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イケメン拾いました  作者: ほのお
第一部 イケメン(仮)拾いました
5/28

拉致、放置、そして、

「どうぞ、和子」


 目の前にすっと出されたお茶は、この芳醇な香りからすると、アッサムかな。

 私の機嫌をとるべく、何も言わなくても大好きなミルクティーにしているあたりエリヤに抜かりはない。

 飲まなくても分かる。きっと、砂糖も投入済で甘さも丁度いいものに違いない。

「わあ、エリヤってば気が利くね」

 うふふと、一応お礼を言っておく。紅茶に罪はないからね。

 ここに来るまでに、商店街でこそこそ何か買い物していたのは、きっとこれであろう。


 ……小癪な。


「それに、自宅に招いてくれるなんて」

 エリヤのテンプレ具合から、どんな豪邸かと恐れていたけど、商店街の街並みに馴染む普通の一軒家だった。

 二階建てで、部屋数は3部屋くらいかな?

 日本では一人暮らしと言えばワンルームマンションが定番だから、うらやましいことこの上ない。

「一人暮らしって言ってたのに、結構広いし素敵なおうちだね」

「ありがとうございます。和子のご自宅十分もス「これで、水洗トイレとネット環境完備なら言うことないのにねっ☆」

 エリヤが話してる途中でぶった切って、笑顔で嫌味を言っておく。


「…………」

「…………」


 紅茶を優雅に頂く。

 エリヤがうしろめたさのあまり、目をそらしてぷるぷるしているのが視界の隅に見える。


「さっきの、発言はですね」

「うん」

「現在準備段階で、遅くとも和子が高校を卒業されるまでには、完成させる計画なんです」


 え?


「和子を異世界に招待する最終の口説き文句として、完成させてからお教えするつもりだんですけど……」

「予定が狂いまくってるね」

 私は強制的に異世界に拉致られ、エリヤも計画途中でぽろりとネタバレしたり。

「あのタイミングでネタバレしなくてもよかったと思うんだけど」

 単に引きはがしたかっただけなら、他の手段もあった筈だ。

 なぜ、切り札をあそこで使ったのだろう。

「いえ、あそこでの判断はあれが最良です。でないと」

「でないと?」


「……言いたくないです」


 ぶすっと、エリヤが呟く。

「さっきから言葉を濁し過ぎてない?」

「時機が悪いので、これ以上この件に関しては発言を控えさせていただきます」

「はあ?」

「和子こそ、この件に関しては覚悟も自覚もないのに、口を出すのはやめた方がいいですよ」

 じいっと、こちらを見つめるエリヤの視線には、いつもと違って何か熱を秘めているように感じる。

 音もなく伸ばされた指先に、びくりと反応してしまう。


「だって、ほら、微妙なんですもん」


 いきなり、むにゅうーっと、軽く頬をひっぱられる。

「ひょ、ひょっと、ェリヒャ、ひゃにしゅるの」

「もうちょっと、こう、ねえ? やっぱ、押しが弱かったかなー。でも、高志と百合子の目もあったし」

 微妙ってなんだ。顔、顔が微妙ってこと!?

 それになんで、父さんと母さんの名前が出てくるの?

「……っいっ!!」

 最後に少しだけ力を入れられ、頬が解放される。

「エ~リ~ヤ~? 最後の結構痛かったんですけど?」

「男心を理解できない娘さんにちょっとした仕返しですよ。さて」

 エリヤが立ち上がり、私の方に手を差し出す。


「時間ぎりぎりですね、向こうの世界に帰りましょうか」


「えぇっ?! せっかく来たのに??」

 っと、思わず出た言葉に口をふさぐ。

 あんだけ来るの渋っておきながら、まだ帰りたくないとか言ってしまったらばれてしまう。


「知ってますよ、和子が異世界トリップってやつに興味があるのは。大好きでしょう、その手のお話」


 かああああっと顔が赤くなる。

 ばれてた。ばれちゃってたか。やばい、恥ずかしい。

 いや、しかし、嫌いな少年少女がいるわけない。みんな、異世界トリップ、大好物だよね?


