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増幅使いの這い上がり  作者: aaa168(スリーエー)
『灰色の少女』編
109/127

ミア③

「……ユウスケ」



その名を、一人部屋で呟いてみる。


ユウスケは、何か言いたげだったけれど……無理やり部屋から追い出した。



彼は本当に不思議な者だ。こんな私にずっと構って。


最初は怖かった。パパ以外の人間と遭対するなんて、考えた事も無かったから。





彼はここを出てからも、沢山の冒険をするんだろう。


本で見せてもらったような、綺麗な青い空の下で。


こんな場所があった事も、私の事も、忘れてしまう程に。



……もう、限界に来ている。分かるんだ。


これ以上ユウスケと話したら――この場所に埋められた、『システム』が起動する。



明日で、最後だ。


彼と話すのも、彼と会うのも。


そう決めたんだから。





――――――――――――――





「……ミア。おはよう」


「おはよう、ユウスケ」




最後と思えば、案外私も素直になれた。


挨拶なんて返すのは、パパぶりだろうな。



「今までの事、本当に感謝してるの」



私は今、どんな表情をしているだろうか。



「ミア。君は一体、何を隠してる。どれだけのものを抱えてるんだ」



彼はそう言う。



「……私の秘密を知れば、貴方は死ぬ。それ程のもの」



もう、隠す事もない。


今日で別れるんだ。



「……何だよ、それ」



ユウスケは、苛立つようにそう言った。



「ふふ、ごめんね。私は、そういう『モノ』だから」



言い放つ。



「――俺がミアを助けようとすれば、俺が死ぬってか?」


「ええ」




震えるユウスケ。私は淡々とそう答えた。


無理もない。私に掛けた時間が無駄になったのだ。


彼の命と私を助ける事――天秤に乗せたら答は出る。





「ふざけんな!一体、誰が――ミアをそうさせたんだ」



ユウスケはそう怒鳴る。


本当に彼は優しい。私をこうさせた者に、怒ってくれるなんて。


でも――その答えは、彼にとっては辛いもので。



「私のパパ。私が大好きなパパよ」


「な――」



ユウスケの顔が歪んでいく。


彼を助けた『父親』という存在は、とても大きなもの。


過去を聞けば、それは相当なものだった。


その父親が――私のパパが、私をこうさせたのだ。


彼にとっては、受け入れがたいものだろう。




「……それじゃ。これ以上はもう、貴方と話せない」


「っ――」






ユウスケに話せるのは、ここまで。


これで、最後だ。










「あのね」









私は、ずっと一人でいたから……表情の出し方も、分からなかった。


それでも、頑張って練習した。


ユウスケに見せられるように。最後には、必ずこの表情で別れられるように。






想い出す。


ユウスケとのこれまでの日々。


楽しかった、とても貴重な時間。






話してくれた、ユウスケの話。





見た事もない綺麗な世界。


この島の外を冒険する――そんなユウスケの姿を。




表情を作るために、頭に浮かべていく。『楽しい』情景を。









「今まで、本当に――ありがとう。ユウスケ」









とびきりの、笑顔。





「――っ」



ユウスケは驚いたような、そんな表情だった。


初めて見るから当たり前だ。それにしても変じゃないだろうか。


私が笑顔なんて出すのは、忘れる程に久しぶりだろうから。







「――ミア」


「ふふ、何?」






ユウスケは私の名前を呼んで近付く。


そんなユウスケに、私は笑った顔を作りながら答えた。


――瞬間。




「……!」




私は、ユウスケに――抱き締められた。




温かく、心地良い彼の身体。


はずなのに――私の頬の部分だけ、ヒヤりと冷たい。


まるで、何かに濡れているようで。



……これは、私の、『涙』?




「――言ったよな。俺は、絶対にお前を見捨てないって」





抱き締めたまま、彼は言う。


私が欲しかった言葉をつらつらと。


それはきっと、聞いてはいけない—―なのに、私の心が拒否しない。



「何があろうと――俺に何が降りかかろうとも、俺がお前を救ってやるから」




涙が、彼の服に、染みていく。


それ、以上は、ダメ。



「……『今まで、よく頑張ったな』」




心に響く優しい声と、頭にかかる優しい感触。


何かがシルマの中で起動した。


同時に心が、ユウスケに埋め尽くされて。





「だ、め――――――」





意識が無くなっていく。


パパの創ったシステムが――ユウスケを対象に、発動しているのだろう。


靄がかかったような視界の中。私は意識を手放していった。



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