覚悟を決めました
二度目の異世界ぷち旅行から帰還してから、早一か月。
無事に筆記試験も終わり、山場であった集団面接も乗り越え、最終試験である校長との個人面接がようやく、本日終了した。
「う~、緊張した~っていうか、最早自分が何を言ったか覚えてない~」
教室の自分の席で突っ伏す私を、栞と明子が囲む。
「お疲れ様。ま、大丈夫でしょ」
「そうそう。集団面接ん時も同じようなこと言ってて、無事に受かってるわけだし、本番に強いんじゃない?」
親友たちの労いや励ましすらも、全てを出し切って疲れ切った私には右から左なわけでして、もう、本当に取りあえず終わってよかったよう。
「で、結果はいつ出るの?」
栞が、頭をなでなでしてくれる。違う、頭じゃなくて凝りに凝った肩を揉んでくれ。
私の心の声をきき、明子が肩を揉んでくれる。持つべきは優しい親友だ、ありがとう。
「お前さん、いい待遇だな」
と、癒されていると、担任がその光景をみて笑っていた。
「疲れたんですー。先生が推薦出してくれてから、かなりの長丁場だったじゃないですか。それがようやく終わってくたばってるんです、笑うなんて失礼ですよ」
「すまんすまん。で、結果出たけどこの場で発表していいか?」
「「「早っ!!?」」」
三人で思わずハモってしまった。え? 面接終了したのついさっきですけど、早くないですか?
「最終面接ってのは、校長による最後のちょっとした確認なんだよ。人柄とか、人物の見極めみたいな?」
ちょっとしたって言われましても、こちらにとってはかなりの緊張物の面接でしたけど?
「実は面接の肝は集団面接の方なんだよな。あっちは学年主任や、教頭や、進路指導責任者とかに色々と質問されて大変だったろ」
言われてみれば、確かに。先の面接の方が、綱渡り感が半端なかったような? 重箱の隅をつつくような質問責めに、面接官は姑属性持ちばかりかと罵りましたとも。ちなみに、その意見は私だけでなく、他の面接参加者もほぼ全員が抱いたらしい。
でもでも、校長のお眼鏡にかなわなかったら落ちるってことだよね。
「まあ、たまーに落ちる奴がいるかな。でも、大丈夫。春野は合格したから」
「はい?」
今、さらりと合格とか言いましたか。
「ちょっと、先生。言ってもいいか? とか聞いといて、何その場であっさり言ってくれちゃってるんですか!?」
さらりとネタバレした担任に思わず詰め寄る。
「いいじゃないか、受かってるんだから。おめでとう、よく頑張ったな」
わしわしと頭を撫でられる。
「よかったね、和子」
「おめでとう!」
栞や明子もばしばしと、肩や腕を叩いてくる。
「合格……?」
じわりと実感が湧いてくる。
「合格、したんだ」
「ちなみに、向こうさんにもお前の合格速報を校長に頼んで伝えてもらったから」
「は?」
向こうって、殿下とかエリヤのこと、だよね。
「先生から頑張った生徒へのお祝いみたいなもんだ、受け取っとけ。つーか、すでに情報を流した後なわけだし、受け取り不可とか言われても無駄だけどな」
「あ、ありがとうございます?」
私の複雑な顔を見てにやりと笑って、先生はその場を離れた。
合格した喜びをかみしめながら、家路につく。
向こうに連絡がいってるということは、数日すれば殿下から何かしら返事がくるであろう。
「お前が無事に合格したのがわかったら、こちらまた連絡する。しっかり励めよ」
別れの時に交わした約定だ。守ってくれるだろう。その時に、あっさり消された右手の痣があった場所を見る。
試験に合格したということは、痣とか特殊なものでなく、国が正式に発行してくれる腕輪がもらえるということだ。
特待生の間だけの、期間限定の物だけど、ようやく自分の力で異世界への通行証が得られる。やっと、望んでいた一歩がこれで踏み出せる。
どこぞの騎士様を拾った交差点を通り過ぎ、見慣れた我が家が見えてくると同時に、玄関にここにはいない筈の人物の姿が確認できた。
駆け足で残りの距離を詰めると、佇んでいた人物が私の姿を確認して出迎えてくれた。
「おかえりなさい、和子」
前回会った時よりは、多少はマシな顔色をしてエリヤがふわりと笑う。
「合格おめでとうございます。お祝いに駆けつけてみました。驚きましたか?」
びっくりしたとか、健康状態が規定値に足りてないとか文句を言う前に、自分へのご褒美の為にエリヤに抱き着く。
「ちょっ、和子、どうしたんですか?」
戸惑うエリヤなんて無視だ無視。相手の為ではなく、永い戦いをくぐり抜けてきた私には権利があるのだ。決して、この抱擁はエリヤを喜ばす為ではない。
ぎゅうっと最後に抱きしめて、色々とこれからのあれやそれを覚悟してから、ぺりっとエリヤを引き剥がす。
「な、何がしたかったか、きいてもいいですか??」
突然の抱擁に固まったままのややイケメンを見つめ、
「自分へのご褒美を頂戴しただけ」
「え、ご褒美? 今のが、ですか」
色々とぼかした返答して、さっさと家の中に入る。これ以上玄関先で騒いでいたら、ご近所さんの目につくからね。
玄関をくぐり、上り口に座り込む。
同じように入ってきたエリヤは、私の行動の真意が読み切れないのか、その場で立ち尽くしている。
座り込んだまま、エリヤを見上げる。
「もうすぐ、エリヤと出会って一年が経つね」
最初に出会った時は、初めて間近にみる異世界からの客人が珍しくて、思わずその出会いを引き延ばした。
共に同じ家で過ごす日々に、この人が傍にいてくれてる喜びを知った。
これだけの見た目の良さ、性格、佇まいととんでもない好物件なイケメンなわけだけど、住む世界の違う人と自分の中でとある線引きをした。
この人とは、ずっと一緒にいることは不可能だと。今、自分の隣にいるのは、運命の神様が偶々くれた短い期間なだけで、必ず終わりが来るのだからと。
だから、お互いに何とも言えない距離感で、それぞれのパーソナルデータもそれなりにしか認識しない曖昧な関係だった。
別れがいつ、どのタイミングで来るのか分からない状況。そして、一度断ち切られてしまえば、復元するのはほぼ不可能に近い縁。
彼のきっかけが何かは知らないが、最初にそのバランスを崩してきたのはエリヤだった。
今まで秘してきた役職などを公開し、宣戦布告じみたものも受けた。
それでも、それは彼からの一方通行という不安定なもの。あちらからはコンタクトがとれるが、こちらは待つしかない。
彼に何か心境の変化があって、いつ途切れるか分からない受身なだけの関係。
……それは、嫌だ。こっちからだって、会いに行きたい。追いかけたい。
そう思ったのが私のきっかけ。
片側通行なんてまっぴらご免だ。
ただ、待つだけなんて性に合わない。
「今までは、エリヤが来るのを待つしかなかったけど、ようやく私もそっちに行ける権利を手に入れたんだよ」
期間限定、回数制限、自由度には欠けるが、学生の身分で手に入れられる最高級の異世界往復切符だ。
ちゃんと自分の力でエリヤを追いかけれるようになったら、宣言しようと思っていた言葉がようやく言える。
「エリヤ、あのね、」
次話で第二部本編完結です。




