっている。





「……これで、何とか……」




安堵の息をつく。






しかし。







突然、『揺れ』が起きた。



モニターを見て、『異変』に気付く。



「こ、これは――」




青色の点も、赤色の点も――全て。



消えているのだ。





「……っ、凄い、魔力……」




イツキがそう呟く。





……もしかしたら。




『溢れる魔力』


『停止するバルドゥール』


『揺れ』




頭の中で出る答え。




一度、体験した事がある。


私が、パパに内緒でエニスマから出た時の事――



『それ』は、起動した。






――『エント』。



それは、地下に眠りしバルドゥールの名。


パパが生前最後に創った、『兵器』だ。



私を『止める』為の、最終兵器。




ずっと起動しないから、もう動作を停止していると思っていたけれど。


そんな、楽観的な考えは捨てるべきだった。



あれが起動したら、流石のユウスケでも――






「もう、駄目……」




嘆く。


エントは強い。


そして、あれは『魔力』を吸って動く兵器。


エニスマだけではなく、地面も、空気も、空からも――全ての魔力を食らいながら『成長』していく。



倒れているバルドゥール達からも例外だ。


私達がせっかく復活させたバルドゥールからも、容赦なく魔力を食らっていく。



希望を無理矢理考えると言えば、停止期間だ。


永い眠りから覚めた今、エントの力はまだ十分発揮できない。





……でも、絶望的な状況だ。


栄養は、愚かにも私達が作ってしまった。




「ユウスケ……」




嘆く。


エントは、ユウスケを殺すまで動き続けるだろう。



停止する時はもう、ユウスケの息を止めた時。



……いいや。



もう一つだけ、ある。




「……『創生』」



久しぶりに発動した魔法。最初は失敗するかと思ったけれど、成功したようだ。



私はパパから創られた――そのせいか、半端だけれどパパの魔法が扱える。



魔力が私から失われ、私の手にそれは創られていく。



バルドゥールと同じ素材の板で、先端を鋭くとがらせたものだ。


私はそれを手に強く握った。




「――何、してるの?」




不信に思ったか、イツキが私に声をかける。



「……構わないで」


「っ!」



そう言い放す。


エニスマの最終防衛体制が終わる条件。



パパからは教えて貰えなかったけど、大体分かる。



この体制は、私を守る為のもの。


なら。





私が死ねば、全てが止まるはずだ。





「ユウスケには、よろしく言っておいて――」



決意を込める。


最後、ユウスケと出会って、本当に良かった。


私のせいで、そんなユウスケを失うよりも――私が死んで、ユウスケが生きてくれた方が良い。



だから、私は、ここで終わり。



ずっと『灰色』の記憶しか無かったけれど、私は最後の最後に、鮮やかな記憶を作れた。








さようなら。



だから、どうか私なんて忘れて――











「――……何、やってるの、貴方。邪魔を――」







胸に突き刺そうとしたそれは、届かなかった。


イツキが、尖部を握って止めたからだ。


私より少し大きいぐらいの綺麗な手が、鮮血に塗れる。






「藍君が、そんな事を望むと思う?」





多量の血と共に、壮絶な痛みがイツキを廻っているはずなのに。


その目は、有無を言わせない程に強い。



「藍君は、君を助けたいと思って、今戦ってるんだから」



私の手に握る板を離し、投げ捨てるイツキ。


私は、何も言えなかった。



「君は、藍君を悲しませたいの?」


「そんな、事……」



それは、答える意味のないほど、当たり前の答え。




「そんな、わけ、ないじゃない……」




弱々しく出てくる声と共に、涙が出てくる。


そんなの、ユウスケとこれからも居たいと思っているに決まっている。


だからこそ、今の状況が、私には苦しいんだから。



何もできない現状。


ユウスケを、無事を祈る事しか出来ない今を――






「――なら、ね?」






イツキは、優しい声で。





「……一緒に、信じようよ、藍君を。僕も――ずっと、信じてるから」




そう言った。


それは、全くユウスケが死ぬなんて思っていない、そんな表情。




……そうだ、私も信じなきゃ。ユウスケを悲しませたくない。




「……分かった、わ……」



だから。


私も、信じようと、そう思った。



「……へへ、それに、ね」





笑って、私に言い掛けるイツキ。


『唇』を指で、愛おしそうに撫でてから。





「『約束』、したんだ――『絶対に、帰ってくる』って」



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