高校捜索
小説を書くのに興味を持ちとりあえず書いてみようで書いた作品です
部屋の片隅にあるベッドの上で、どんよりとした朝を迎えた。
昨日引っ越してきたことと、まだ頭が冴えていないことでここがどこなのかわからなかった。
「はあ…」
ため息がこぼれる。
高校入学前の四月に家族が大事故に巻き込まれ私以外亡くなってしまった。
周りの親戚の援助もあり今日十月三日からやっと高校に通うことができる。
しかし私は高校に行ける喜びよりも不安が勝り支度が捗らない。
「はあ…」
二度目のため息がこぼれたところでようやく家を出る決心がついた。
「いってきます」
誰もいない家にその声が空しく響いた。
家を出て徒歩五分の場所に高校はある。
閑散としている道をだらだらと突き進んでいく。
「人がまったくいないんですけど…」
遅刻しているとはいえこれほどまでに人がいないものかと私は不思議に思った。
そうこうするうちに校門が見えてきた。
「あれ? ここであってるんだよね…」
一目で普通の高校ではないことが分かった。
あまりに大きく、威圧感すら感じる。
俗にいうお嬢様学校というやつだ。
記憶が混乱する、私はこんな高校を受験した覚えがないのだ。
「そこでなにをしている!」
見るからに厳つい大男が怒鳴りつけてきた。
「わ、私は、怪しい者ではなく、じ、事故で通えてなくて、それで…」
正直かなり怖かった。
「もしかして、白崎さんかい?」
大男は先ほどとは変わって優しい口調で話しかけてきた。
「は、はいそうでしゅ」
噛んでしまった。
恥ずかしさで頬が赤くなっていく。
「この門を通るにはまず、身体検査と荷物検査をしなきゃならん」
私の噛んでしまったことなど無かったかのように大男は歩き出した。
門の脇にある大きな部屋に案内された。
案内された部屋にはよくわからない大量の機械と先ほどの大男より少し小さい男達三人が待ち構えていた。
なにも言わずに一人の男が私の持っていたカバンを機械の上に置きボタンを押す。
そしてもう一人が私をセンサー前まで誘導し、最後の一人がセンサーを起動する。
流れるような作業だった。
この作業に関心していると、検査結果がすぐにでた。
検査結果は身体、荷物ともにまったく問題なかった。
部屋から出ると大男が私を出迎えてくれた。
「中の連中が無愛想で悪かったね」
「そんなことなかったですよ。それよりこの学校セキュリティーがかなり厳重なんですね」
「俺達警備している身からしてもやりすぎだと思うんだが、ここの校長の意向でね」
大男が門を開けるスイッチを押しながら苦笑いを浮かべた。
「そうなんですか、大変ですね」
私は微笑みながらそう返答し、門を通過した。
門を通過するだけでかなり疲れた。
その疲れを癒すために校舎内をぶらぶら散歩しながら教務室を探す。
教務室につくどころか、今いる場所がどこかすら分からない、完全に迷った。
私が方向音痴などでなくこの校舎が入りくんでいるのが悪いと自分に言い聞かせる。
人に行き道を尋ねようにも本当に校舎の中なのか怪しくなるほどに人がいない。
「何か用事ですか?」
「うわぁっ!」
急に後ろから話しかけられたので驚いて声を上げてしまった。
「ごめんね、驚かしてしまったね」
優しそうな顔をしたメガネをかけた青年がそこにはいた。
「いえ、いいんです。えっと、先生ですか?」
「そうだよ、僕は黒咲っていうんだ。君は見たことない顔だけど迷子かい?」
黒咲先生に訪ねられている中、かすかに何かが欠ける音がした。
しかし自称人見知りの私は先生の質問に答えるのに必死で特に気に留めなかった。
「私は、白崎優っていいます。事故で入院していて今までこれてなくて、」
「ああ白崎さんか、校長から聞いているよ!手続きは終わったのかい?」
私の話を遮られ話したかったことを質問してくれた。
「教務室の場所が分からなくて」
そう答えると、手を握られ引っ張るように案内された。
「…」
意味が分からなかった教務室に案内してくれるのかとばかり思っていた。
私はまるで貸切状態かのような食堂にいた。
「ここって教務室ですか?」
分かりきってはいたが、一応確認してみた。
「そんな分けないじゃない!」
いきいきとした表情で答えられてしまった。
「まだお昼には少し早いけど、昼食にしよう。貸切だよ!ここの昼食はすごくおいしいよ。今日は洋食みたいだね。待っていて白崎さんの分も僕が注文してくるよ。」
びっくりするほど早口で話し厨房の中に入っていった。
それほどここの料理がおいしいんだろう。
そんなことを考えていると先生が戻ってきその数分後に料理が運ばれてきた。
「…」
言葉が出なかった。
