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イケメン拾いました  作者: ほのお
第四部 目指すべき場所
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私の戸惑いと、守護者の問い

ルカルフィックさんが出張りますよ~。

「さて、と。ここまで来れば大丈夫でしょ」


 降り立ったのは、いつぞや連行された、街並みを見下ろす高い丘。

 前回はここでお茶菓子を広げて頂いて、会ったばかりであった目の前の人物――ルカルフィックさんと話をした場所である。

 唐突に出現し、攫うように殿下との会談の場から私を連れ出してくれたルカルフィックさんは、前回同様に手を打ち鳴らし、お茶会の準備をいそいそとしている。

 この人って、本当にでたらめな人、だよね。 


「あれ? 重いため息なんてついちゃってどうしたの?」


「……いえ、ルカルフィックさんの自由さに何をどうツッコんでいいのか、少しだけ苦悩したまでです」

 あの現場から連れ出して頂いたのは、すごく助かったんだけどね。

 にへらっと笑う姿は、私よりほんの少し年上にも見えるし、同年代のようにも見える。

 日本人特有の黒髪黒目という色彩をもち合わせながらも、一般人にはもち得ない、ただならぬ能力を持つ不思議な人。



「いつにもまして熱い視線を送ってくれてるけど、ついに僕のこと、詳しく聞きたくなっちゃった?」



 てきぱきとお茶を煎れてくれながら、軽く問いかけられた質問は、きき方の割に何かとても大切な選択肢にも思える。

「……詳しく聞きたくはないんですが、軽く差し障りのない程度でのお話しならきいてみてもいいのかなーと、思案中です」

「和子ちゃんが本当に聞きたいのなら話すけど、どうする?」

 どうぞと、お茶を目の前に置いてくれながら、最終確認のつもりなのか、ルカルフィックさんが再度問いかけてくる。


「…………やっぱりいいです」


 なんか、どうしようもなく面倒くさい雰囲気がある。

 本当はすっごく気になるんだけど、それを詳しくきく権利は、私にはないのだと思う。

 それになんだろう。この人から色々ときいたら、ダメな気がする。

 うっかりと、私が聞いてはいけないことを喋りつくす危険性しか感じられない。


 殿下だ。

 殿下にきこう。

 あの人ならきっと、私に話すべきことと、そうでない話の判断を間違えない。

 極力不穏な情報は耳にいれたくない。

 下手にきいて、身動きがとれなくなるなんて事態に陥りたくはないし。


「今のままで、十分です。……困った時に助けてくれる、頼れるお兄さんポジションでお願いします」


「困ってなくても、勝手に助けちゃうから安心しといて」

 あまりにも難しい顔をした私を見かねたのか、ルカルフィックさんは軽く笑う。

「深くなんて考えなくていいよ。和子ちゃんは、巻き込まれただけだもの。僕とかさ、シルヴェストロの都合なんか気にしてたらダメだよ」

「いやー、それは無理ですよ。さすがの私も、ここまでなんだか自分が重要ポジションっぽいこと言われたら、自由気ままには行動できませんて」

 個人でなくて、国がどうのとかいわれちゃうと、なんだかんだと言いながらも、気にするしかないと思うんだよね。



「その状態自体が、()にとっては業腹なんだけど」



 ルカルフィックさんが、低く呟く。

「え? 何か言いましたか」

「……なんでもないよ」

 聞き取れなかったので、再度聞き直すもルカルフィックさんはごろんと寝転んで、答えてくれない。

「ねえねえ、膝枕してっておねだりしたら、してくれる?」

「断固拒否しますね」


 お菓子をパクつく私を眺めながら、戯言を抜かすルカルフィックさんが腹の底では何を考えているのかさっぱり読めない。

 子供にも、大人にも見える不思議な人。

 時々、私を見ているくせに、私自身を通り越して全然別の誰かを見ている、すごく失礼な人。


「ルカルフィックさんて、好きな人とかいるんですか?」


 本当はそんなこと言うつもりなんてなかったのに……と自身でも驚いていると、それ以上に驚いた顔でルカルフィックさんがこちらを眺めていた。

 が、その驚きをすぐに消し去り、微笑みんだその顔は、なぜか泣きそうになっているように思えた。



「いるよ」



 はぐらかされるだろうと思っていたのに、小さく聞こえた返答に驚く。

「ずっと待ってる愛しい人が」

 目を閉じて、質問に答える姿からは何も感情も読み取れない。

 でも、その声はすごく優しく、どこか切なさを含んでいる。

「……その人が、何か私の関係者……とか?」



 ――――あなたは僕の望むあなたではないけど、困ったことがあったら喚んで。必ずあなたを助けるから



 以前、言われたことば。

 この人の望む誰かとは、一体誰のことなのだろうか。

 城では、わざと私が彼の待ち人であるかのような態度をとっていた。

 最初にルカルフィックさんと会った時、確かに彼は私に対して何かの確認をしていた。

 その時に、彼はきっと、私に対して何かしらの判断をしたのだと、思う。


「関係者とは、ちょっと違う、かな。…………和子ちゃん」

 いつの間にか、ルカルフィックさんは瞳を開け、私の方へ視線を向ける。

「ずっと先だと思うけど、和子ちゃんが天寿を全うして、魂の根幹に戻った時でいいから、」

 ……魂の根幹? 天寿??



