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増幅使いの這い上がり  作者: aaa168(スリーエー)
『灰色の少女』編
105/127

ある一年前①

祐介視点に戻ります。

「ふう……今日はこれで終わろう」






朝のトレーニングを終わらせてから、俺は灰色の空を眺める。


まだまだこの場所は慣れないな。



青い光、脈動する工場、守る機会の兵隊達。



そしてそんな場所に一人佇む少女。



あのあげた本は、大事にしてくれているだろうか。


飽きる程開けた本だったが、こうして手元を離れると寂しいもんだ。




俺は、あの子と仲良くなれているのかな。


あの子は、少しは寂しさを忘れてくれているかな。




「……まあ、俺は俺のやる事をするだけだ」




まだ会って時間もそう経っていない。


ゆっくりと、知っていけばいい……








「今日は……1()2()()1()6()()、か」





腕時計を眺め、俺は呟く。


12月16日。この日だけは、何があっても忘れる事など無い、そんな日だ。



ポケットからライターを取り、点火する。



朧げな記憶になど、決してならない。


この火のように、俺の中で、『あの時』の記憶は生き続ける。





「あれから、もう一年経ったんだな」





思い出す。


俺のこれまでを。


ライターを眺めながら、記憶を呼び覚ましていく。








――――――――――――――――――







俺の生まれは、中々大変だったらしい。


俺が大変という訳ではなく、母がだ。



身体が元々弱かったんだが……さらに子供を宿すと言えば周りが止める程だった。


それでも本人の希望で、俺が生まれたんだ。



考えられない程俺は元気だったらしいが――母さんはその反動か分からないが衰弱していった。


俺が物心つく前の事だ。俺を抱きながら、静かに息を引き取ったらしい。




当たり前だが、それだと父親しかいない。


俺はずっと、父さんに育てられてきたんだ。


それはそれは大変だっただろう。小さい頃は仕事を休止して、好きだった煙草もやめて……ずっと面倒を見てくれていた。




「祐介は、母さんの血を継いでるんだぞ」



そう言って、俺の頭をよく撫でてくれていた。


この茶色の髪は、俺の知らない母さんのものらしい。




そんな髪が伸びてきて、俺が小学生になり、少し経った頃。



「いってらっしゃい」



父さんは、仕事を再開した。


父さんの仕事は変わっていて、世界を回る仕事だった。


各地の綺麗な写真を撮って、その写真を売る仕事。



当然ながら、世界を回っている間は家に俺一人。



大変だったのは、料理や洗濯などの家事だ。


父さんは不器用だったけれど、俺に必死に教えてくれた。そして俺も頑張って覚えた。


自信満々に父さんを見送る事が出来るほどには。




「ただいま、ユウスケ」



当たり前だが、父さんが居ない間は寂しい。


家事が出来ても、その家事は自分の為だけだから。


帰ってきても誰もいないというのは、小学生にはなかなか辛かった。



「おかえり!」



それでも、父さんが帰ってくる事は、その寂しさが吹き飛ぶほど楽しみだった。


仕事先でのお土産には、食べ物や音楽、おもちゃ。


何よりも、父さんと話せる事が楽しかった。



仕事先での変わった出来事とか、変な人物とか、感動した事とか。


撮った写真を机に散りばめて、その写真の物語を聞かせてくれたり。


控え目に煙草を吹かしながら、それらを語る父さんが、俺は大好きだった。



「祐介は、母さんに似て器用で賢いな」



父さんが俺を褒めてくれる時は、本当に嬉しかった。


そして俺は、父さんに褒められる為に色々と頑張った。


テストも頑張ったし、料理の幅も小学生ながらに増やしていく。



「いってらっしゃい」



また仕事に行く父さんを見送って、また帰ってくる日を待つ。


「ただいま」


そして帰ってきて、いっぱい構ってもらう。


そんな日々。


俺はそんな毎日が楽しかった。


「いってらっしゃい」



―――――――――――――――



