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イケメン拾いました  作者: ほのお
第一部 イケメン(仮)拾いました
2/28

異世界トリップ?

以前投稿した短編「親友いわく、ありえない設定とのこと。」を加筆修正しています。

 うちの学校にはいくつかの名物がある。


 例えば、

 どんなに入手困難なチケットもなぜか手配できるチケットの神様と称される同級生。

 いつもは冷たいのに、たった一人には態度を豹変させて懐きたおすネコ属性の、男女構わず見惚れるほどの美少年な後輩。

 他、数件。


 その中の一つに、ほぼ毎日放課後の校門前に現れる金髪碧眼の美青年……というのがある。


 流暢な日本語を話し、気品のある所作で、校門を通り過ぎる生徒たちに丁寧に挨拶をしてくれる、らしい。

 服装こそその辺で売られているリーズナブルなものだが、正装なんぞをさせたら王子様といっても過言ではないと、乙女のハートを鷲掴みにしている、らしい。

 しっかも、生徒だけではなく先生や、あまつさえ保護者の方々までもを、その美貌で魅了しているのだ。


 ――――あ、れ、ほ、ど、目、立、つ、な、と言い諭しているにも関わらず。






「お待ちしてました、和子」


 にこりと、フェロモン全開の微笑みを繰り出すエリヤにガンをとばす。


「め、だ、つ、なって何っ度も言ってるよね」

「嫌です」


 放課後の名物その一、「校門前の王子様」ことエリヤはさくっと私のことばを拒否った。

「大人しくしてたら、貴女は裏門からこっそり帰るでしょう?」


 ――――ちっ、読まれてるか。


「駄目ですよ、女性が公の場で舌打ちなんて」

「その言動だと、誰も見てないなら舌打ちはオッケーということですか、エリヤさん」

 ひょこっと私の横から、親友の栞が話しかける。

「もちろん、推奨はしませんよ」

「相変わらず、甘い風貌ですよね。本当、金髪と碧眼って最強のコラボだわ」

「明子さん、褒めていただいてるんですよね? こう、なにやらかなり醒めた目で私のこと見てますけど」

「ああ、すみません、美形にはちょっと色々迷惑こうむってるんで」

 例の後輩君のことか。

 もう一人の親友である明子は、そこそこ厄介なのに絡まれている。まあ、見てるこっちとしては愉快だけど。

 と、親友の不幸ににやついていたら、


「エリヤさん、知ってますか? 今週末は休日が重なってるんで、四連休なんですよ」


「なっ!? 明子、いらないことを」

「四連休……。それはそれは、素敵な情報ですね」

 ぞわりと鳥肌がたった。

 い、今、フェロモンじゃなくてものすっごい黒いもの放出したよ、この人っ。

「明子さん、栞さん、本日の予定を確認しても?」


「「何もないですよ」」

 そして、親友二人はさっさと帰路に着いた。






「明子のばかー、栞の薄情者ー」

「はいはい。和子も大人しく帰りましょうね」


 ごく自然に私のカバンを奪い取り、空いた方の手でエスコートよろしく私の右手をつかむ。

 いつものことながら、鮮やかすぎて文句も言えない。


「エリヤさ、向こうの仕事とか本当に大丈夫なの?」


 確かに、あまりのボロボロ加減に心配になって、最低一か月は引き留めようとしたのは私でしたよ?

 しかし、事故から三か月が経過しても、エリヤはこちらにのほほんと滞在している。こんなに長居して平気なのか、このイケメンは。

 仕事は大丈夫? 家族や、同僚の方々にちゃんと連絡や報告はしてるの? ときいても、「大丈夫です」としか言ってくれないし。


「心配してくれるんですか? 本当に大丈夫ですよ。ちゃーんと報告ついでにたまってた有給を使わせてくださいって言いましたから」

 ふふっと笑う、イケメン。

 そう、こちらに来たばかりの頃は、色艶のないくたびれたイケメンだったが、今では最良の健康状態になり、キラキラ具合が半端ないイケメンに進化している。


 約三か月前に車との接触事故を起こして、歩道に蹲っていたエリヤを拾ったのが懐かしい。

 本人いわく、こっちに来る際に着地点を誤ったらしい。

 ……絶対に疲労がたまり過ぎていて、判断を間違ったせいだと私は勝手に解釈している。本人は未だに否定しているけども。

 約束の一か月も過ぎて、目の下のクマもきれいに消え去ったの筈なのに、エリヤは我が家に居ついている。


「和子、せっかくの四連休なら、私の世界に来ても問題ないですよね?」

「い、や、で、す」


 そう、このイケメンは恩返しがしたいからと言って、私に向こうに遊びに来てくださいと、毎日のように誘ってくるのだ。

 異世界という響きは確かに、魅力的だ。

 でも、しかし、私にはどうしてもゆずれないものがある。


 

 ずばり、トイレ事情だ。



 いや、そこ結構大事なところでしょ? どこに行くにしても、まずは気になるところじゃないですか?

