後編~開通工事と接続設定はこれで完了です。~
「さあ、説明をお願いします。何故に、こんな身体の線が露わになる衣装に身を包み、嫌々ながらも脚を強調するような構図の写真が存在するのかを」
先ほどの甘い雰囲気はどこかに消え去り、なぜか私は床の上に正座をし、エリヤの詰問を受けている。
どうしてこうなった? ……いや、原因は分かってるんだけど、この状況の急展開ぶりに涙が出そうです。
ちらりと視線をあげた先にあるエリヤの手には、明子から届いた例の写真が表示されている。
明子、マジであなたって子はロクな事しないよね! どっかの後輩くんの気持ちが分かるわ!?
隠してたのに! せっかく隠してたのに、なんでこのタイミングでばらしやがる!!
「昨年の秋にですね、文化祭というものがございまして、」
こうなったら、反撃に出るしかない。
「学校での催し物でしたね、確か」
「どこかの騎士様にちらりとお話ししたのですが、お仕事がどうしてもその期間は忙しくて遊びには来れないとおっしゃられましたので、あえて、細かな内容は説明しなかったわけです」
エリヤが、うっと顔を顰める。
誘ったよ?
一応、誘ったのですよ。でも、時間がとれなくて結局来れなかったんだよね。
仕事なら仕方ないねって、ちょっぴし残念に思う傍ら、あの姿を見られなくてラッキーと思ったのは、いい思い出さ。
「生徒会という私の所属している団体で、文化祭の期間中は仮装をしようという方針に決まったの。で、厳正なる抽選を行った結果、私の衣装はそのチャイナドレスと言われるものになったのね」
ちなみに、生徒会長、副会長コンビはヤンキーとスケバンというコスプレをかまし、お遊びで正門近くでメンチを切って生徒を威嚇していたら、先生にやり過ぎだと注意を受けていたという。他の役員の子も、看護師、キャビンアテンダント、医者、バニーガールなど多種多様な色物と呼ばれる衣装に身を包み、文化祭の開催期間中はその姿で仕事を全うしましたとも。
「そして、その写真は、それを送りつけてきた我が友人ととある勝負をして負けた結果、撮られてた写真ですが、何か問題がありますか?」
「おおいにあります! なんで、こんな魅力的な衣装で参加するといってくれなかったんですか!? 何が何でも顔を出したのに!」
一日は無理でも、なんとか時間作って顏出したのに! と、憤るエリヤにさらなる攻撃を仕掛ける。
「じゃあ、エリヤは何かの罰ゲームで本格的な女装をして、殿下に可愛くお酌でもしてるところを私に見られるのってどうよ」
エリヤが驚愕の表情で私を見つめる。
「年の終わりに騎士団関係で飲み会があったらしいね」
にやりと笑みを浮かべ、とある筋から頂いた情報を口にする。
「……か、和子。どこまでご存知なんですか?」
「婚約者のいる殿下に、金髪碧眼のすっごい美女がまとわりついていて、殿下の新しい恋人じゃないのかって城下で噂になったのは知ってるよ」
隊長様の華麗なる女装姿は、完成度が高すぎて知人でもエリヤだと分からないくらいの仕上がりだったらしい。
なんで、そこまでの本気を出した。
話を聞いた時は、ルカルフィックさんになんで呼んでくれないんですか!? って掴みかかったのは内緒の話。
エリヤは、机に突っ伏してしくしくと泣いている。
「言うなって、……言うなって、お願いしたのにいぃぃぃ。殿下の嘘つきぃ」
ごめん。エリヤ。情報元は殿下でなく、守護者さんの方。
殿下は何も言ってないの。むしろ止めてくれたのですよ。
「というわけで、お互いなかったことにしようね~」
よしよしと突っ伏すエリヤの頭を撫でておく。
それぞれに知られたくなかった事実に蓋をし、もう少しだけ許された滞在時間を満喫しようとお茶を煎れなおす。
「スマホってずるいですよね」
机の上に置かれた、私のピンク色のスマホを突きながらエリヤが呟く。
「便利っていうのなら分かるけど、ずるいってどういうこと?」
