目覚め
ミア視点に戻ります。
私は意識を失ったと思えば、夢のようなものを見ていた。
それは、『過去』のある場面。
……パパが、亡くなる頃の事。
「いいかミア。私が死んでも、外の世界に興味を向けるな。どれだけ寂しくても、辛くても……必ず」
パパは最期まで、ずっと外を恨んでいた。
そして当然、私がそんな外に興味を持つ事もパパは良く思わなかった。
「うん、分かってるよ。パパ」
そして。
「この場所も、ミアが守っていくんだ。それがミアの使命だからな」
手を強く握るパパ。
エニスマも――パパから託された。
嫌な気なんて全くしなかった。
パパが創り、私が生まれた大事な場所。
この場所をずっと私は守るんだと、そう決意した。
「分かってる。任せて、パパ」
パパは安心したように、手の力を抜く。
同時に咳を。
「……もう、私は終わりみたいだ」
「……パパ……」
生物には、必ず『死』というものがある。
パパにも、私にも。
それを初めて見るのが、パパだった。
「いいか、最後に」
それは、パパからの最後の言葉。
パパは手を、私の頬に置いて。
その表情は、『笑って』いた。
その笑顔は、私が初めて見る表情だった。
何か決心したような、心で決めたような……
そして。
「……ヒトの言葉は、信用するな……」
その笑った表情のまま、パパは言う。
これまでよく聞いていた、その言葉。
そして、目を瞑って。
「ミア……愛、して……いる」
私が涙を流す中、パパは息を引き取る。
私の名前を呼んで、パパは亡くなった。
―――――――――――
夢が終わったと思ったら、私はどこかの場所にいた。
恐らくこれも夢なのだろう。
白い空間。動けないが、思考だけが出来た。
……エニスマの最終防衛体制。
エニスマ内の全ての、またエニスマ付近のバルドゥール達が、外敵を破壊する。
一度だけ、パパの試用で見たことがあった。
バルドゥールが紅く光り、暴走に近い動きで戦闘体制に入る。
この体制に入る時は、ある事が起こった時に発動する。
『私が何者かにエニスマから攫われる』
『私が何者かに攻撃される』
『シルマが何者かに攻撃される』
『この場所の事について、何者かに明かした時』
『私と何者かが一定時間以上至近距離に居た時』
『私が何者かを、心の底から信用した時』
その他にも沢山あるが……
『全てはミアを守る為』のもの。
そう、パパは言っていた。
何者にも私を奪わせず、傷付けさせない。
しかし――それは、私が永遠に『孤独』でいるという事だった。
もし私が誰かと一緒にここを出たいと思っても、それは妨げられる。
誰かとずっと話す事も、秘密を打ち明ける事も出来ない。
ユウスケと出会ってからの私は、変だった。
外の世界に興味を持ったり、パパ以外のヒトとずっと話していたり。
……けれど、それは変なんかじゃなくて、『元々』の私だった。
私はきっと、最初からこんなのじゃなかったのだろう。
『孤独』な時間で、私自身についても忘れてしまっていた。
そして、ユウスケは――
『今』の私を、『昔』のそんな私に戻してくれて、ずっと一緒に居てくれた。
話をしてくれた。何度も何度も、私が拒んでも近付いてきてくれて。
『助けてやる』、そう言って私を抱き締めてくれた。
「……ユウ、スケ……」
その者の名を呟く。
きっと彼は、今戦っているはずだ。
他ならぬ『私』の為に。
『ヒトの言葉は信用するな』
まるでそれは呪縛のように、私の中で響く……パパの声。
ずっと信じてきた言葉。
……でも。
もう、私は迷わない。
「パパだって――ヒトじゃない!」
叫ぶ。
私は初めて、パパに反抗する。
「私は、ユウスケを――信じるから!」
同じヒト、パパとユウスケなら――今は、私はユウスケを『信用』する!
ユウスケの為に、今私が出来る事を。
その瞬間――私は、夢から目覚めたのだった。