「彼女に伝えてくれる? 待ってるって。ずっと、あの場所で待ってるよって」



 それって、どういうことなのか詳しく問いただそうした瞬間、大きく視界が揺れた。


「うわっ」


 カップを持ったまま、倒れるんじゃないかと思ったが、力強い腕に支えられ事なきをえる。

 未だに身体に感じる小さな揺れにどうすることもできずに、そっと息をひそめる。

「い、今のってなんですか?」

「……世界が一瞬揺らいだんだよ。誰かが柱に何か仕掛けやがったか」

 小さく舌打ちすると、ルカルフィックさんは私をゆっくりと立ち上がらせる。

「大丈夫? なんともない?」

「は、い。私はなんともないです。けど、今のって」

「柱に関わる者だけに、世界が異変を知らせる警告みたいなものだよ」


 柱って、世界を構築する大事な部分だよね。

 そこに何かをされたということは、一大事なのでは……。


 ルカルフィックさんが、ちらりと私に視線を向ける。

「本当になんともない? どこか違和感とか感じない?」

「いきなり、地面の揺れみたいなのを感じてビックリしちゃっただけです」

 身体の震えがようやくとまり、落ち着いて息をつく。

 ……まだ、心臓がばくばくうるさいけど、それ以外は特に異常は感じない。

「そう。なら、いいんだけど。とりあえず、城に戻ろうか」


 出した時と同じように手を打ち鳴らし、お菓子類を引っ込めてから、ルカルフィックさんが私の肩を軽く抱き寄せる。

 何をっと抗議する間もなく、視界が揺らぎ、軽い浮遊感を感じると目の前の景色ががらりと変化していた。

 石壁と、石畳で構成された殺風景な部屋、異なる世界とこの世界を繋ぐ扉が設置された空間。



「……扉の間」



 中心に鎮座する重厚な鏡の形状をした扉の横に、以前はいなかった人影がひとつ。

 こちらの急な登場にも驚くこともなく、優雅に一礼をしてきた。


「これは、守護者様。ご無沙汰しております。そして、そちらのお嬢ちゃんは初めましてかな?」


 紺色のローブに身を包んだ、少し小柄な青年がにこりと笑う。

「ども、自分はティオール国で扉の番人をしてるもんです。仕事の関係上、名乗ることはできないので、適当に番人のお兄さんとでも呼んでくれる?」

「ど、どうも。……春野和子と申します。えーと、春野とでも呼んでください」


 ――――え、この人が、番人? なんか、軽そうな……。


「今、柱が揺らいだろう? お前も感じた筈だ。一度様子を見に戻るから、お前が責任をもって彼女をエリヤの元に届けろ」

 ルカルフィックさんの台詞に、番人のお兄さんが片眉をあげる。

「シルヴェストロ様の元ではなくて?」

「あいつ自身はともかく、あいつの周りに今は何がいるか分からないから」


 そういうと、ルカルフィックさんは姿を消した。

 何が何やら、よく分からないのだけど、取りあえず目の前のお兄さんを頼ってみようと思う。

 ルカルフィックさんがここにわざわざ飛んだということは、この人は味方に当たる人物なのだろう。


「それじゃあ、お嬢ちゃん。怖いお兄さんに託されたことですし、一度エリヤ殿の元へと向かいましょうか」

「扉のある部屋に、誰もいなくなっても大丈夫なんですか?」

 普通は、勝手に起動しないように鍵がかけられているが、余程のことがないかぎり誰かしら見張りを置くものだと話にきいているのだけど。


「大丈夫。さっきの影響で扉は機能しないからね。復旧には一日以上はかかるんじゃないかな」


 徹夜仕事かなーとぼやくお兄さんの肩を掴みかかる。

「い、今、なんて言いました? 扉、機能しないんですか?!」

「うん。さっきの揺れのせいで柱が当分安定しないだろうから、扉使って異世界に渡れないよ」

 それがどうしたの? と首を傾げるお兄さんに、さらに問いかける。

「ってことは、私、今日中に向こうに戻れないってことですか?」


 本日は挨拶を兼ねた、訪問第一回なわけで日帰り……というか三時間程度の短期滞在のスケジュールだった筈だ。

「そだね。柱が安定するまで帰れないんじゃないかな。早くても明後日くらいじゃないかな?」



「えええええええええぇぇっ!!??」




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