「だって、ずるくないですか。魔法も使わずに誰もがその道具を持ってるだけで、近くにいない人の声がきけるなんて。それが当たり前なんて……ずるいですよ」
むすーっと拗ねる姿は、とても年上の男性には見えなくて、小さく笑ってしまう。
いわれてみれば、確かにすごいものだと実感する。
電話なんてない時代も、確かにあったのだし。
「……声だけでも、遠い誰かに届けてくれるなんて魔法。こっちじゃ普通の人間には到底不可能ですもん」
声だけでなく、テレビ電話なら姿も見れるんだよとか抜かしたら怒り狂うのかな。
違う世界に住む私たちは、簡単には連絡は取り合えない。
それこそ、昔の人たちに電話やメールといった伝達手段がなかったかのように。
「あの、毎日和子と過ごせた日々が夢のようです」
「そうだね。今思えば、あの時間ってとっても貴重だったね」
変な意地とかはらずに、もっとこの、異世界からの客人と一緒に過ごせばよかったと思う。
――あそこまで共に過ごせる時間は、この先どんな関係に落ち着いても得るのは難しいだろう。
私が学生で、エリヤが療養中で、という状況だから成立した奇跡のような時間。
「朝起きておはようの挨拶をして、夕方学校から帰ってくる貴女を待って、寝るまでの時間にその日あった出来事をお互いに話す」
エリヤが目を閉じて、あの時間を振り返る。
「休日は嫌がる貴女の手をひいて、色んな所に遊びに行きましたね」
「だって、エリヤってば変な所にばっか行きたがるんだもの」
お互いに言葉に出来ない関係性にそれぞれに戸惑いながらも過ごした、あの日々。
「あの時まで……とはいかなくても、いつか貴女と一緒に日々を過ごしたいって考えてます」
エリヤがスマホをいじっていた左手を、いつの間にか私の右手に絡めてくる。
あんなに一緒だったのに、今はこんな風に過ごせるのは月に数回。
春先から、私がこちらに訪れることも可能になったけど、遊びに来ているわけではないし、その時にエリヤが仕事でないとも限らない。
「今だって、デートもままならないものね」
むこうとこちら。
お互いの予定を伝えても、どうしても生じる時間のズレによっては、ほんの少しの時間しか一緒にいられない時もある。
それでも、エリヤは会いに来てくれている。
それこそ私にとっては、奇跡みたいなことだと思う。
大好きな人が、私に会いに来てくれているという、ささやかだけど大切な奇跡。
「いつかのためにも、これから頑張ろうか」
もうすぐ始まる特待生としての特別授業。
その時に、振り掛かるであろう諸々の問題事。
「私が気兼ねなくここに訪問するためにも、越えなきゃいけない何かがあるのは知ってる」
殿下も、ルカルフィックさんもことばを濁すけども、私のあずかり知らないことで何かがあるのだろう。
「とっとと片付けて、エリヤの隣で異世界を満喫するんだから」
具体的には、どんな事情かなだなんてのはまだ分かっていない。
分かっているのは、私にとってそれが迷惑極まりないことという、それだけ。
「そうですね。さっさと片付けて、和子とゆっくりしたいです」
「隊長様がそんなこと言っていいの?」
「いいんですよ。今、この場にいるのは、個人としての私ですから。隊長としては、対応が少し違ってきますけどね」
たぶん、エリヤともこんなに気軽には話せないのだろう。
殿下が守護騎士としてエリヤを……なーんて、旨いこといってたけど、おいしい話にはきっとならないんだろうな。
思わず、重すぎるため息をついてしまう。
が。
恋に障害はつきものだもんね。
普通の恋にはならないと分かっていて、エリヤの隣を望んだのは私だ。
さりげなくプロポーズめいた発言をしたエリヤの肩に寄り掛かり、繋いだままの手をさらに絡める。
――――二人きりで過ごせる貴重な時間を、今はただ満喫しようと、大好きな人に自分から身を寄せた。
お付き合いありがとうございます。
短いですが、第三部はこれにて閉幕です。
第四部こそ、異世界メインです。もうしばらくお待ちください。




