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イケメン拾いました  作者: ほのお
第一部 イケメン(仮)拾いました
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イケメン(仮)を拾いました

「口さみしい……」


 自宅から徒歩5分の距離にあるコンビニに向かったのは、そんな父の一言がきっかけだった。

 深夜というには早い時間に、父とふらりとコンビニに向かうのは、私にとって日常のほんの一コマでなんてことはない代わり映えのない行動だった。


 その日の、その時間に、いつものコンビニに向かわなければ回避できたのだ。


 ――――親友らにありえないと、罵られる日常のはじまりは、






 コンビニから出た瞬間だった、その嫌な音をきいたのは。


「にぶい音がしたね」

「しかも、その前後にブレーキ音と車の走り去る音もね」

 父と音がした場所へ足早に向かう。


「これは……予想外かな」


 現場で目にしたのは、予想通り車に接触されたであろう意識不明の男性。

 幸いにも見た目で判断する限り軽傷だけだ。あとは頭などを打ちつけてないことを祈るだけだろう。

 ただ、その男性の恰好がいただけない。


「……異世界からの、お客様、だよね」


 その人物は、日本では某イベント会場に行かないと見られないような鎧やマントを装着しているのだ。

 まあ、その鎧のおかげで軽傷ですんだのだろうけど。

 右手首には、異世界を渡ってきた証である金の腕輪が光っている。


「和子は先に家に帰って、客間をととのえておいてくれるかな」

「父さんは一人で大丈夫?」

「僕は平良先生に連絡して、二人でこの子を運ぶから平気だよ」

 平良先生は、近所の開業医でもあり、うちの地区の異世界当番の一人でもある。

「了解。私は先に戻っておくね」






 最近では、海外同様に異世界からのお客様が増えてきたため、各自治体では異世界からの客人をおもてなしする、異世界当番という役割ができている。

 うちの父親もその当番に抜擢されていて、何度かお世話をしたことがあるそうだけども、私自身がこうして異世界の人を間近で見たのははじめてだったりする。

 ニュースやSNSなんかで、異世界からの客人の話をきいたことはあったんだけどね。

 普通は、道で拾ったりしないんだけどなーと、目の前で眠る客人を見る。

 目を閉じた状態だが、なんとなくイケメンなオーラを感じる。


 ……金髪か。


 これで、碧眼で王族や王城の関係者だったら、テンプレってやつだよね。

 平良先生の診察も無事に終わり、軽傷のみで問題なしと言われ、安心できたので、イケメン(仮)の観察に励もうと思う。


 怪我もたいしたことないが、気になる点がいくつかある。

 目の下のクマがひどい。頬もなんだかしゅっとしていてやつれ過ぎてる気がする。

 あと、なんだろう、こう……肌とか髪の色艶がすこぶる悪い。布団からちらりと見える指先には、髪同様に艶のない爪。

 一度うちの父や母が過労で倒れる一歩手前まで働きつめた時も似たような状態だったなと、怪我とは別のところが心配になってくる。



「……働き過ぎなんじゃないですか?」



 起きてないことをいい事に、濃すぎるだろうと思うクマを、そっとなぞる。

 うん、やっぱり肌がぼろぼろだ。女の子なら、このままではやばいと危機感を感じて化粧品をワンランク以上あげてしまうくらいにやばい。



「睡眠や食事を忘れるくらい、お仕事が大っ好きなんでしょうね」



 きっと、周りの人の忠告を無視してる。でないと、ここまでひどい健康状態にはならないはずだ。

 疲労の蓄積で、注意散漫になって大事な案件で大失敗するか、仕事の最中に倒れるか、そんな未来が待ってるに違いない。

 というか、今回の事故ってもしかして、普通の状態ならなんなく受身がとれて怪我しなかったパターンとかじゃないのかな?


「よくここまで自分の身体を酷使しましたね。……あぁ、そういう嗜好の人なのかな、本当にいるんだ、自分をいじめるのが好きな人って」


 あ。

 今、まぶたが少しだけ動いた。


「――で。いつまで狸寝入りする気ですか? 起きてるでしょう。腕輪も付けてるし、言葉も理解できてますよね?」


 ゆっくりと、閉じていた瞳がひらかれる。

 瞳の色は予想通りの碧眼。……面白味が一つもない。 


「初見にしては、やけに手厳しいので、起きてると申告する勇気がなくて……」


 傷が痛むのか少し痛むのか呻きながらも上体を起こす。その顔は予想通り整ってる。間違いなく、イケメンと呼ばれるに値する容姿である。

 鑑賞対象として申し分ないスペックなのだが、健康状態が悪すぎる。

 もったいない。本当に、もったいなさすぎる。というか、ここまでボロボロなのに、自覚ないのか、この人は。

「怪我人に対して少しばかり、手厳しくない? しかも、なんでそんな冷たい眼差しなのかな?」



「一か月」



「ん?」

 私の呟きに、きょとんと不思議そうにこちらを見ているが、知ったことではない。

 起き抜けのボケボケの頭のままの方が都合がいいし、無視して事を進めてしまう。



「怪我は大したことないけど頭部をうち付けてる可能性あり。いまだ意識不明の状態で、脳の検査やらで一か月以上は様子を診るためこちらの病院に入院」



「え? それ、誰のこといってるんです? 意識あるし、頭なんかうってないよね?!」

 なんか文句言ってるけど、聞こえないフリをする。

「そんな感じで平良先生に向こうの人たちに報告してもらって、最低1か月は我が家で面倒みる方向でお願いします」

 全てを言いきってから、客間の入り口にいつの間にか佇んでいる父を振り返る。


「……和子、結構な無茶ぶりするね」


 苦笑いで、ベッドで状況呑み込めていないイケメンさんを見つめ、

「確かに、このままだと倒れちゃうような健康状態だね。りょーかい。うまいことやっときましょう」

「父さん、素敵!!」


 もきゅっと、お礼代わりに抱き着いておく。

 こういう時だけなんだから……と、小さく呟いたのは聞こえなかったフリをする。

 さすがに高校生にもなると、素直に甘えにくいもんなんですよ、おとーさま。


「と、いうわけで、その目の下にあるクマが完全にとれるまで、ここで健康的な生活を送りましょうね」

「は?」

「私の名前は和子。不健康で今にも倒れそうなお兄さんの名前は?」



「…………エリヤ、です」



 それが、私こと和子と、異世界からの客人、エリヤとの馴れ初め。 




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