「なのに、私の誘いをいつも断ってるんですもん」

「乙女心は色々と複雑なんですー」

「……乙女心は難解過ぎます」

 私にだって、夢とか野望とか、こう、色々とあるのだ。






 時間もないので移動しましょうかと、異界への扉があるという王城のとある一室に案内された。

 魔方陣とかあるのかと思っていたら、簡素な部屋の真ん中に大きな鏡だけがあった。


「これが、扉?」

「そうですよ。このティオール王国に昔から存在している遺物です。見た目は普通の鏡ですが、手順を踏めば異界と繋がる道が鏡の中に現れます」


 鏡の周りをくるりと一周する。

「ねえ、この鏡のふちの装飾がもしかして、重要だったりする?」

 パッと見は分からないけども、小さく文字のようなものが刻まれている。装飾文字にしては、緻密過ぎる。

「番人がそんなこと言ってましたね。私も専門外なので、よくは理解してないのですが、世界を構築する柱の場所を示してるとか?」

「あぁ、この手の扉にはやっぱり柱が関わってるんだね、日本にあるのと形式が違うからどうなのかと思ったら、基本は一緒なのかな……」

「和子。扉に興味があるんですか?」

 おっと、これ以上見てたら、エリヤに勘ぐられちゃうな。


 よし、話をそらそう。


「本物を見たことなかったから、珍しかっただけ。それより、ここに来るまでに誰にも会わなかったのがすごく不思議なんだけど?」

 こんなに広い建物なのに、城門、廊下、誰一人いなかった。扉の番人も、本来はここにいる筈だ。

「人払いしてますから。和子の存在を知られたくなかったんですよ。番人くらいは本当はいないといけないんですが、別件で緊急事態が発生していて、彼は鍵を私に託して出動してますしね」


 番人の人と話とかしたかったんだけど仕方ないか。うーん、タイミング悪いな。

「今回は私の部下の独断でこちらに来てしまってるので、こそこそする形になって申し訳ないです」

「あぁ、ジャックって人ね」

「あいつには次回きちんと謝罪させますから。和子は金の腕輪のない正式な招待でないため、こちらの世界への長期滞在が許されていません。観光にご案内できないのがすごく残念です」

「仕方ないよ。今日中に帰らなったら、この件に関わった人みんなが上の偉い人たちに怒られるんでしょう?」


 エリヤが上の人や番人に掛け合って、今日中に私を帰せば色々と不問という駆け引きをしたらしい。

 あの時、ルカルフィックさんから金の腕輪をもらえていたら、ゆっくりできたんだろうか。まあ、終わったことは仕方ない。ズルは駄目ってことだよね。 

 ちらりと目にした異世界ってやつは、小説で読むよりも素敵だった。

 こんな事故みたいな異世界トリップではなくて、今度こちらに来るなら、正式な手順を踏んでしっかりと観光してやるもんね。

 城の探検に、竜との触れ合いに、買い物とか、絶対に遊び倒してやる。



「和子」



 道が繋がったのか、鏡が淡く光っている。

「準備ができましたよ」

「エリヤって、こんな異世界の道を繋げる魔法みたいなこともできるの?」

 イケメンって何でも屋なのかな。

「違いますよ、下準備は整ってたので鍵で道を開けただけですよ。さすがにここまでの術は使用できませんよ」

 ここまでのってことは、そこそこの術は使えるってことか。

 ……やっぱ、テンプレの集合体だ。



「三か月前、肉体的にボロボロだった私を拾ってくださって本当にありがとうございました。おかげで、久しぶりに仕事や煩わしい人間関係に振り回されない平穏な生活ができました」



 右手を差し出されて、条件反射でその手のひらの上に自分の手を重ねる。

「あんなに食事や生活習慣やらの世話をやかれたのは、子供の頃ぶりだったので、実はかなりくすぐったかったんですよ」

 手を握りこむついでに軽く引き寄せられ、空いてる左手が頬をすっと撫で上げる。そして、その親指で目の下をなぞられる。


「毎日毎日、クマが消えない薄くならないと言って、こうして確認してましたよね。あれも結構恥ずかしかったんですよ」


 ふわりと笑うその顔には、クマなんてなくて、きらきら具合が半端ない。

 この3か月で見慣れた筈なのに、なぜか胸がざわつく。

 さらに引き寄せられ、その腕の中に抱き留められる。


「あの時、あの場所に和子がいてくれてよかった」

 囁かれる言葉の熱さと、近すぎる距離感に抵抗する前に、拘束はあっさりほどかれた。


「私はこちらに残ります。お世話になりました」



 え?



「お別れです、和子」




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