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増幅使いの這い上がり  作者: aaa168(スリーエー)
『灰色の少女』編
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灰色から②



「よっ」



その男は、軽い挨拶だけして、私の部屋に上がり込む。


声が少し震えている、緊張しているようだ。


鍵は開けておいた、閉めてもどうせ最初のように入ってこれるのだから。


……今になって疑問が浮かぶ。この男はどうやって鍵を開けたのか。


パパの魔法で創られた鍵だ、そう簡単に開けられない。まして力業な様子でもない。




「……」


「もしかして、機械達の動きが収まったのは君のおかげか?」



私が考え込んでいる間に、その男は言う。


機械達……というのは、バルドゥールの事だろう。


昨夜、この男が出て行ってから、警戒レベルを下げておいた。

バルドゥールに危害を加えない限りは、何者にも手出しをさせないように。


パパが亡き今、この場所の全ては私の統轄だから。




「そうだけど」



私は肯定する。突き放すようなこの喋り方は、どうやっても直せない。


自身の意思と発する言葉が噛み合わない。


パパと話していた時はこんなじゃなかったのに。



「やっぱりそうか、助かったよ。あれは手強いからな」


「……当たり前でしょ」



パパが創ったのだから、当然だ。


エニスマの領域内は、パパの自慢のバルドゥールばかりなんだから。


シルマ付近なんて、設計にどれ程時間を――



「はは、そっか」



この男は、そのバルドゥール達を倒してきたんだ。


パパが創ったバルドゥールを。パパが聞けば、どれ程驚くだろうか。



「何度も死にかけたよ。毎日強敵との連続だった。特にこの塔の周りは凄かった」


「……そう」



現に、この男の顔には受けたであろう傷がある。


服や靴なんかは、何故か全く傷がないけれど……



「あ、別に恨んではいないぞ!何なら感謝してるんだ」



感謝、という言葉が引っ掛かる。


自分が死にかけた相手に、なぜそんな事を抱けるのか。




「……ん?はは、強くなれたからな」



疑問で沈黙した私へと、男はそう言った。


強さ。……生き残るには確かに必要なものだ。



「……強くなって、どうなるの」



私は、少し声音を強くしていた。


『もっと強くしないと』


パパがバルドゥール達を創る時も、いつもそんな事を言っていた。

同じような事を言う彼に、私は少し苛立っていたのかもしれない。



「そうだな……色々と理由はある――でも一番は、大事な人を守る為だ」



男の言葉に、私は返す事が出来なかった。


静かにいったその言葉の重みと、ここまで侵入した実績に、彼の道のりを見た気がして。


一体この男は、これまでにどんな人生を――



「……はは、ちょっと格好つけたな。でも本当の事だよ。勿論自分が生きる為でもあるけど――」



そう話す彼を、私は遮って――





「――貴方達は、一体何者なの」




――――――――



「何者、か……」



少しの沈黙。


私の声に驚く事無く、考え込む男。



「あ!」



その最中、急に驚いた様子を見せる。



「……はは、ごめん……名前言うの忘れてたよ」



そう言いながら、恥ずかしそうに頭をかく男。


別にそんな恥ずかしがる事では無いと思うが、彼の中ではきっとそういうものなのだろう。




「俺の名前は――アイ・ユウスケ。ユウスケって呼んでくれ」



男――いや、ユウスケはそう名乗った。



「君の、名前は?」



パパ曰く、生まれてきた者には名前が付けられる。


私も同様。そして名前は、親が名前を付ける。だから私は、パパから名前を貰った。



――「名前は……そうだ!ミアにしよう、おまえの名前はミアだ」――



……私の名前はミア。パパから授かった、綺麗で、大切で、とても気に入っている名前。


だからこそ――他の者に、そう呼ばれたくなかった。



「……名前なんて、どうでもいいでしょ」


私は、そう言い捨てる。



「そっか。教えたくないなら良いよ……でも、君に名前があるんなら、それは大切なものだ。どうでも良くはないと思う」



ユウスケはそう言う。


そんな事は分かっている。この名前は大切なものだ。


でも、何か少し悔しく、腹が立った。



「……」


沈黙。


言い返す言葉も見つからないので、私は黙り込む。


まるで子供だ。



「……さてと。俺達が、何者かって質問だったな」



黙った私へ、ユウスケは続ける。



「俺達は――別の世界から、転移してきたんだ」



『別の世界』。『転移』。


そのどれもが、聞いた言葉だった。


それはそうだ――パパも全く同じ事を言っていたから。



この者達は――パパと同じなんだ。


()()()()()()


「まさか、こんな所で……」


パパと同じ異世界転移者と会うなんて、と……驚きを隠すことなど出来なかった。



「そ、その別の世界の名前は?」


「前の世界は――うーん、何て言えばいいんだろうな。あえて言うなら『()()』、か」



また、聞いた言葉。けれど、それは良く分からなかった。


言葉だけで、何かが分からない。でも、聞いた事があるんだ。


ユウスケは、パパと、多くの共通点がある。



「……君は――」



私の反応を見て、何か言おうとしているユウスケ。


頭が混乱して、続きが聞き取れない。



「――今日は、もう、帰って」


たまらず、私はそう言い放ってしまう。





アイ・ユウスケ……彼との会話。


これが、初日の事だった。

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