第11錬金 私たちを追跡するもの
小さい時って時間が経つの早いですよね。シーナコッタの街に来てから早一年が過ぎようとしているある日の昼下がり。母さんが珍しくダダダッと急ぎ足?で私の部屋(作業場)までやってきました。
「メイリー!アレクから連絡があって、ハイデンバーグに妙な動きがあるそうなのよ。
もしかしたら私達への追跡の手がここまで伸びてくるかもしれないから、早いうちに荷物を纏めて街を移動しろだって!」
「えぇ~!せっかくこの街の生活に慣れてきたところなのに移動するの?」
「ハイデンバーグのヤツラに捕まるよりはマシよ。今引き受けてる仕事が片付いてから出発で良いからいつでも出れるように準備だけはしておくのよ?」
「はーい」
そこまでいうと母さんは通常業務に戻っていきました。私としても母さんがそこまで焦っていないので深く考え込まずに、錬金を続ける事にしました。
翌日には引き受けていた分の仕事が片付いたので母さんは町長さんに挨拶を、私はセツナさんに事情を説明して、明日にも街を離れる事を伝えました。
「そうなの……寂しくなるわね。気をつけて旅を続けるのよ」
「ちょっ!?あれー?同郷?の知り合いが追われて出て行くって言ってるのにその反応~?」
「ついて行っても良いのだけど、逃亡生活って疲れるそうじゃない?……ま、まあどうしてもっていうなら考えてあげなくもないわよ?」
「じゃあどうしてもっ!それともセツナさんはこんな可愛い女の子が魔物や野盗に襲われても良いって言うのかぁ~」
「ふふっ、しょうがないわね。そこまで言うのなら、冒険者らしく護衛としてならついていってあげるわ。勿論依頼料はきっちり頂くけどね」
「ぐぬー、友人価格でなんとか~」
「ダメよ?お店でいっぱい儲けてたんだから私にも回しなさい。昔の偉い人が言ってたでしょ?
《金は天下の回り物》ってね?あと《親しき仲にも礼儀あり》って言うのも当てはまるんじゃないかしら?」
「……大人は汚いよ。9歳の子供からお金を巻き上げようとするなんて……」
「ふふん。なんとでも言いなさい?特にメイリーは見た目は子供、頭脳は一応大人の名○偵……とまではいかないだろうけど、中の人は20代後半でしょ?」
「さ、さーてと、依頼の条件の打ち合わせしよう~」
「そんな露骨にそらさなくて良いわよ。ちゃんと分かってるんだから」
セツナさんとすり合わせた契約内容は大まかに言うとこうなった。
1・私と母さんの護衛。期間は半年~1年とする。雇用期間の延長、短縮は依頼者と冒険者間で行う。
2・期間中の食事に関しては依頼者側が負担。
3・期間中に討伐した魔獣の素材は、契約者の一時所有物となるが、契約終了時にそれに応じた報酬を上乗せする。
1は《疲れ知らずの靴》があるので、落ち着ける街を探すこと自体は苦労しないと思います。
2は私と母さんの持つ耳飾に大量の物資が入っているので、重い負担にはならないので問題ない。町や村に立ち寄った際の食費は出す事になりますけど、作った方が安いし美味しいんですよね。
3は魔獣の素材は錬金術に使える部分がある為です。特に骨やら牙、爪は凄くほしいです!
「まあ、ほんとはもっと条件つけたい所だけど、この位で勘弁しておいてあげる……友人だからね」
「うぅ、その代わり雇用費が割高な気がするぅ……」
セツナさんの出した条件は少なかったけど唯一、報酬に関してのみ吹っかけてきました。払える金額だから良いんですけどね……将来のお店の資金が……グスン。
報酬さえもらえるなら他の大抵の事は気にしないらしい。さすが冒険者の鏡……Bランクともなると抜け目ナイです。
条件が決まった所で、ギルドを通して指名で護衛を頼み、セツナさんはそれを受注しました。
そういえば、私セツナさんがほんとに強いのか知らないけど良いのかな……。
と、そう思っていた時期がありました。
シーナコッタの街を出て数日、街から離れ魔獣が多数出現する平原にて、私達はセツナさんの強さを目の当たりにしました。
セツナさんの扱う武器は斧。自身の身長より長い柄の斧を、ブンブン振り回し豚猪のオークボアやら狼とライオンを合わせた姿の牙王を切り払う姿は、まさしくオーg……いえ、戦乙女!寒気なんか感じてませんよ?気のせいに違いないです。
母さんはセツナさんが前衛をしてくれているので、後方から魔法による援護をしていました。いまさらですけど、母さんは火・水・地の3属性を扱える魔術師。
多数の属性を使える魔術師は珍し……くはないですけど、母さんのように多属性を使いこなしている人はそう多くないらしい。
