第17錬金 私、怒っているようです!
私が錬金釜を見て表情が大変な事になっている頃、村の中も大変な事になっていました。
なんと石切り場から例のタールスライムたちが村の方角を目掛けて下りてきたというのです。しかもそのタールスライムの中には上位種らしき個体の姿も確認できたとか。流石の私もこの状況には我に返らざるを得なかった。
「父さん~、母さん~?」
呼びかけても家の中は静まり返っているところを見るに二人はタールスライムの討伐に向かったようです。まあ父さんたちなら二人だけでも何とかなると思うけど、すぐに作れそうな傷薬くらいは差し入れしないとね。
そういうわけで唐突ながら初の錬金釜による薬の作成が始まった。この錬金釜にはスキルで特殊効果をつけた炎輝鉄とレインボータールを利用して作ったため、素材につけていた能力がそのまま反映されています。その名も【かき混ぜ時間短縮】【素材能力増加】【調合成功率上昇】。まあ他にも能力がついているんですけど調合に関係するのはこれらだけですので省きます。
もちろん付属で作ってもらったかき混ぜ棒自体にも【かき混ぜ時間短縮】の能力が付いているので、相乗効果により時間を大幅短縮できる……はず。
しかも錬金鍋で作っていたときよりも遥かに大量の素材を投入できる為、複数回同じ作業をする手間が省けるのがありがたいです。錬金鍋の方でも別の作業を同時進行することで2種類以上のものが調合できるようになりますしね。
耳飾からトーネ草や中和剤などの素材を取り出し錬金鍋へ投入。ルタの塗り薬を作る場合、今まで30分~1時間単位で必要だったかき混ぜる時間がなんと5分まで短縮できました。
これは本当にすごいよ!さすが私の錬金釜!!
その後、調子に乗って攻撃アイテムまで造り始めちゃったのはご愛嬌!だって私の家の周囲にはタールスライムが来てなかったんだもん!危機感が少なかったんだよ!
「なっ!なによこれ!」
薬とその他諸々が完成し、いざ家の外へ出て村の中央へ来てみるとこれまた大変な事になっていました。
先日作り上げたオスロ村の新名物の公衆浴場というなの温泉がタールスライムに占拠されていたのです。作ったばかりの風呂の縁は無残に壊されお湯などが漏れ出しています。
そして浴場の周囲はタールスライムで黒一色に染まり、足の踏み場もありません。
「メイリー!」
「ん?あっ、セツナさん、お帰り!」
声をかけられた方向を見るとセツナさんを始め、冒険者らしき人が5人が武器を構えタールスライムと戦っていました。
「ただいま……じゃなくて村がこんなになっているのに何でそんなに落ち着いてるの!」
「だってこの状況で取り乱す方が危険だよ?危ない時ほど冷静に行動しないと!」
「そ、それはそうだけど……作ったばかりの浴場がこんな事になっているのに、怒りは湧かないの?」
むむっ、言われてみればそうでした!指摘されたことを考えていくと何やら私の心の奥底にモヤモヤしたものを感じます。これが自分の作ったものを壊された事に関する怒りなのでしょうか。
それを怒りと認識しても冷静である事には変わりありませんけどね。
「大丈夫だよセツナさん。形あるものは壊れるのが当たり前なんだから。それに作り直すのはそこまで手間がかからないしね。だからといってタールスライムを野放しにする気はないけどっ!」
そういって私が取り出したものは、作りたての魔道具【振解爆弾】。
振動による効果で物質を分解する爆弾……なんだけど分解できるのはスライムとかの柔らかい性質を持つ魔獣や水などの流体系。人体には音によるダメージくらいしかないはずだよ。
以前タールスライムを相手にした時にその体の柔らかさに着眼し、それに多大なダメージを与えられるようなレシピを検索して見つけたもの。
「セツナさんたち、耳をふさいで!」
セツナたちが耳を塞ぐのを確認してから【振解爆弾】を浴場にいるタールスライムの群れに投げつけるとそこを中心にして激しい音が鳴り響いた。
見ているとタールスライムの体が激しく波打ちながら次々と蒸発していく。ついでに浴場に張られていたお湯も……。
「おぉ!?何そのアイテム!すっげぇのな~!」
浴場にいたタールスライムを一掃したあと冒険者の男の子……が話しかけてきました。
他の4人も同じ心境なのか私に注目している。どうやら説明しないとだめなようなので自作の特化爆弾だという事を告げる。
「はぁ……メイリー。またアンタはバランスブレイカーなもの作って……このアイテムがあるだけでスライムの被害をどれだけ減らせると思ってるの」
きけばこの村だけでなくどこの町や村でも下水や河川などに棲みついたスライムによる被害は絶えないのだという。確かにスライム系は本能だけで生きているから、積極的に人や動物を襲うタイプが多いですからね。
「じゃあこれからはこの爆弾も主力商品になるね。セツナさんに頼む仕事が増えたよ!」
「またアンタは商品を追加して……作れるのはメイリーだけなんだから、あまり商品を増やし過ぎないようにしないと体壊すわよ」
「栄養ドリンクと安眠枕があるからだいじょうぶだよ?」
「それを使ってる時点で大丈夫じゃないわよ。アンタまだ9歳なのにそんなものに頼るなんて……」
あぁ、またおせっかいモードのセツナさんが……。このままここに居たらクドクドしつこく言われちゃうから移動しなきゃ!
「セツナさん!父さんたちが石切り場のほうに行ってる可能性が高いから、話は後だよっ!」
そういって私は裏山の石切り場に向かって走り出しました。
「え?えぇっ、そうね!皆も報酬が欲しかったらきりきり働いて頂戴!」
「お、おう、まかせとけ!」
冒険者達に指示を出したセツナさんは、私の後を追いかけて走り出しました。