中学生になった。


父さんの写真家としての名が、かなり売れ始めた頃だった。


今までよりも更に忙しく、俺に構ってくれる時間が少なくなってきていた。



「ただいま、祐介」


「……」



俺は挨拶を返さなくなった。


いわゆる、反抗期っていうやつだ。


俺を置いて世界に旅立って、毎日仕事。



今思えば、寂しかったんだろう。


その寂しさが、俺をそうさせたのかもしれない。



「本当に祐介の飯は旨いな」


「……あっそ」



本当は嬉しいのに、そっけない態度を取ったり。


「明日出発なんだ。朝ごはんは――」


「っ、勝手に行けよ!」



本当は行ってほしくないのに、突き放す言葉を言ったりした。




時は立つ。



中学校でのある時。



「祐介君のお父さんって、あの有名な写真家の『藍悠馬』さん?凄いね!写真見たけど凄かったー」



一度何かの拍子で地域の新聞に父さんの名が出てから、クラスメイトからも知られるようになった。『藍』……確かに、変わった苗字だったしな。


それで父さんが人々に賞賛されているのが分かって、とても嬉しかった。


父さんは、俺だけじゃなく他の沢山の人を楽しませてるんだって。



だからこそ父さんが忙しいのは当然だと、そう考えるようになった。


これが、中学二年生の時だったか。



「ただいま」


「……おかえり」


「……!ああ!」



ほんの少しずつ、俺は素直になっていった。





―――――――――――――――――


高校生になった。


頑張って勉強して、かなり良い所の高校に入れたと思う。


勿論父さんは褒めてくれた。父さんも、その頃はかなり有名になっていたと思う。



大分打ち解けて、俺はかなり父さんと仲良くなっていた。


昔のように旅先での話や、俺の学校での話とか。


「あっちの人は大変だ」とか、「高校で茶髪で苦労してるんだぞ」とか、父さんと会話するのが楽しかった。



仕事が忙しいのも受け入れられて、また、毎日が楽しくなってきた所だった。



()()()()()()()()()


どれ程思っただろう。





――――――――――――――



――――――――




時は経つ。





12月16日。父さんの誕生日。



高校生になってしばらくたったその日。



「誕生日ぐらい家で過ごしたいからな。無理やり空けてやったよ。ハハハ」



そう言って、三日前、凄く嬉しそうに仕事へ行った父さん。



それを聞いて俺は色々と準備をしていた。


ある程度以上の家事は出来るようになり、色々こだわった料理も出来るようになった。


父さんが持って帰ってきた食材も織り交ぜて、手によりをかけた料理。あとバースデーケーキ。ろうそくもしっかりと立てておいた。




……そして、秘密でバイトして貯めたお金で買った、ネックレス。


歳を取るにつれて格好良くなる父さんに似合うような、銀の格好の良いものを買って、箱に詰めた。



これまでの感謝を込めて。



喜ぶ顔が見たいから、俺は帰ってくるまでの三日間が楽しみで仕方がなかった。





「……まだ、かな」




時間は、夜の九時を回っていた。


早かったら、六時には帰ってくると言っていたのに。


料理も冷めてしまう。俺はネックレスの箱を握りしめて待った。



きっと、電車か何かが止まっているのだろう。


多少味は落ちるけど、レンジで温めよう――――



「――!」



電話が鳴った。


きっと、父さんからだと、そう思って取っていた。


そして。








「――――君が祐介君か!?」








知らない男の人の声だった。


切羽詰まった、そんな声。



「そう、ですけど……」



圧に押され、引き気味に返事をする。



「……そう、か、祐介君。心して、聞いてくれ」



そう、言い出す男の人。


分からない。


これ以上、何故か聞きたくなかった。







「……君のお父さん、悠馬は――――――」






続く言葉を聞いた瞬間、時間が止まった気がした。







「――亡くなった」









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