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イケメン拾いました  作者: ほのお
第一部 イケメン(仮)拾いました
7/28

小話~イケメンと展示場に行きました~

ありがたいことに小話待ってますとお声をいただいたので、小話投下です。

 異世界からのお客様こと、エリヤを拾って早1か月。

 熱いリクエストを受け、母の職場であるリフォームの展示場、いわゆるショールームってやつに来ています。




「便座が温かいんですっ!! しかも、なんですか、あのお湯が出るアレ!!!」と、ウォシュレットにいたく感動してトイレを飛び出してきたのが、エリヤがこちらに来て初日の出来事。

 あまりの感動っぷりに、日本のトイレの素晴らしさを力説した私も悪かった。

 調子にのって語り過ぎたためか、エリヤが並々ならぬ興味を示したため、最新のトイレ設備をみてみたいという話になりまして、今に至るという。

 今思えば、適当に誤魔化して家電量販店にウォシュレットだけ見に行けばよかった。

 それなら、ついでに欲しかったドライヤーとか見れたのに。……しくじったな。




「ここが、ショールームという場所なんですね」

 目の下の隈も完全に消え去り、イケメンに復活したエリヤは、一人でルンルンしていた。

 何が悲しくて、イケメンとリフォームの展示場。

 ことの発端は、私なのは分かるけども、リフォームとか自分に関係なさ過ぎるし。

 まだ、ショッピングモールとか、休日に若者が行く場所って他にもあるのに、ショールームですよ、ショールーム。

 ないわー、マジでないわー。


「さ、和子。行きましょうか」

「あぁ、うん、そだね。いい加減中に入ろうか」

 キレイなトイレには、確かに熱い思いはある。

 しかし、わざわざ休日にこんな場所に来るほどの興味はない。

 興味はないけども、こんなに嬉しそうにしている連れがいる。

 昨晩なんか、そわそわして、遠足前の小学生かと思ったし。

 

 ……でも、まあ、こんな顔されたら、仕方ないよね。

 こっそり気づかれないようにため息をついて、覚悟を決める。

 将来もしかしたら、用事があるところかもしれないし、興味ないなりに楽しみますか。




「あら、いらっしゃい」

 扉を開けて、すぐに聞き慣れた声がした。

「母さん。……来たよ」

 受付にスーツ姿の母が待ち構えていた。

「百合子、本日はお招きいただき、誠にありがとうございます」

「いいのよ、エリヤ君。うちも新人研修に利用させてもらうから、そのつもりでね」 

「え? 何それ、聞いてないんだけど」

 新人研修ってなんだ。単に、今日はショールームにエリヤと行くいう認識しかなかったんだけど。

「あんたには伝えてないもの。だって、嫌がるでしょう? エリヤ君と夫婦役やってって言ったら」


 夫婦役?

 誰と、誰が?


「はい、お任せください。和子とは、中古住宅を購入し、それを改装したいと考え中の新婚さんという設定で、説明をきかせていただきますから」

 私の横で、イケメンが元気に返事をした。

「ちょーっと、待った!! 何、その具体的な設定」

「いえ、ですから、購入に繋がらないのに説明だけしていただくのも忍びないと百合子にお伝えしたら」

「新人の教育もかねて、ロールプレイ研修のお客様役をお願いねって話になったのよ」

 ロールプレイって、あれですか。

 それぞれが決められた役割を与えられて、シミュレーションするとかいう……。


 二人が示し合わせたかのように、にっこりほほ笑み、エリヤはそっと私の肩を抱く。

「さ、奥さん。今日は二人で楽しもうね」

 と、甘く無駄にフェロモンを垂れ流し、私に囁く。

 誰が、奥さんだ、誰が。

 そして、母はがしっと右手を掴み、

「さあ、お客様、トイレのコーナーはこちらですよ」

 と、逃がしてなるものかとコーナーに連行する。

 ちょっ、味方が誰もいないんですけど!?


「お客様、こちらが本日担当をさせていただきます、新人の里谷です」

 完全に仕事モードな母は、娘の動揺を完全に無視している。

 ただし、目では逃げたら分かってるわね? と、プレッシャーをかけている。


「里谷と申します。本日はご来場いただき、誠にありがとうございます」

 トイレコーナーで私たちを待ち構えていたのは、20代前半くらいの小柄な女性だった。

「じゃあ、里谷。いつもと勝手が違うけども、乗り気な旦那さんと、無理やり連れて来られた奥さんよ。頑張んなさいな」

「はい、主任。ご夫婦そろって、ご満足していたけるように頑張ります!!」

 頑張らなくてもいいです。

 だから、早く終わらせて私を解放してください!!


