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イケメン拾いました  作者: ほのお
第四部 目指すべき場所
25/28

私の目覚めと、誰かの夢

いつもより少し短めです。




 ――――夢を、見た。



 誰かをとても永い間待たせている。


 早く約束の場所に行かなければならないのに、なぜだかそこに辿り着くことができない。

 絡みついていた制約や、目の前を阻んでいた障害物はない筈なのに、あの人の近くに行くことができない。



 どうして? なんで?



 果たすべき役割は全て終えた。

 もう、自由な筈なのに、何がいけないの?


 ただ、あなたの傍に戻りたいだけなのに。


 あの、桜の花びらの舞う場所で、ずっとあなたを待たせている。

 数えることすら億劫なほどの、永い、永い時間が過ぎている。



 ――――ねえ、いつまであなたは、私を待っていてくれる?

 別れの直前に交わした、ささやかな約束を、あなたはどこまで守ってくれる?



 私は、

 いつまであなたのことを、覚えていられる?



 誰か、教えて――――








 自分ではない誰かの、夢を見た。


 遠のく何かを、追いかけなければならない焦燥にかられ、思わず手を伸ばした。

 何も掴めないと、この手はきっと、また空を切ってしまう。

 あきらめを予感していたのに、その手のひらは何かに優しく包み込まれる。



「あ、れ……?」



 掴めるわけはない。

 だって、まだ、あの人に届く時ではない。


 まだ、約束の時はこない。なのに……、




 ゆるやかに意識が浮上し、ゆっくりと目を開ける。

「おはようございます、和子」

 声をした方へ目線を向けると、金髪碧眼の見目麗しい青年が私の手を握っていた。

 カーテンの隙間から差し込まれる朝日が反射して、クセのない金の髪がこれでもかと輝いている。


「……エリヤ、だよね?」


 軽い違和感を感じ、それを打ち消したくて、目の前にいる人物の名前を確認する。

「世話を任されている者が、朝になったのに魘されていてなかなか目覚めてくれないと心配していましたよ。特別に許可をいただいて部屋まで起こしに来たんですけど」

「ごめん、もう一回名前を呼んでもらっていい?」


 寝起きにしてはおかしな私の言動に、何かを感じたのか、エリヤは戸惑いながらも私の希望通りに名前を呼んでくれる。


「和子?」


 そう。

 私の名前は、和子。春野和子。

 一年前、目の前のイケてる金髪のメンズをコンビニ帰りにうっかり拾った女子高生。


 それが、私。

 他の誰でもないはずなのに、私ではない、何かの感情や記憶が身体の奥でくすぶっている。

 

「……具合でも悪いんですか?」

「違う。体調は、大丈夫」

 起き上がり、枕元に座るエリヤの顔を見つめる。



 ――――なんで、この人じゃないって思っちゃったんだろう。



 起き抜けに見た金色と緑色の色彩に、確かに違和感を感じた。

 目の前にいてほしいのは、この人ではない。何かが違うと、心のずっと奥。本能とか、そういう自分のあずかり知らない、制御できない何かがエリヤを否定した。


 言いようのない不安が押し寄せてくる。


「エリヤだもん」


 私が、望んでいるのはこの人だ。

 違うなんて、思うわけがない。

 春野和子は、エリヤ・トリルを選んだ。

 他の誰でもない、この、お仕事が大好きで、油断すると健康状態がよろしくなくなり、すぐにくたびれたイケメンになってしまう、自身に無頓着なこの人を望んだのだ。


 どうしようもない衝動にかられて、思わず無言でエリヤに縋り付く。


「え、和子? 本当にどうしたんですか、何か怖い夢でも見たんですか?」

 私の突然の抱擁に驚きながらも、エリヤは背中に腕をまわしてくれる。

 じわりと伝わってくる、温もりに無言で身体を委ねる。

 

 ――――確かに、夢は見た。


 あれは、私の夢ではない。

 私は、春野和子は、あんな夢なんて見なくていい。


 約束なんて知らないし、誰も待たせてなんかいない。

 再会の瞬間まで降り続けている、淡い色合いの花びらなんか気にもしない。




 でも、



 私は、

 桜の木の下で待たせている人の顔と、


 ――――今の名前を、知ってる。



「……ルカルフィックさん」



 私が小さく呟いた名前に、エリヤの身体が少しだけ強張った。




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