「シンディさんってほんとに冒険者だったんですね。この目で見るまで信じられませんでしたよ」
「フフフッ。これでもアレクと同じでAランクなのよ?まともな仕事はあまりしてないけど」
「えぇ、存じています。幾種類もの武器を使いこなす血濡れのアレクさんと、多属性を操り中でも火と地属性魔法の威力がダントツに高いと言う爆砕の魔女シンディさんは、冒険者の中でかなり有名ですからね。最初見たときは本人とは思いませんでしたけど……」
「あらあら、10年前につけられた二つ名を知っているなんてセツナさんは若いのに博識ね」
「光栄です!私の夢は有名な冒険者になって立派な二つ名を頂くことなんです!ですからお二人の事はすごく尊敬していますよ」
魔獣を倒し終えた二人が話をしている間、私は二人が倒した魔獣の素材の中で錬金術に使える部分を空間耳飾に片っ端から入れていく作業をしています。使えない部分はですね……街の冒険者ギルドに提出してお金にしてもらう予定です。
「母さん達~。こっちの処理は終わったから先に進もうー」
「あら?もう終わったのね。それじゃあセツナさん行きましょうか」
「わかりました」
その後の旅は順調に進み、リバーシブルマウンテンの麓にある長閑な農村にたどり着きました。
この村の名前は《オスロ村》と言って田畑で作った農作物を数ヶ月に一度訪れる旅の商人に卸し、金銭を得ている村。あまり人が来ないなら隠れるには都合が良さそうと言う事で当面この村で過ごすことになりました。お金を使える施設がないですが食材(バーナやミップル、シーナコッタで大量購入したお魚たち)やら種は沢山ありますから食には困りませんしね。
「オスロ村村長のオスロです。このような何もない村でよろしければ、気の済むまでいてください」
「ご丁寧にありがとうございます。では早速ですが私共が住める家などお借りできないでしょうか?」
母さん達が村長さんと家の賃貸契約を交わす間、手持ち無沙汰になった私は村長さんの家の隣の部屋を借りて錬金作業を行うことにしました。
今回作るのも《ルタの塗り薬》です。こういった農作業やらする人の手足は怪我してたり、荒れてたりするのでこの塗り薬が役に立つに違いないからね。
錬金鍋にいつもどおり中和剤と薬の材料を投げ込み混ぜる……ゆっくり混ぜる……そして早く混ぜる!
こうして完成したルタの塗り薬を保管箱に入れると、部屋の奥から私をじっと見ていたらしい5歳くらいの男の子に気付きました。
「村長さんの家の子かな?……あっ、もしかして煙たかった?ごめんね」
錬金作業時に出る煙で文句を言いに来たのかと思い先に謝りましたが、そういう事ではないようです。
それならなんの用だろう?と首をかしげていると、その男の子が瞳を輝かせて走り寄って来たではないですか!
「お、おねえちゃんってスッゲェのな!草と骨と水を入れて混ぜただけでそんなの作れるんだ?僕もやりたい!」
どうやらこの男の子は偶然見た私の錬金術に興味を持った様子。どうしよう?すっごい嬉しい!?
シーナコッタやハルベ村で過ごしていた時も、謎の技術である錬金術を不思議そうに見る人は多かったけど、やってみたいといった人はハルベ村の友人のフィリスただ一人。そのフィリスも、2日で断念してしまいましたね。
「ふっふーん。すごいでしょう?錬金術って言うのよ」
「れ、錬金術……?」
「えぇ、草とか木を他のものに変質しちゃう技術よ」
「すっげぇぇ!それってご飯も作れるの!?」
「勿論!……見ててね?」
母さんたちはまだ話し合いをしていたので、男の子に錬金術を見せてあげることに決め耳飾からピザの材料を取り出し錬金鍋の中へ。中和剤と材料をかき混ぜる事5分。ひたひたの中和剤の中からでてきたのは焼きたてのシーフードピザでした。
「うおぉーー!すごすぎるぅぅ!なんで水の中から焼きたての生地が出てきたんだ~」
「食べてみる?」
聞くと男の子は勢いよく頷きました。ピザを男の子の前に差し出すとすごい勢いで食べ始める。
「うみゃぁぁ!うみゃしゅぎるぅぅ!」
感動のあまり言葉遣いが変な気がする!けど、まあいいか?やっぱ作ったものをおいしそうに食べてもらえるって嬉しいもんね。本来のやり方で作ったものでなくても……。
男の子がピザに夢中になっているうちに、母さんたちが私を呼びに来たので、男の子に帰るねと言いましたが、食べるのに夢中で聞こえていない様子。
食べてる邪魔するのもアレですので、そのままオスロ村長宅を出て、山側にある古い家屋に向かう。
どうやらここが私達の新しい家らしいですね。では早速リフォームをしましょうか!