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幽霊探偵バニラ  作者: 山田龍星
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訪問者

『集中治療室』というプレートが貼られたドアが開き、中年の医師と女性看護師が廊下に出てきた。

 二人はマスクを外し、廊下を歩き始めた。

「ICUに入っている3番の患者さん、凄いですね。一時期はチアノーゼもひどかったですし、みんな助からないと思っていたのに……」

 看護師が医師に話かけた。

「ああ、彼か……私も驚いたよ」医者が言った。「まだ高校生とはいえ驚異的な回復だよ。脳の腫れがひどかったし大きな損傷もありそうだったのだが、数日で意識が明瞭になったからね。あとは後遺症がどれだけ残るかだけど、運動野が原因での障害はほとんどないんじゃないのかな」

「右腕を切断したという話にも、そんなにショックは受けていないようでしたしね……」

「お姉さんのことも右腕のことも、淡々と受け入れている感じだったな。でもまだ16歳なんだ。じっくりと様子を見ないといけないけどね。家族のケアも必要だ」

「そうですね。……逆に、同じ事故の被害者だけど、隣の4番の患者さんはまだ反応が見られませんね」

「ああ。病院に運ばれてきた段階では根岸くんと同程度の容態だったが、脳の損傷はかなり深刻なレベルだからな」

「脳細胞は一度損傷を受けたら二度と生き返りませんからね。……そういえば、きょうは警察の人がしつこく食い下がってましたけど」

「ああ、あのしつこい刑事か。『意識が戻ったらすぐに事情聴取をさせてくれ!』って言っていたな。だいたいICUじゃ事情聴取はさせられない決まりだし、そもそもそんな状態まで回復できないと思うなぁ」



 ここ南里病院は総合病院ということもあって、一般外来でも多数の患者がやってくるため、土日の朝ともなるとロビーの長椅子はほとんど埋まってしまい、場合によっては体調が悪いのに立ったまままたされる人が出てくるほどであった。

 そんなロビーの端にある長椅子に、よれよれになったスーツを着たまま横になり熟睡する男がいた。

 当然、この男は空気の読めない男ということで、周りの客からは白い目でジロジロと見られていた。

 そして周りからのそういう視線を感じながらも、眠り続ける男の肩をゆすり続ける女性がいた。

 男は多摩南警察署の刑事である落合誠司であり、女性はその後輩である目黒未来である。

「係長、落合係長~」

 目黒をそう語りかけながら、落合の身体を揺らした。

「うう……」落合は顔をしかめながら呟いた。「もう食べれないって……」

「落合せんぱーい、起きてくださいよ」

「だからもう限界だって……」

「相変わらず寝起きが最悪だわ。この人」

 目黒はそう言ってから、落合の額を人差し指ではじいた。実力行使というわけだ。

「あいて!」落合はそう言って大きくのけぞり、そして目を開けた「ああ! まだ食べきってなかったのに……」

「もう……」

 目黒は落合の前で呆れた表情のまま腕を組んでいる。

「あれ、病院……ああ、仕事中だっけ……」

 落合はそう言って目をこすった。

「中里課長から連絡がありましたよ、落合先輩に電話をしても出てくれないから様子を見てくれって」

「え?」そう言って落合はスーツの内ポケットから携帯電話を取り出して見た。「あ、ほんとだ。熟睡してて気づかなかったわ。課長は、なんて?」

「とりあえず連続テロの可能性は低そうなので、警戒態勢を徐々に緩めているそうです」

「そっか、今晩は帰宅できるかなぁ」

「いえ……やはりあの諸積という男からはマークを外せないので、2人は常時詰めていてほしいとのことで……」

「また3人で16時間ずつまわすのかよ?」

 落合は唇をゆがめながら言った。。

「今日の夜からひとり送るので、半日交代にしてくれるってことでした」

「12時間勤務か。……まぁ仕方ないか。諸積が目を覚ましたらすぐに話をしないといけねぇからな……」

「でも、目を覚ますんですかねぇ。医者の話だと五分五分ってことでしたけど……」

「でも目覚めてもらわないとな。なにしろ警官と市民合わせて6人が死んでるんだ。上もこいつには注目しているんだから」



 そのころ、同じ病院の史郎が入っている集中治療室の横にある小さな窓を、黒いスーツ姿の男ががらりと開けた。

「すいません。誰かいますか?」

 男は抑揚のない物言いで、この小さな受付室にいる職員に呼びかけた。

 受付の中には女性看護師が一人だけいたが、この呼びかけに気づいて慌てて窓のところまでやってきた。

「あ、はい。どのようなご用件ですか?」

「諸積雄也に、会いに来ました。家族なんです」

 男はそう言った。話している看護師には見えないが、右手でサングラスをつまんで持っている。

「あら、あの……諸積さんのご家族の方?」

「弟です」

「そうですか……。諸積さんなら隣の第一集中治療室にいますけど」

「面会は、できますか?」

「申し訳ないのですが。今の状態では面会は無理です。……警察からも面会には応じるなと言われていますし」

「状況を教えてほしいです」

「そうですね。病院としてもご身内の方に確認しないといけないこともありますので、とりあえず担当の先生を呼んでまいります。その受付簿にお名前を書いて少しお待ちくださいね」

 看護師はそう言いうと、職員用の扉を開け廊下に出てきた。そして、男に軽く会釈をすると、早歩きで医師局の方へと向かって行った。

 男は、看護師が走り去ると再びサングラスをかけ、第一集中治療室に入っていった。

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