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卒業ラプソディー

作者: 候岐禎簾

 屋上に上がり空を見上げる。大きく翼を羽ばたいたような形をした雲がゆっくりと大空を流れている。この屋上へと続く階段は普段、ダイヤル式の南京錠で施錠されていて入れないのであるが、偶然にも4桁の番号を知ってしまった俺にとってそんなものは関係なかった。

 この場所は本当に空がよく見渡せる、そんなステキな場所だ。悩み事があったり、悲しいことがあったりした時、俺はここに来る。そして、寝転んで空を見上げながら目を閉じる。風の音を聴きながら。


「ちょっと!ここにいたの?探したのよ!」

 屋上へと通じるドアが勢い良く開き、同級生の安藤真琴あんどうまことが入ってきた。


「今日の卒業式出ないつもり?明日からみんなバラバラになるんだよ!」

 真琴は息を切らしながら俺に向けてそう言った。


「あぁ、出ないよ。卒業式悲しくなるんだ。だから出たくない。体調が悪いって先生に伝えといて」

 俺は悲しくなるようなそんな場所が嫌なのだ。本音を言うと家を出る時は「卒業式」に出ようと思った。でも学校に着いた途端、急に寂しい気持ちになってしまい、俺だけの憩いの場である屋上に来てしまったのだ。


「そんなこと言わないでよ!私、そんな嘘はつけない。私とあなただって進路は別々じゃない。今日が過ぎるとしばらく会えなくなるんだよ!」

 たしかに彼女の言う通りだ。俺は4月から東京の四年生大学へ。真琴は大阪の服飾専門学校へ行くことになっている。明日からは引っ越しの準備やら何やらでゆっくりとはできなくなるだろう。

 だから高校生活3年間の中で「今日」が彼女とゆっくりと話せる最後の時間になるのかもしれない。


「ねぇ、覚えてる?私と最初に話した日のこと。あなた初日早々、消しゴムを忘れてたまたま隣の席にいた私に助けを求めたわよね」

 真琴は俺の隣に座り込んでそんな話を始めた。高校1年の春、一番最初の授業で俺は消しゴムを忘れた。そして、俺は隣にいた真琴に「すいません、消しゴムを貸してください」と言った。


「でも真琴が俺に渡したのって砂消しゴムだったよな。あの消しゴム、まるで文字を消すことができなくてゴシゴシ紙を擦った結果、紙が破けたんだっけ」


「そうそう!それを見て私大笑いしたんだっけ」


「ホントホント。あの時は紙が破けた俺の方が恥ずかしかったよ。あぁ、そう言えばそんなこともあったよな」

 懐かしい。今から約3年前、そんなこともあったっけ。でもその時の砂消しゴムがきっかけで俺と真琴は仲良くなれたんだっけ。


「はい、これワタシからのプレゼント。受け取って」

 その言葉を聞いてふと彼女の手を見ると、そこにはあの時の砂消しゴム。形は少し丸くなっていたが間違いない。


「おぉ、懐かしい。砂消しゴム。というかまだソレ持ってたんだ。その消せない消しゴム」


「そうだよ。ワタシとアナタを繋げた想い出の品だから」


「想い出か。俺達、これから前へ進めるかな」


「進めるよ。きっと。それに楽しかった記憶ってさ、消すことできないじゃん。たしかに卒業式ってさ。悲しくなるよ。でもさ、それって次への一歩に必要なことじゃん。だから、いこう?卒業式」


「良いこというな。お前。それじゃあ俺、先に行ってるから。卒業式。遅れるなよお前」


「どういたしましてってえぇ!?それはないでしょう。ちょっと待ってよ!置いてかないでよ!」


 彼女の言葉を背中で聞きながら俺は走り出した。


 そう未来へと向かって。


 楽しい思い出は消すことが出来ない。


 まるで消せない消しゴムである、砂消しゴムのように。


 卒業式の後、二人で帰った空に大きく真っ直ぐな雲が出来ていた。その仲良く一直線に伸びる雲はまるでこれからの二人が紡ぐ物語を予感させているかのようだった。


「屋上まで俺を呼びに来てくれてありがとう」

雲を見ながら俺は真琴に一言、そう言った。

その時、彼女が見せた優しく包み込むような微笑みがとても印象的だった。


挿絵(By みてみん)


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― 新着の感想 ―
[良い点] 晴嵐さん、こんにちはです! ああっ、屋上いいですよね! 開けた青い空が眼に浮かぶようです! 学校の屋上にはあまり登ったことはないのですが、ビルの屋上にある駐車場に登って写真を撮った記…
[良い点] 晴嵐さん、今晩は(^_^) 空乃さんとのコラボ作品ですね。 この写真、線に勢いがありますよね。 屋上からこんな空を見上げることができたら、気持ち良いでしょうね。 よく、アニメや小説で…
2016/01/16 20:08 退会済み
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