第8錬金 私達、逃亡者っぽいです!
「母さんね、これでも王族なのよ……」
「……はいぃ?」
このような突拍子もない入り方から始まった告白はなかなかに凄い物でした。
母さんはこの国ユーベル共和国から遠く離れた国ハイデンバーグという国のお姫様だったそうです。
ハイデンバーグは魔導器具の開発が盛んで、ユーベル共和国とは比べ物にならないほど豊かな国でしたが、魔力至上主義で、魔力の無い者を国民と認定しない闇の部分もあったらしいです。
そんな国の王族の娘として生まれたシンディ母さんも当然、幼い頃からそう言った教育を受けてきました。
「あの頃の私達はね、魔導器具制作に携れないほど低い魔力しか持たない者を、魔導器具の材料が採れる鉱山や炭鉱に放り込んでは、奴隷のように働かせていたの。……最初はアレクもそうだったのよね?」
「あぁ。だが、ある時俺達の鉱山が崩落し、沢山の仲間が生き埋めになる事件が起きた。俺達はもちろん国に助けを求めたさ。だが、王室は助けを寄越すどころか見て見ぬ振り。
こう言うことが何度も起きたせいで、俺達鉱山で働いていた皆が立ち上がり、反乱を起こしたのが13年前だ」
「反乱が起きた当時、私は15歳だったわ。10歳の頃からハイデンバーグを離れて二つの山脈を跨いだ隣の国キリエルド帝国の学校で世界の学問を学んでいたの。その時に思ったのは自分の国の考えが凄く歪んでいるという事だった。
その事に気付いていた私は学校在籍中に何度も、父王や母に自分の国は考えが古くて固すぎるので思い直すように書き綴りました。しかし、最後の最後まで父も母も古臭い考えを変えることはなかった」
「俺達反乱軍は魔導器具の攻撃に苦しめられながらも数の差でハイデンバーグを落とした。
その時にシンディが父王や母へ書いていた手紙を読み、王族全てが腐りきってはいないことを理解した。
俺はその手紙を手にキリエルドに行き、シンディと出会い、意見や情報交換をするうちにこうなっちまった」
「あら?途中の出来事を大分すっ飛ばしたわね?アレクがハイデンバーグに幽閉した私の父と母に、あんたの娘は俺が貰う!と啖呵をきった話とか、復興後に私達が2度目の失意を味わうまでの話とか抜けてるじゃない」
「いやぁ?それはだな?放してたらキリがないだろう?だから大事な所だけを言おうと思ってだな?」
ほんとに聞いてたら眠くなるほど甘かったり、辛かったりする話が多かったので要点だけ纏めるとこうなるわけですね。
母さんの両親は10年前に当時の新国王(母さんの叔父だそうです)に処刑された事。その叔父も最初はまともだったが、自分が上に立つことで慢心し政治が悪化。
結局、再度起きた反乱時に、父さんの手によって寝首をかかれ死亡する。その後以降、王位は空席となる。シンディ母さんがその後釜に選ばれたが、そうするとアレクとの語らいの時間が減るという理由で逃げ出し、この村に来たということ。
その1年後に私が生まれたという事ですね!
「えっとじゃあ母さん。私の苗字のベルシアって言うのは?」
「そ、その名前を何処で知ったの?」
「え?普通に自分のステータスに書いてるけど?去年まではベルシアの部分が()で囲まれてたんだけど、いつの頃からか()が消えて、メイラン・フィネりー・ベルシアって表示されてる」
「……アレク……」
「……一刻の猶予もないな……早くここを離れないとマズい」
「え?どういうことなのよ?父さんも母さんも説明してよ?」
「詳しい事は村を出てから話す。今はハイデンバーグの連中から逃げることを考えろ。
村長、突然ですまない。俺達はこの村を急いで出なくてはならなくなった。これ以上滞在していては村に迷惑が掛かるからな」
「ど、どういうことなんじゃ?ワシにも説明せぃ!」
「……アレクッ。村長さんに事情説明しておいて。私とメイリーで出る準備をするわ!」
「分かった!
村長……俺達はこれこれ、かくかくしかじかという理由でこの村に残ると迷惑をかける事になるかも知れないから村を出て行く。長い間、住まわせてもらって感謝している」
「言いたいことはなんとなくわかったが理解はできんぞぃ」
数刻後、私達は家族総出でハルベ村を出て首都方面へ向かって歩いていた。
「メイリー。ベルシアの姓はな、ハイデンバーグからお前を守るために封印しておいたものなんだ。
この姓があると、自動的に王族と認められ王位に就く事になる。お前の言う()が何か分からないが、封印しておいた名前が表示されたという事はその封印を解いたヤツがいるということ。
あの国のやつに捕まったら自由なんてモンはなくなるだろうし、メイリーの好きな錬金術なんて一切できなくなるだろう」
な、なんですって!?私から錬金術を取り上げるって……そんな非人道的な事許せると思ってるんでしょうか。そんな事お天道様が許してもこの私が許しません!
「父さん。そのハイデンバーグって言う国は悪い国なの良い国なの?」
「一言で言えば、腐っている途中だな。さっきも話したが一度は膿をある程度取り除けたが、残っていた膿がまた増殖し、腐らせ始めているというところだろう」
「アレク。本当のこととは言え、一応私の母国なんだからヒドイい方はしないでほしいのだけど?」
「すまない」
父さんの辛口なコメントに母さんが軽く反論すると、あっさり謝罪をしていた。
ハルベ村を出てもう3日になりますけど、私達は寝る時以外はずっと歩き詰めです。少しでもハルベ村から遠く離れ、追跡をさせないためです。
「それにしてもこの《疲れ知らずの靴》って言うのはすごいわね。もうかなり歩いているのに全く疲れを感じないわ」
「旅に出る事もあると思って何足か用意しておいたのが役に立ってよかったよ」
「しかし、錬金術も凄いんだが、こう言う発想ができるメイリーは本当に凄いな」
「お、おだててもダメだよ?」
これらのアイテムは全てゲームに出てきたアイテムのコピーだもん。私が考えたものじゃない。
でもいつか自分で考えたアイテムを作れるようになりたいな……。
《疲れ知らずの靴》のおかげで夜通し歩くことができた私達は、朝方にはユーベル共和国の中で一番大きな港町に到着したのでした。
港町なら、新しい素材が手に入るかもしれない。楽しみだね!