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イケメン拾いました  作者: ほのお
第三部 光インターネット開通の日
16/28

前編~お申し込みには身分証明書が必要です~

全三話で終わる、第三部のはじまりです。

別名、のどかにデートの巻。

ちなみに、サブタイトルに深い意味はないという……。

「インターネットの申し込み?」

 春休みはもう間近という3月のとある週末、エリヤがインターネットのパンフレットを持って遊びに来た。

「お話は以前からさせて頂いていて、先日ようやく現地調査が終わって工事が可能だと判断されたんですよ」

 エリヤの前に、コーヒーを置きながらパンフレットを確認する。



 光インターネット総合パンフレット~異世界対応版~



 うちもお世話になってる、光インターネットのパンフレットである。

 ご家庭によっては、電力系やケーブルテレビなどのサービスを利用している場合もあるだろうが、私の中では一番の有名どころである。まあ、最近は光コラボレーションなるものが出てきて、ネットサービス提供会社も本当に多種多様になってきたけど。


「今まで申し込みができるかどうか微妙な感じでしたので、契約書の記入にまで至らなかったんです」

「えーっと、つまり?」

「今から契約しに行こうと思うので、一緒に付き合ってください」







 と、いうわけで来てみました。近所の家電量販店。

 我が家が家電を購入する際にお世話になってるところでもある。

 こちらにエリヤが話したという担当者さんが働いているらしい。

「その人、お店のどの辺にいるの?」

「いつも店内をフラフラしてるから、呼んでもらった方が早いかもしれないですね」

 エリヤが店員さんの姿を捜していると、


「あれ? エリヤじゃん」


 他の店員さんとは少し違う、青色をベースにした制服に身を包んだ男性が声をかけてきた。

「こんにちは。工事の見通しがたちましたので、本契約のために来ました」

「あー……、そういや、上司からそんな連絡があったな。こっちのカウンターにどぞ」


 来い来いと手招きされて通されたカウンターには「インターネット相談窓口」の案内板。


「ほい、これが契約書な。料金の説明とかはどうする? 必要なら、もう一回するけど」

「いえ。大丈夫です」


 ぺらりと出された書類には見たことない言語が並んでいる。


「……これ、どこの言葉?」

「ん? ティオール王国の第一言語で書かれてるんだよ」

 エリヤにこそっときいたつもりが、ご親切にも店員のお兄さんが答えてくれる。


「こんにちは、和子ちゃん。俺はここでネット契約のスタッフとして働いてる日光っていうんだ。よろしくな」

 自己紹介をしながら、にかりと人懐こい笑顔を向けてくる。

 うん、この人、客商売向きだ。初対面なのに、ここまでにこやかにできるってすごいなー。

「ど、どうも。……なぜに、私の名前をご存じなのでしょうか?」

「そりゃー、そこにいるエリヤから色々ときいてますんで」

 横に座るエリヤに視線を向ける。その視線に気づいている筈なのに、手元の書類に無駄に集中する姿からは何かやましいものを感じる。


「エ、リ、ヤ?」


 優しく、優しーく名前を呼んでみる。

 恐るおそる、こちらに目線をくれるけども口を割る気はどうもないらしい。

 そうか、話す気がないのなら、仕方ないよね。

「日光さん。エリヤから、何をどんな風にきいているのか、許される範囲でいいので聞かせて頂いてもよろしいですか?」

 ならば、もうひと方にお尋ねしましょう。

「簡潔にいうと恋愛相談みたいな?」

 エリヤと違い、日光さんはぺろりとお返事をくださった。その素直さに横でエリヤが突っ伏していた。

「なるほど。で、日光さんはどんなアドバイスをされたんですか?」


「大人の余「うちの国の秘蔵の酒、もうご用意しなくていいんですね?」


