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  作者: 小林マコト
第一部 愚王 
34/131

5-6

「これで、関わった者たちでさえ覚えていないことになりました。情報が他に漏れないことは、このグロリアが保証します」


 グロリアがそう報告する姿に、エグランティーヌはゆっくりと頷き、礼を言った。

 声にいつもの強さがないところから、相当大変な魔法だったと、魔法のことは基本的なことしか知らないエグランティーヌでも察せられた。リゼルヴィンが協力していなければ、この短時間で終わることはなかったのだろう。


「リィゼルはどこへ行ったかわかりますか?」

「……エグランティーヌさま、あの女と深く関わることは、賢明ではありません」


 エグランティーヌの問いにグロリアは答えずそう返して、不満を明らかにする。

 いくら先王シェルナンドが違うと言っても、リゼルヴィンの髪が黒いことには変わりない。危険人物であることは誰もが承知している。それでもリゼルヴィンの力は大いに国の役に立っているために、反感を持ちながらも、皆リゼルヴィンを処刑しようとはしないのだ。


 だが、リゼルヴィンに害することをきつく禁じていた先王シェルナンドが死んでからというもの、一部ではリゼルヴィンを『黒い鳥』として処刑し、国民の不安を取り除こうという動きが活発になってきている。

 確かに民はリゼルヴィンに恐怖を抱いているが、だからといって処刑すべきだと思っている者は少ない。先王シェルナンドの言葉を信じているからだ。

 結局はただ、リゼルヴィンに対し後ろめたいものを抱えている貴族たちが、民のためという大義名分を掲げて自分たちの罪をリゼルヴィンの目から隠そうとしているだけだ。


 エグランティーヌはいつも不快に思っている。友人がそんな言われ方をしているのに、表だってエグランティーヌが諌めれば、今のグロリアのように期待外れだと言わんばかりの目で見られるのだ。王族の権威を落とさないよう、そんな目で見られるのは避けなければならない。エグランティーヌを勝手に立派な人間に仕立て上げ、それを勝手に失望されても、エグランティーヌ個人としては気にしない。だが、王族であるエグランティーヌが、四大貴族のどれか一つに肩入れしすぎてはいけない。リゼルヴィンを疎ましく思い、貶めようと行動する者を見つけても、慎重に動かなければならないのだ。あまり派手に庇ってしまうと、エグランティーヌだけでなく、リゼルヴィンも非難の的になってしまう。


「グロリアさま、あなたもリィゼルに近寄るなと言うのですね。……残念です。あなたならば、彼女の持つ力の価値を、よく理解していると信じていたのですが」


 その言葉の表面だけを聞けば、エグランティーヌがリゼルヴィンを利用しているのだと取れるよう心がけ、慎重に言葉を選べば、グロリアは深い溜め息を吐いた。エグランティーヌに失望したのだろう。


「リゼルヴィンという女は、どう誤魔化そうと『黒い鳥』に違いありません。先王陛下が何を思って可能性を否定なさったのかは私には到底わかりませんが、瞳の色が違えど、黒髪を持って生まれたからにはそうである可能性を重視しなければならないはずです。賢明なエグランティーヌさまであれば、この私の言葉に考えを改めてくださると信じております」

「……王族を相手に魔法を使うとはどういうつもりですか」


 いつものフードでしっかり隠しているため顔は見えないが、グロリアの目はエグランティーヌを射抜くように見つめているのだと、なんとなく感じていた。

 それだけでも緊張して体が硬くなってしまうというのに、突然吐き気が襲ってきた。その瞬間、エグランティーヌはグロリアに魔法をかけられそうになったのだと知る。リゼルヴィンとの契約で彼女の魔力が流し込まれていなければ、すぐに引っかかっていたことも。

 グロリアは魔法に失敗したことを気にも留めず、むしろそれが狙いだったとでも言いたげに鼻で笑った。


「私の魔法が見抜けたこと、それこそが、リゼルヴィンが『黒い鳥』であることの証明です」

「リィゼルは『黒い鳥』ではありません。瞳の色が琥珀色なのですから、違うはずです」

「どうだか。本当に『黒い鳥』ではなく、この国に命を捧げるつもりで他の四大貴族と同じように働いているのなら、リゼルヴィンはあなたと契約を結ぼうとは思わなかったはずだ。あの女はあまり頭がいい方ではない。自分の欲を満たすための頭なら、十分すぎるほど優れているがな。そんな女が、国の未来を考えてあなたと契約するはずがない。本人に説明もなく契約を結ぶなどただ騙しているだけだ。結果的に、それが国のためになるとしても、あの女は自分のために契約を持ちかけたんだ。『黒い鳥』ではなく『紫の鳥』だったなら、必ず説明しているはずだろう」


 グロリアが何を言っているのか、エグランティーヌにはさっぱりわからなかった。魔法について無知であるというだけでなく、何故自分とリゼルヴィンとの契約が国のためになるのか、それすらわからない。

 そんなエグランティーヌの様子に、グロリアは舌打ちしたくなるのを必死で耐える。


「本当に、何も説明していないんだな。あの女は何を考えているんだか」


 いいですか、と苛立ちの色をにじませながら、グロリアはリゼルヴィンと契約することが、どれだけ重要で、どれだけ危険なのかを話し始めた。


「あの女がどれだけの魔力を持ち、魔法の才能を持っているかは見ての通りだ。あれだけのものを持っていたら、不可能を可能にすることなどわけもないだろう。国を乗っ取ることも然りだ。国の利益になっている間はいいが、あれだけ強ければ、味方にするにも厄介だが敵にすれば更にやっかいだ。だから、王はリゼルヴィンと契約を結ぶ。いわゆる『奴隷』になるという契約だ。これを結び、首輪を与えられれば、リゼルヴィンがその命に逆らうことは絶対に出来なくなる。この契約は恐ろしいほど強力な魔法だ。幸い今までに一人もなかったが、下手すれば、主となる側が死ぬこともあるだろう。それだけの魔力が主に流れ込むからだ。その副作用は個人差があるから、運に身を任せる他ない。

 この契約はリゼルヴィンに限らず、代々『黒い鳥』として生れ落ちた者全員が王と交わしてきた。『黒い鳥』も意思を持たないわけではない。王族の中から、自ら契約相手を選ぶことも多い。いつしか『黒い鳥』の生まれた時代には、『黒い鳥』と契約を結べた者が王となる、という習慣がついてしまった。――ここまで言えば、自分がどれだけ軽率だったかわかるな?」


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