第14錬金 私の錬金釜を作ってもらおう! その2
そして迎えたタールスライム討伐の日。私の空間耳飾には幾つかのサンダークラフトに加え、ハルベ村で購入したまま放置されていた呼氷石を使用して作り上げた魔道具 《フリーズスタッフ》が入っている。
「メイリー。準備はいい?」
「うん、バッチリ!タールスライム如き私の敵じゃないって事をとくと見ると良いよっ!」
「良い気合だね。さすが僕の愛娘!……それじゃいこうか」
という訳でやってまいりましたオスロ村の裏山。
周囲には真っ黒な粘液の跡が残っており、ガソリンっぽい匂いが漂っています。この粘液はタールスライムが移動した残滓なのでこれを追っていけばタールスライムに会えるというわけ。
まあ、スライムの進行方向と逆に進む事もあるけどその時はその時で……といいたい所だけど残念っ!
今ここには熟練の冒険者であるセツナさんとアレク父さんがいるのでスライムが進んだ方向など手に取るように分かるのです。
それによりますと今いる場所を裏山の麓と中腹を結ぶ道とすると、タールスライムがいるのは中腹部にあるとされる石切り場だそうです。
オスロ村の村人がここに作業しに来た時に大量のタールスライムに威嚇され、命からがら逃げ出したこともある。魔獣に分類されているタールスライムだけど、主食が石とか鉱石なので本来は積極的に人を襲う事は少ないはずなんだって。
そんなタールスライムが何故人を襲いだしたのか……。
たとえどんな理由があろうとも私の住んでいる村に害があるなら仕方ないのです。私の自信作で砕けてしまえば良いのっ!
「なるほど……これは確かに大量だな……」
「さ、流石にここまでたくさんいるとは思いませんでしたね」
父さんとセツナさんは石切り場に犇くタールスライムに顔を引きつらせていました。
でも大丈夫!魔道具を造りながら二人からタールスライムの生態について教えてもらったからね!
「とりあえず実験スタート! 煌け、フリーズスタッフ!」
耳飾から取り出した1本目のフリーズスタッフを掲げ、キーワードを叫ぶ私。うん、恥ずかしい!
9歳じゃなかったら赤面して引き篭もってる所だね。なお、セツナさんはこの叫びにニヤリと笑みを浮かべ、父さんは恥ずかしそうにする私を見ては興奮し「メイリー!メイリー!」と叫んでいる。
……いい加減、五月蝿いのよ父さん?
フリーズスタッフから放たれる冷気が周辺のタールスライムに纏わり付く。数秒後にはタールスライムの氷像が出来上がっていました。
「だーい成功!Vッ!」
「へぇ?燃やした方が楽なのに凍らせる事を選んだのね。どうして?」
「勿論これを使う為だよ!父さんからのお土産を加工して作った作品サンダークラフト!」
「……あぁ、なるほど!そういうことね?」
私がやろうとしている事をセツナさんは理解したようです。……じゃあ早速氷像たちの中央に向けて……ポイっとな?
ズガーンッ!!!バリバリバリー!
サンダークラフトの落下点を中心にすごい轟音が響く。そう、凍りついたタールスライムたちをサンダークラフトの雷撃で砕いたのです。生前プレイした当時の私が産まれるよりも前にあったレトロなゲームには、敵を完全に凍らせてから雷で攻撃すると一撃死するという設定があったのを思い出したんです。
「ふふふ……。効果は抜群だっ!」
「ちょっ!どこのポケ○ンよ!?」
セツナさんからのツッコミが入りましたけど気にしない!アレク父さんはバラバラになったタールスライムの氷片を見ながら魔道具の威力に感心しています。ハルベ村にいる時に見せた物よりも高性能な道具だからね!
