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増幅使いの這い上がり  作者: aaa168(スリーエー)
『灰色の少女』編
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帰路

「……そ、そっか!ありがとな」


子供に心を開いて貰えた時のような感覚だ。


まだ完全にではないだろうが、嬉しい。


「……」


少し喋って、黙り込む少女。


会ってそうそうこんな事を言われて、この少女も動揺しているのだろう。


今日は一度帰った方が良いか……俺も話す内容を考えて置かないと。


樹以外に話す事なんて無かったしな。ここ最近はずっと。


……まさか、この地でこんな事に悩む事になるなんて。



「じゃあ、また明日な!」



――――――――――――――



部屋を出ると、樹が待っていた。



「……」


出迎えに、静かな笑顔を見せる樹。


どうやら俺の顔で結果は分かったらしい。


分かりやすい顔をしている、とよく雫にも言われた。



「また明日も来ていいってさ」


「……そ、そんなに、もう?」


驚く樹。


と、思っていたが少し外れていたらしい。


驚く樹はレアだ。ちょっと嬉しいな。




「はは。樹のおかげだよ。明日から何話すか考えておかないと」



久しぶりだ、初対面の人と話すのは。


しかも相手は少女。唯でさえ話すのが得意じゃないってのにな。



「……藍、君」



俺が帰路に着こうとした時、樹が俺の服を小さく掴む。


少し俯いて――まるで俺を逃さないように。



「ん?……はは、そういや樹と前の世界に居た時と似てるな。今の状況はさ」


「……?」


不思議そうな顔をする樹。


昔を思い出す。


最初は全く仲良くなれなさそうだったけれど、諦めずに話しかけていた時。



「あの頃はさ、樹と話す内容をずっと考えてたんだ。どうしたら、樹が楽しそうにしてくれるかなとか、こんな事言えば笑ってくれるかなとかさ」


「……っ」


何と無く昔を思い出すように言うと、樹の手が少し震える。


まあ結局のところ……この世界に来てから初めて会話したんだけどさ。



「本当にずっと諦めなくて良かったと思ってるんだ。だから――あの子の事も、諦めずに頑張ってみようかなって……そう思えるんだよ。はは、最初は流石にキツかったけどさ」



そう言うと、樹の手が離れた。


俯いた顔も戻る。


見えていなかった顔は、静かに笑っていた。



「きっと……大丈夫」


樹がそう言ってくれるのなら心強い。


俺は、止まった足を再度動かした。



―――――――――





帰路。



「――――……」



俺達は『機械兵の間を通り抜けて』塔の中を歩いている。


あの少女と話してから、何故か機械の兵達は俺達を襲って来なくなった。


まるで俺達など……最初から敵じゃなかったように。


「……」


樹も少し困惑しているようだ。


戦闘であまりじっと見る事が出来なかった機械達だが、こうして見ると本当に良く出来ている。


元の世界でもここまでの物は見たことが無い。


「――」


先程まで死闘を続けていた機械なだけあって、中々慣れないが。


「はは、どうしようか。この様子だと『ダンジョン』まで戻らなくても大丈夫そうだな」


「……」


頷く樹。


「……そういえば、通りがかったあの場所は……」


機械の兵士がこの状態なら、あそこが使えるかもしれない。


まるで住宅街のような、家のような建造物が沢山並んでいた場所。


「ちょっと、行ってみようか」



――――――――――――



ここに来たのは半日前だが、それでも兵に警戒していた為じっくりとは見れていなかった。


そして抱いた感想は、ジオラマをそのまま持ってきたような、そんな建造物ばかり。


家という『形』のモノが、並んでいる……そんな光景。



人の気配はない。



更に言えば、生きていない。



そんな印象だ。




「……お邪魔します」


その中の一つ、サイズが平均の建造物に入ってみる。



人の気配など全く無く、生物の気配すらない。


しかし、意外にも中は充実していた。



「凄いな、風呂もあるぞ」



寝室に浴室、リビングに机や食器までも。



そのどれもが埃を被り、払ってみれば一度も使用した事の無いほどに綺麗だった。



「本当に、誰も居ないんだな。ここには……」


恐らく他の建造物も同じだろう。


何故このような場所を作ったのかは分からない。


ただ、少し……この使用者の居ない部屋に悲しくなった。



「ちょっと掃除しようか」


この家が創られた当初に戻したい。


そして当たり前だが、この状態のまま泊まり込むには少々辛かった。


恐らく埃が溜まっているだけだろう、すぐ終わるさ。


「……」


頷く樹。


樹も俺と同じ心持ちな様子。



「さて、何からするかな」



前の世界ぶりの、掃除という作業だった。



―――――――――――――――――



「……終わっちゃったな……」



先程の宣言から一時間も経っていない。


俺は勿論『普通』に掃除したが……樹は別だ。


魔法がある。樹曰く聖魔法と水魔法は凄くこう言った事には便利らしい。



「……」


ぴかぴかの部屋を背景に、どこか自慢げな樹。


はは、完敗だ。



「おつかれさま、流石樹だな」



そんな樹の頭を撫でてやる。


「……」


嬉しそうに、頭を委ねる樹。


「……はは」


思わず出てしまう、安堵の笑み。


……今まで張り詰めていたせいか、やけに時間が温かく、ゆっくりと進むように思える。


ここの兵達も収まったし、戦闘は少しの間お休み出来そうだ。



「ご飯にしようか、樹」


ここには家具がある。そして調理器具があるんだ。


腕を振るわないとな!




――――――――――――――――




「ごちそう、さまでした」


「ごちそうさま」




相変わらず樹はよく食べる。


魔力量が多いからだろうか?美味しそうに食べてくれるのは嬉しいけどな。


流石に魔物の肉だけだと限界だ、外の世界ではもっと美味しい料理を作れるようになるだろう。


樹の嬉しそうな顔をすると、旨い料理を作ってあげたくなる。


立場逆か?まあいいか。



「さてと……そういえば、お風呂もあったよなここ」



この建造物は見事に家であり、浴室もある。


今までは樹の魔法で身体を洗ってたが……久しぶりに、お風呂に入るのもいい。


日本人だし、何より樹は女の子だからな。それを望んでいるだろう。



「……!」



笑って頷く樹。


予想通りだった。



「んじゃ……先入ってどんなもんか見てくるよ」



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