高校生が毎日こんな料理をたべているのか。
「さあたべよう」
先生は驚きもせず平然と料理に手を付けていく。
私もそれに続いて食べ始める。
おいしすぎて、はしたないとは分かりながらもがっついて食べてしまった。
「ごちそうさまでした」
二人とも無言で食べ進め、すぐに食べ終えてしまった。
「昼食をご馳走にしてくれてありがとうございました。えっとそれで教務室のほうは?」
黒咲先生に昼食への感謝意を込めながらそう尋ねた。
「え、ここの二階が教務室だよ。あれ言ってなかったかな? 食べ終えたし一緒に行こうか」
そんなに近くに教務室があったとは。
黒咲先生はテーブルの上に一万円を置き二人はその場を離れた。
昼食に一万円払うなんて、そんなことを考えながら二階にあがり教務室の前まで来た。
教務室の中に入ると先生達のほとんどが、私と黒咲先生の方を一度見てすぐに仕事に戻った。
「私はまず何をすればいいんでしょうか?」
「書類に色々と書き込んでもらうことがあるんだけど、その前に神谷校長に僕と会って貰うことになっているから」
少し小さな声で私にそう言った。
私は黒咲先生の顔に少し怖さを感じた。
「パキッ」
黒咲先生がそういうと何かが欠ける音がした。
私は黒咲先生が校長室から帰ってくるまで、教務室の中にある待合室ですこし待っていた。
「神谷校長の準備ができたそうだから行こうか」
校長先生と奥で話をしていた黒咲先生が戻ってきて私にそう告げた。
黒咲先生に連れられて校長室の扉を叩いた。
「はいっていいぞ」
神谷校長の低い声が聞こえてくる。
私はここで何を話すのかを聞かされていない。
「失礼します」
私は扉を開け一歩踏み出した。
「ドン!」
「え?」
どうやら私は黒咲先生に後ろから押され床に倒されたらしい。
「こいつが今回の女か、貧相な体つきだな、まあ売り物として高値がつくことは間違いないだろう」
神谷の汚い笑いが部屋の中に響く。
「黒咲鍵をかけろ」
「はい」
黒咲が扉の鍵をかけた。
私は顔をあげ神谷の顔を睨んだ。
その瞬間私がしていた指輪が弾け飛んだ。
同時に黒咲が私に向けてナイフを放り投げてきた。
私の視界が暗転し、意識が消えた。
頭が痛い。
吐きそうだ。
「目が覚めたか」
白衣を着ている顔のやつれた男と、私が黒咲先生と呼んでいた男が目の前に立っていた。
「で、うまくいったの?」
「もちろんだ。神谷は死んだよ。依頼達成だ、白、アルブス、アーテルよくやってくれた。」
コロルと呼ばれるこの組織ではコードネームが与えられる。
私は白と呼ばれ、そして私の中にいるもう一つの人格、こいつはアルブスと呼ばれている。
「カエルレウム、白が目を覚ましたんだ、もう行っていいだろ」
アーテルと呼ばれるメガネをかけた不機嫌な男が、白衣の男にいらいらしながら話しかけた。
「なかなか白が目を覚まさないからアーテルは君のこと心配してたんだよ」
にやにやしながらカエルレウムはそんなことをいいだす。
「当たり前だ、ここに戻る直前急にアルブスが倒れやがる。心配するに決まっているだろ」
「あれは、指輪の副作用だろうね。大変だったんだよ、あそこの高校生徒が入るときに荷物、身体だけでなく記憶の検査までするんだから。指輪を作るだけでかなりの時間、能力を使ったよ。白の記憶操作から指輪の透明化、人格の制御、黒咲という名前を聞き神谷の名前を聞き、それから神谷の顔を見るという順序を踏むことで指輪が壊れるような細工。それだけの能力を詰め込んだ指輪だ、壊れた時に意識が飛んだり、のちのち意識を失ったりするような副作用は出て当然だろ」
「なぜそれを俺が待っている間に言わない」
アーテルがカエルレウムを蹴りながら言う。
カエルレウムが言うようにコロルにいる人間は基本何かしらの能力を持っている。
カエルレウムは時間はかかり材料はいるらしいが自分が必要な能力を詰めた道具を作ることができる。
アーテルは正直よく知らない、あまり能力を私に見せたがらない、カエルレウムやほかの連中は知っているらしいが。
私自身には人格切り替えという地味な能力があり、人格を切り替えた先、アルブスには刃がついていればどんな物でも切ってしまうというとんでもな能力がある。
今回はアーテルが食堂でくすねたナイフを使ってアルブスが神谷の頭をはねたらしい。
「じゃあ白、カエルレウム俺はもう行くぞ」
アーテルがそういい部屋を出て行った。
「じゃあ僕もいくね、白まだ周期的に急激な眠気が来るはずだから」
そう言い残しカエルレウムは去って行った。
「ああ頭が痛い、吐きそう、……アルブスありがとね、おやすみ」
私は目を瞑り静かな闇の世界へ落ちて行った。
読んでくださりありがとうございました