 




 で、結果として、里谷さんの話法が素晴らしすぎて、最初は乗り気でなかった奥様(私)も、最終的には旦那様(エリヤ)と共に盛り上がり、トイレだけではなく、キッチン、バスと展示場を半周くらいしてしまいました。

 純粋に楽しかったです。本当に。

 最新のトイレとか、キッチンとか、バス、マジですごーい。


 ……何より里谷さん、恐るべし。


 エリヤは、機能だけでなく施工の方にも興味を示し、違う担当者さんとカタログや実際の現場の写真をを見ながら話しこんでいる。

 私はさすがに疲れたので、休憩スペースで出されたお茶で一服中だったりする。

「和子さん、本日は研修にお付き合いいただいてありがとうございました」

 里谷さんが、これもどうぞとお茶菓子をくれる。

「いえいえ、こちらこそエリヤの我儘に付き合っていただいて、ありがとうございます。里谷さんの話が巧くて、私も楽しんじゃいましたし」

「そう言ってもらえると、嬉しいです~。興味ない人をいかにときめかすかが私のお仕事ですからね」


「和子、お待たせしました」

 と、エリヤが話が終わったのか、こちらに合流してきた。

「話は無事に終わった?」

「はい、今度機会があれば実際の現場まで来てもいいよと、許可をいただきました」

 おーい、エリヤさん?

 どこまで興味を示してるの、この人。そろそろ私、あなたのガチ具合に引いちゃうよ?

「最新の設備も体験できたし、和子とも夫婦役を出来たし、大満足です」

「ご満足できて、こちらとしてもよかったです。お似合いのご夫婦でしたしね」

 いやいやいやいや、エリヤさん?

 夫婦役は関係ないでしょ。

 しかも、里谷さん、軽く流すし。

「楽しいデートでしたね」

 え? あれ??

「エリヤ?」

「ん? どうかしましたか?」

「これって、デート……なの?」


 しーんと、一瞬沈黙した空気が流れ、


「年頃の男女仲良く、休日にお出かけっていったらデートでしょ」と、母。

 その定義はどうなの。だたのお出かけでしょう!

「え? あんなに二人でいちゃついてたのにデートじゃないんですか?」と、里谷さん。

 ……つか、いちゃついてません。いちゃついてませんからっ。

「昨日、話したじゃないですか。明日のデート楽しみですねって」と、エリヤ。

 話してないし! 出かける話は確かにしたが、デートとかいう単語は一つも出てきてなかったけど!!


「そもそも、初デートが展示場とか夢がなさ過ぎて嫌すぎる!!」

 あまりの動揺に心のまま叫んだ内容が、さらに事態を悪化させた。


「え、和子のはじめてをもらってしまったんですか?! ……えっと、よかったですか?」

「こんな金髪イケメンさんがはじめてでよかったですね~。素敵な記念になりましたね」

 そこだけきいたら、なんかいかがわしい方にもとれるから、やめてそんな言い方!!

 初デート、初デートの話ですからね!?

 絶対にわざと言ってるよね、この人たち!!

「ちょっと、はじめてって。中学校の時の部活の先輩とは何もなかったの? このヘタレが」

 そして、さりげなく昔の話を蒸し返さないで!! 先輩とはいいお友達で終わったんだから!!!




 よろよろと展示場を後にする。

 なんだろう、最後にすごい疲れた。

 あの後、里谷さんや母以外の従業員の方々からも、なんともいえない生ぬるい視線をいただいたし。


「和子」

「ん?」


「付き合ってくださって、ありがとうございました」

「……楽しかった?」

「はい、とても」

 いい笑顔だなー。ここまで喜んでくれるとは思わなかったし。

「それはよかった。連れてきた甲斐があったよ」

「和子は?」

「私?」

「ええ、和子も楽しかったですか?」

 ちらりと、となりのエミヤを見ると、私が答えなくとも分かってるんじゃないかという顔でこちらを見ている。

 でも、まあ、聞かれたからには答えましょう。


「思いの外、楽しかったよ」


 ただし、きこえるかきこえないかのギリギリの小声で。

 でも、エリヤの深まった微笑みを見るかぎり、ばっちりきこえたのだろう。

 ちっ。顔もいいし、耳までのいいのか、このイケメンは。


「今度は、もっとデートっぽい所に行きましょうね?」

「栞たちに自慢できるくらいのデートプランを提案出来たら、付き合ってあげる」

 今回のは、話したら爆笑コース決定だし。

「期待しといてくださいね」


 そして、私たちは次の約束をして家路についた。 



お付き合いありがとうございました。

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