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イケメン拾いました  作者: ほのお
第二部 はじまりのその後で、
12/28

喧嘩を売られました

「昨夜は、どこに、行ってたのかな?」


 エリヤ宅を襲撃した翌日、朝食後すぐに殿下に呼び出しをくらった。

「えー、そんな殿下ってば、客人を招いておいて放置してたくせに、何文句をおっしゃってるんですか?」

「別にいいじゃない。僕が居たわけだし、一番安全でしょ? 男の子が小さいこと気にしちゃ駄目だよ」

 素直に謝らない私と援護を行うルカルフィックさんを睨みつけ、殿下は何かを言いかけたが二対一という不利な状況にすぐに何かをあきらめたらしい。


「和子、君は自分の状況を理解できているか?」


「いーえ。誰も明確な説明してくれないんで一切存じ上げません」

 文句あるなら、隠してる手札を全部見せてから言いやがれ。

 運命の人とか、花嫁とか、勝手に言われてもそれが何を示しているのかさっぱりだもんね。


「…………ルカルフィック殿」


 殿下が渋い顔をして、ルカルフィックさんを睨み付ける。

「んー? どうしたの?」

「確か、貴殿には和子へある程度の説明をするようにお願いしたはずですが」

 ルカルフィックさんは、きょとんとして、

「うん、ごめん。買い物とか料理の手伝いするのが面白くって、忘れてた」

 ごめんごめんと、へちゃりと笑って誤魔化した。


 ……この人、いい大人な筈だよね。

 買い物とかする前に状況を説明する機会があったはずなのに、それをしてないってのは、この人絶対に確信犯だ。

 面倒くさかったのか、そもそも私に説明したくなかったのかは知らないけども。……なんとなく、後者な気がする、かな。

 殿下がかわいそうなくらいぷるぷる震えてる。うん、ちょっと同情するわ。


「ルカルフィックさん」


 仕方がない、少しは殿下に恩を売っておこう。

「なあに?」

「私のおかれてる状況を説明していただいてもいいですか? 特に、この右手の印とか」

 自分の右手をルカルフィックさんに差し出す。

 確か、あのお姫様たちは「守護者の所有物」とか言ってたよね。

「ん? 客人に与えられる金の腕輪の代わりみたいな物だよ。単に僕が発行元だから、そんな特別な形状になっただけ」

「金の、腕輪の代用品??」

「うん。和子ちゃん、商店街でもこっちの人たちと普通に会話してたでしょう。気付いてなかった?」

 ……き、気付いてなかった、です。言われてみると、普通に会話してた気がする。



 いや、待てよ。



「はじめて会った時は金の腕輪を普通に持ってましたよね? なんで、今回は腕輪でなくて、こんな痣なんですか?」

 目の前でくるくると回されたのを覚えてる。

 腕輪も用意できるなら、なんで今回はわざわざ「痣」なのだろう。

 ルカルフィックさんは笑みを深くする。


「和子ちゃんってば、自分で深い方向にいっちゃうかー。どうする、誤魔化されたい? 首を突っ込みたい?」

「それ、選択肢は私にあるんですか」

「一応? ね、シルヴェストロ。どうするつもり?」


 意見を求められた殿下は、ふんっと鼻で笑った。

「どうするもこうするも、和子は今後学校とやらの決定によっては、定期的にこちらに関わるようになりますよ。あれらを今叩くのか、時間をかけて根絶やしにするかの判断はお任せしますよ」

「そっかー、関わっちゃうのか」

「しかも、扉とか世界の柱とかの関係が希望みたいですね」

「それ、一番願ってない方向なんだけど。え、和子ちゃんの将来就きたいお仕事って番人なの?」



 どの世界にも、違う世界に渡るための扉が存在する。

 その扉を管理する役職に就いている者が一般的に扉の番人と呼ばれている。または、異世界に関わる仕事全般のことを一括して、扉の番人と呼ぶ場合もある。



「一応、将来的には異世界に関わる職業に就きたいなと。扉の管理関係の仕事に限定はしてないですね」

「浅く済むか、深く来るかは今後の進路次第ってところかぁ。取りあえず、しばらくしたら、こっちに定期的に授業の一環として来る形になるんだよね」

 ぬーんと、唸るルカルフィックさんの横で、殿下がうちの学校から届いている書類らしきものを確認する。

「そうなりますね。頻度としては、月に一回、もしくは二回ですね。研修内容によっては、数日泊まり込んで行うものもあるみたいですが」


 ……なんか、当たり前のように話が進んでいるので、少し水を差す。

「あのー。こっちに定期的に来れるかどうかは、今後の試験で合格しないといけないんですけど?」

 何やら、お二方は私が受かるの前提で話をしてるけど、結構難易度高い試験なんで落ちた時のことも考えた方がいいと思うのですが?



「ん? お前は絶対に受かるだろう」

「え? 落ちるわけないじゃない。大丈夫大丈夫」



「いやいやいや! まだ、試験途中で、五分五分ってところですよ? なんでそんなに自信を持って断言するんですか?!」

 その自信がどこから湧いてくるのか、懇切丁寧に説明してほしい。そしたら、そのご意見を参考にして、面接でのやりとりの糧にするから。

「ツテとかコネとかを最大限使用して勝ちにいくのだろう? 俺が用意するツテなんだ、勝てるに決まってる。あとは、どれだけこっちの世界に関わっていきたいのかを明確に、熱い情熱をもって語ってみせればいいだけだろう」

「その、熱く語るのが難しいんですっ!」


 ツテは大変心強いが、それ以外の要素はなんの参考にもならないし。

 いや、そこは自分で努力しますよ?