「所でこの砕いた破片からどうやって体液を取るの?」
「……あっ!」
そう、目的とするタールスライムの体液はタールスライムが攻撃・自衛行動を取る時に吐き出す特殊なものですのでこのまま拾っても採取できないんでしたー!失敗失敗……てへへっ。
「だ、大丈夫だよ?いまのは間引いただけだもん!今から採取の為に本気出すよ?」
「はぁ、どっちでも良いわ……ほら、追加が来たわよ。仲間を殺されて怒ってる様子だからちょうど良いんじゃないかしら?」
「ふふふ!今度はその体液……私自らが根こそぎ搾り取ってやるんだからねっ!」
「メイリー……その言い方は少し卑猥じゃないかしら?」
気を取り直してタールスライムの群れとの2回戦が開始されました。けど今回も楽でした。だって最初から怒ってるから目的の体液をドンドン吐き出してくれたからね。
それを地面に落ちる前に耳飾に入れておいた大鍋にキャッチしていく。触れたらベタベタするから極力触れないようにするのは忘れない。
ちなみに鍋に受けた体液を瓶詰めするのは父さんの仕事です!
必要な量を採取したら先程のタールスライムと同様凍らせてバリーンと砕くだけ!一応フリーズスタッフもサンダークラフトも10回分ずつ持ってきてるからね
。
「こうやって見ると錬金術で作る魔道具って怖いわね。メイリーみたいな無力な子供でも魔獣を倒せるんだから」
「確かに。僕も昔から思っていたことだけどメイリーの錬金術は、今までに前例がないほど異質すぎるんだよね。だからあまり目立つ事はして欲しくないのが本音なんだけど……」
「大丈夫だよ~父さん。いざとなった時のための逃げる準備は抜かりないよ!」
まあ今それを発表することはしませんけど、私が遠距離からの攻撃で即死しない限りは逃げられるような魔導具を作ってあるもん。
まあ手持ちの素材で作った結果、品質はかなり悪かったから少し心配だけどね。ゆくゆくは高品質の素材がそろったら作り直すつもりでいるからその悪いのを使わないで済む様に祈りたいものです。
二戦目の後、暫くすると石切り場の奥にある採掘現場からまた大量のタールスライムが湧き出してきました。ここまで来るとセツナさんやアレク父さんもおかしいと思い始めたようです。
「タールスライムだけがこんなに大量発生するのはさすがに変だな」
「もしかして採掘場が異界化しているんじゃ?」
「そうかもしれんな……とりあえず出ている分を倒してから村に戻り、近くの街か村にあるギルドに連絡をしようか」
「ねぇ、二人とも~。異界化って何~?」
「それはだな……」
「あ、この子にわかりやすいように一言で説明できるから任せてください」
「おぉ、そうなのかい?いやー説明をどうしたら良いか考えてたから助かるよ」
「セツナさんどういうことー?」
「一言で言えばダンジョン化よ」
「あぁ、なるほど!了解したよ!こっちにはダンジョンとかあるんだね~」
「えぇ、でもメイリーが思ってるようなものではないけどね?ゲームと違って素材もほとんど取れないし、宝箱も出現したりしないわよ。
目的はダンジョン最奥部にある降魔石を破壊する事。そうしないと最初に降魔石に触れた魔獣と同種の魔獣が湧き出し続けるからね」
「ほうほう……んっ?」
降魔石……たしか錬金術の知識の中にあったような気が……?たしか私が作りたいと思っていた《飛翔板》の素材に……。
あっ、違った。飛翔板に必要なのはそのまんま《反重結晶》でした。
という事は何に使うんだっけ、何処かで見た名前なのは間違いないんだけど……あっ、あった!これだね《召喚石》と《送還石》の材料!
……えっ?召喚石に送還石?そんなものまで作れるんだ……錬金術……すごい。
それらの効果は異なる空間から何か(イメージがはっきりしている場合その物(者))を呼び出す、もしくは呼び出したものを送り返す……だそうです。まあ作るならセットで揃えろってことです。
まあ今の私じゃそんなすごそうなもの作れないから無縁だけど。
そんなことを考えている間にセツナさんと父さんはタールスライムの群れを殲滅し終えていました。
はやっ!……二人ともマジパネェですよ!?
「よし、これでおわりだね。一旦、村に帰ろうか」
父さんの一声で本日の狩りは終了しました。素材も集まったし、あとの事は二人に任せて私は錬金術がんばろっと。目指すは念願の錬金釜の材料!