第16錬金 私……と関係しない町での出来事
「うっふふっふ~ん♪」
炎輝鉄で作り上げられた錬金釜が完成して数日。未だに私はその錬金釜を使用せず毎日眺めてはニヤニヤと笑みを浮かべていた。
アレク父さんとシンディ母さんがそんな私を見て心配そうにしているのを知らずに……。
「ねぇ、アレク……メイリーの様子がおかしいのだけど……正直ちょっときm……」
「おっと僕も同感だけどそれ以上は言っちゃだめだよ……いくらなんでもあの錬金釜というのが完成してからのメイリーはおかしいよねぇ。そろそろ商品の在庫も減ってきているし……さてどうしたもんか」
メイリー達一家は基本4LDKに改装された自宅兼店舗で商売を行っている。扱っている商品は基本であるルタの塗り薬などの医薬品から始まり石鹸などの日用品、田畑で使う栄養剤や肥沃土、魔獣撃退用の罠や近辺に出没する魔獣に特化された効果を持つ攻撃用魔道具など一度使い始めれば、それがあるのが当たり前と思わせるほどの常習性がある。事実オスロ村の住人は毎日入れ替わり立ち代りでメイリーのお店を訪れている。
いくら今まで作り貯めていたとしても、それらの人気アイテムが数日間製造されていないと在庫は尽きるのだ。
「それにしてもセツナさんは一体何をしているんだろうね。彼女がいればメイリーも動くだろうに……。
パラポラ通信紙にはオスロ村から4日ほど離れた場所にある大きな街に着いたという報告はあったんだよね?」
「えぇ、その町……たしかマクスヴェルとかいったかしら。そこに無事到着してギルドに依頼書の提出は出来たって書いてあったわ。だからそろそろ依頼を受けた冒険者とかセツナさんが戻ってきても良い頃なのだけど……」
「た、たた、大変だ~~。大量のタールスライムが村に降りてくるぞぉぉォォ!」
「……シンディ、久しぶりにやらないか」
「えぇ、そうね。アレク……」
この時から、平穏だったオスロ村に変化が訪れる事になる……。
…… その数日前、マクスヴェルの街の冒険者ギルドにて (セツナ視点)……
「ちょっと!何で誰も依頼を受けてくれないのよ!もう依頼を出して5日経過してるのよ。長い間放置していたら異界化が進んじゃうじゃないっ!」
「はぁ……そうは言われましても当ギルドといたしましては、依頼を受注してくれる方が来られないと斡旋できませんので……」
私は長期にわたりこの街に足止めされてしまい苛立っていました。オスロ村の裏にある石切り場の異界化を調査する依頼を提出。それ自体はすぐに受領され、冒険者を募集してくれたのですが……。
オスロ村までは片道で約4日。ぶっちゃけ遠いので依頼を受けてくれる冒険者が少ないのが事実。
確かに報酬もお世辞にも高いとはいえない。でも、でもよ?出現するのが比較的弱い部類の魔獣タールスライムって分かってるし、こう言った大きな町のギルドで活動してる冒険者なら、余裕で倒せる人が多いはずなのよ。
だから1日2日あれば依頼を受けた冒険者が現れ、すぐに村に戻れると思い込んでいたの。けど蓋を開けてみたら5日もこの街に足止め。いい加減イライラも爆発するって物でしょ?
なんせ人手があれば助かるのよね。最悪初心者冒険者でも良い。まあその場合メイリー作の魔道具を持たせて後方支援させるつもりだけどね。
「なあ、あんたがこの異界魔獣討伐の依頼人だよな?詳しい話を聞かせてくれないか」
そう考えていた私に話しかけてきたのは様々な年齢・種族の混じった男女5人グループだった。見れば防具は真新たらしいけど武器はそれなりに使い込んでいる様子。そこから判断するとそれなりの冒険者っぽい。
「えぇ、勿論良いわよ。詳しい内容はね……」
私は彼らに道中の食事はこちらで持つ事、現地での主要討伐対象モンスターはタールスライムであることと、働き次第で報酬を上げられることを説明しました。
私自身も地元ではそこそこ腕利きの冒険者なので経験上、報酬の値上げの話をすると食いつくはず……と踏んでそこに触れてみたらそれが大当たり。
彼らは装備を新しく変えたばかりで金銭面で苦しんでいたらしい。お金の話になったとたん目の色を変えて食いついてきました。
ふふふっ、さすが私の手腕。出発前オスロ村長にも依頼書に書いてある報酬とは別の報酬枠を用意しておけば冒険者が捕まるかもしれないと入れ知恵しておいたのよね。ちなみに上乗せ報酬を出すか出さないかは依頼主次第。まあ彼らがきっちり働いてくれるなら村長も出し渋りはしないはず。
「それじゃあ、この依頼…受けてくれるのかなっ?」
「「「もちろんですっ((いいともぉ~))!!」」」
あれっ?なんか一部懐かしいノリが返ってきたような気がする。それを5人のうち誰が発言したかは不明だけど、まあ今はどっちでも良いか。
彼らがギルドの受付で依頼を正式受領した話を受け、翌日私達はオスロ村へ向かった。
なお、メイリーから頼まれたお買い物はマクスヴェルに到着した翌日に済ませているので問題ないわよ。
「あの~、セツナさん?これから行く村にはその~お風呂とかってあるんでしょうか?」
「あっ、それウチも気になるわ~。お風呂があるか無いかでモチベーションがごっつ変わるねんで~」
長い耳が特徴の金髪美少女エルフであるヒサメと、こてこての関西弁を話す茶髪美少女のイスカ(人族)…ほほぉ、この女性陣二名……見所があるわ!メイリーや私自身もそうだったんだけどなぜか転生者の女性ってお風呂の有無をすごく気にするのよね。
メイリーは……普通に錬金術でお風呂用魔道具を自分達専用だって作っていたわね。あの魔道具のおかげでこの世界でも温水シャワーが浴びれて幸せだわ。アレのおかげで私もメイリーから離れづらくなったからね。だからあの子と離れている今のこの状況は私の心を荒ませるには十分なの!いわゆる経験者は語るを地で行ってるわね。
まあこの二人が転生者と決まったわけじゃないし、転生者だったから引き込む!といった真似をする気はないし当面は放置で良いわ。この向かう道中と村での働きを見て判断しましょう。
「村には凄腕の魔術師 (メイリーのこと)がいるんだけど、その人が村の中央に大浴場を作っていたわね。アレができてから村人もちゃんとお風呂に入る習慣の大切さを理解しているわ」
「だ、大浴場なんですかっ!?」
「なっ、まさか……小規模なお風呂を通り越して大浴場を作る人がいるなんて……」
ヒサメとイスカがこれから向かう村で味わうであろう至福の時を思い浮かべて、ニヘラと笑っているのを他の男性陣は黙ってみていた。彼らは彼らで大浴場と聞いて思うところがあるのだが、それを今言うべきじゃないだろう。
マクスヴェルからオスロ村までの道中は何度か魔獣の襲撃があったが、彼らの統制の取れた動きで瞬く間に殲滅できる程度だったと追記しておく。
こうして私達は無事オスロ村に到着。その数分後には石切り場の異変を聞く事になる。