 どんなに料理が美味しくて内装が素敵なお店に行っても、お手洗いが汚いと一気に店の印象が変わったりとかするじゃない。

 日本のトイレの素晴らしさを解説するために、エリヤとともに母の職場でもあるリフォーム展示場にまで行きましたけど、何か?

 そこで、エリヤが感動して「城にこの設備を……」と、私そっちのけで解説をきき、カタログを握りしめ、開発者や施工業者に会わせてくださいと交渉していたのには、少し引いたが。外国人にウォシュレットとかが人気って、本当なんだなー。


 つか、城って。マジでこの人、貴族とか王族とかなの?

 いや、それにしてはうちで家事の手伝いしてくれる様が手馴れ過ぎてるし。

 普通に私と一緒に肩並べて、料理してるんですよ? 最初の頃はシステムキッチンに戸惑っていたが、今では電子レンジオーブンやホームベーカリーなどの調理家電までも使いこなしている。


 ……謎すぎる。

 仕事内容をきいても、ふふっと笑ってかわしてくれるし。

 鎧とか着てたわけだし、たぶん、戦闘職とか護衛職とかいわれる類の仕事をしてるのでは? とか勝手に推測してるけども、ご本人が何も言ってくれないので創造の域をでないのだ。


「エリヤはなんで、そこまでこだわるかな。十分恩は返してもらったよ」

 スーパーに行った時の荷物持ちや、家の掃除など、日々してくれるお手伝いで大変助かってます。

「まだまだ返しきれてないですよ。こっちだと制限がありすぎて本気出せないんですから」


 ……何の本気だ?

 いや、きいたらダメ。藪をつついたらヘビ以上のものが出るに違いない。

 普通なら出会う事のない異世界在住の金髪美青年。

 私をエスコートすべく軽くつかんでいた手は、いつの間にかちゃっかり恋人つなぎになっている。

 なんか、もう、慣らされてしまって抵抗するのも面倒くさいし。



 あの出会いの時から強烈な存在感をみせつけて、私の「当たり前の日常」の中にエリヤという存在は定着している。



「ねえ、エリヤは……」

「やっと、見つけた!!」


 声がした方を見ると、なんか見たことある恰好をした青年が一人。

 マントに鎧。誰かさんが最初に着てらっしゃた装いとそっくりですね。

 右手首には、お客様の証である金の腕輪。


「げ。ジャック」


 エリヤの反応を見る限り、関係者に間違いない。

 しかも、かなりのお怒りモード。


「帰還命令を何度無視すれば、いいんですかね、アンタは!!」


 帰還命令?

 無視??

 …………えーと、エリヤさん?


「いくら、休暇中であっても、王太子殿下の命令ですよ? 無視とかありえないでしょうが!?」


 王太子殿下だと?

 え、そんな上の人と直接関わりがあるようなご身分なんですか?

「ちょっと、エリヤ。何が大丈夫よ」

 全然、大丈夫じゃなさそうなんですけど。


「……だって、離れたくなかったんですよ」


 ぼそっと聞こえた言葉に反応するよりも早く、

「初対面の女性に対して失礼にあたるのは重々承知ですが、こちらにも事情がありますので失礼します」

 と、エリヤと繋がれていた手を引き裂かれ、ジャックと呼ばれていた青年に抱えられた。



 ――――ちょっと、この体勢は乙女の憧れお姫様抱っこ!?



「エリヤ隊長、自分はお先に失礼いたします」


 え? え? ちょっと、待って!

 なに、この状況!!


「《転移》」

 これって、まさかの異世界への強制転移!?



「ジャック、待て!! 和子っ!!?」



 抱えられた身体になんともいえない負荷がかかり、

 目の前から、エリヤの姿が消えた。




 ――――私のはじめての異世界旅行は、こんなはじまりだった。





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