 こっちに定期的にきたいのは、あ、会いたい人がいるという邪な想いも多少はあるけども、純粋に異世界とか扉とかに興味があるのも本当だし。


「言い方が悪かったな。お前が今後、定期的にこっちに来るのを前提で話を進めるから、絶対に試験とやらでその権利を勝ち取ってこい」

 試験の話は終わりだと、殿下はルカルフィックさんと何やらこちらに聞こえないように話し合いをしている。



「よし、決まり」



 暇だなーと、室内の装飾品を眺めていたら、ルカルフィックさんの声が響いた。

「現段階では、和子ちゃんには詳細な状況説明をあえてしません」

「はい?」


 おーい。

 にこやかーに笑ってらっしゃいますけど、それで私が納得するとでも。

 というか、なぜに私はわざわざ学校を休んでまでここに来ているのかくらい説明してください。何か、早急に確認することがあった筈ですよね?


「和子ちゃんは、そこのシルヴェストロの運命の人であり、」

「うちの国の守護者の花嫁、まあ、ルカルフィック殿の待ち人に近い人物だな。指輪の件を占い師に確認するためにお前をこちらに連れ込んだわけだが、この短時間で面白いくらいに色んな方面の輩が反応してくれてな。いい機会だから、先延ばしにしていたとある問題を一網打尽にすることにした。だがそれには少々、下準備に時間が必要となる」

 殿下が机に肘をつき、こちらにきらきらしいまでの笑顔を向けている。

 どうしてだろう、うちの生徒会長が、私や他の生徒会役員に無茶振りをする時と同じ顔に見えるんですけど――――っ!!



「お前は、とある連中を釣り上げるのに最高に極上な餌になる。しかも、今回の案件は守護者殿のご協力も存分に得られる絶好の機会なわけだ。俺は今後のためにも、この機会を最大限活用したい」



 こつんと、その綺麗に整えられた指先で机を鳴らす。

「いいか。絶っっっ対に試験とやらに受かって、こちらへ定期的に来れる権利をもぎ取って来い。見事合格した暁には、お前が疑問に思っている件について答えられる範囲で答えてやる。ついでに、お前の護衛騎士として特別にエリヤを付けてやろう」

 それはそれは黒いオーラをまわりに撒き散らしながら、殿下はこちらを見据える。


「どうだ、おいしい条件だろう?」


「……そうですね、最高においしい条件ですね」

 思うところは色々とあるが、掲示された条件はかなり魅力的だ。

 ここまで豪勢なエサを用意されたら、頑張るしかない。


 要は、喧嘩を売られたわけですよね、これ。買ってやろうじゃないか、その喧嘩。


 えぇ、必ず試験に合格して、高笑いしながら殿下に合格通知書を見せつけてやろうじゃないか。

 色々な疑問点はあるだろうが、まずは聞ける身分になってから聞きやがれってことだよね?

 なってやりますよ。特待生に。

 色々と不安だったので、面接前にエリヤに会って相談したいとか考えてたけど、そんな不安も吹き飛んだし。


 将来の進路も、エリヤとのことも、もやもやしていた視界が拓けた感じがする。

 こっちへの世界へ存分に関わりたいと覚悟はできた。あとは、その為の手段を得るだけだ。


「必ず試験に合格してくるんで、合格祝いをしっかり用意しといてくださいね?」

「いい返事だ。どうする、学校とやらには休みを5日間もらったのだろう。観光でもするか」

「私がこっちに来なくちゃいけない用事ってのは、済んだんですよね?」

 特に何もしてないのに、殿下の話しぶりからすると何かが終わったみたいだし。その辺はどうなったのだろう。

「俺に何も言わずに、商店街を二人で買い物し倒したのだろう? 予想外にそれが奴さんたちへのいい刺激になったみたいでね」

 あ。この話題って藪蛇だったかも。

「うわぁ、それはそれはよかったですねー。何も言われなくても、殿下の役に立てるなんて、私ってばすごーい」



「………………」

「………………」



 にこにことお互い笑い合う。それぞれにどす黒い何かをしょって。



「なかなかいい性格をしているな」

「やだ、殿下こそいい性格されてるじゃないですか」



 きっと、運命の人と書いて「ウマが合わない」と読む間柄なんだろう私達は。

「用事が済んでいるのなら、元の世界に帰らせてください」

「いいのか? 滞在期間ずっととはいえないが、多少はエリヤと話せる時間がとれると思うが」

 私の申し出に殿下が片眉をあげる。

「エリヤとは昨夜顔を合わせれたし、多少話せたから十分ですよ。今は、それよりも向こうに戻って面接対策を練ります」

 エリヤの健康状態や食事事情がかなり不安だけど、それを面倒みる時間は今の私にはない。

「伝言をお願いできますか」

 なんだ、言ってみろと殿下に視線で促がされる。



「次会う時までに、目の下のクマをどうにかしとかないと鳩尾狙うくらいじゃ済ませないから覚悟しとけ、と」



 ぶふぅっと、私の横でルカルフィックさんが噴き出す。この人、割と笑い上戸なのかな、前もなにか爆笑された気がするし。

 殿下は渋い顔でこちらを無言で見つめ、

「もう少し甘い伝言のひとつでも、いってやれよ」

 とため息をつきながら、視線を逸らした。



 あれでいいんですー。

 私なりの、好意の示し方の一つなんだから。



 さあ、向かうべき明日も見えたことだし、向こうに帰って戦いに備えましょうか。




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