 日光さんのことばにかぶせるように、エリヤが会話に割ってきた。

「さ、そこの店員さん。無駄口挟んでないで、とっとと契約進めてください」

「はいはい」

 エリヤの目力とお酒の魅力に負けて、日光さんはしぶしぶとお仕事モードに移行する。

 が、さりげなく私にだけ分かるように、今度ゆっくりねと口パクしてくる姿にひっそり笑ってしまった。

 後日、エリヤなしで菓子折り片手にお店に訪れたのはいうまでもない。


「うん。これで書いてもらう書類は一区切りかな。リアルタイムで工事日を決めちゃうから、センターと電話が繋がるまちょっと待ってて」


 日光さんは登録作業も並行してやっちゃうから、そのまま座っておいてと書類を片手に席を外す。

「ねえ、エリヤ。日光さんて……」

 ちょいちょいとエリヤの上着を引っ張ってみる。

「和子の考えてる通りですよ。彼の業務も、扉の番人の仕事ひとつですね。参考になりましたか?」


 やっぱりそうか。

 私が知らないだけで、この国には色んな形で異世界の人に関わっている人たちがいる。

 その一人が、今、私の目の前にいる人だ。ごく自然に、ティオール国の言語を理解し、専門的な契約を結ぶ人。


「……わざわざ連れて来てくれたの?」

 異世界の言語で、異世界の人間相手に込み入った契約を行う日光さんの姿は、異世界当番である父の仕事内容とは違っていて新鮮だった。

 話にはきいていたけど、本当に異世界の番人という職業は多岐にわたっている。


「うん。参考になった。……ありがとう」


 別に一人でなんなくこなせた契約に、わざわざ同行させてくれた優しさに頬が熱くなる。

 照れくさくて、小さく呟いたお礼のことばはエリヤに無事に届いたらしく、エリヤも口元に笑みを浮かべる。

「単なるデートの口実かもしれませんよ?」

 いたずらが成功した子供のように向けられる笑顔に、胸がきゅんとなる。



「はい、そこぉっ!! 絶賛彼女募集中の一人身で連続十日勤務で結構ヘロヘロなオレの前でいちゃつくの禁止!!!!」



「……また、別れたんですか」

「……え。お休みとかってなかなか取れないんですか、この仕事」


 受話器片手に、主張激しく舞い戻ってきた日光さんにそれぞれ冷静に返答してみる。

 うちの親も、週休二日制なんで夢幻と唸りながら仕事してるけど、どこもそんなものなのだろうか。


「ユリアちゃんには仕事と私どっちが大事なのって言われて、一週間前にお別れしましたよ!!」

「仕事大好きですもんね」


 エリヤがにこにこと嫌味を返してるのを見ながら、「お前がいうな」と掴みかからなかった自分を褒めてやりたい。

「お前だって、人のこと言えないよね!!」

「ははは。和子の前でいらないこと言うの本気でやめてくださいね」

 エリヤの口元が若干引き攣ってきてるのが、ちょっぴし気になる。

 この人、また無理して仕事してるんだろうか。

「和子ちゃんだって、知ってるよね。コイツが仕事大好き人間だって」

「あははは。知ってますって」

 日光さんが、矛先をこちらに向けてくる。

 いい機会だし、釘さしとこうな。

「大丈夫ですよ。日光さん。今度、目の下にクマがくっきりと表れるくらい疲れ果てるまで仕事してたら、」

 にっこりとお仕事が好きで好きでたまらない大人二人に、満面の笑顔を向ける。



「背中に……いえ、脊髄を狙ってドロップキック決めますから」



 し――――――んと、辺りに静寂が訪れる。

「え、それ、致命傷になるやつ……」

 日光さんががくぶると震え、エリヤは私の目の本気具合に固まっていた。



 いえいえ。

 そこで固まっちゃうってことは、何かそういう予定があるのかな、エリヤさん?


 ――――中学の時に習得した、ドロップキック。披露する日が楽しみだな。

 

 

 

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