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残る問題はジルヴェンヴォードについてだ。
リゼルヴィンとファウストが情報操作を行うことは、エグランティーヌによって命じられているのだからそうすることになる。この二人が協力するとなれば、国外に情報が漏れないのは確実だ。これ以上頼もしいことはない。故にジルヴェンヴォードは何も問題なく嫁ぐことが出来るはずだ。ジルヴェンヴォードさえ、今回のことを口にしなければ。
セリリカとの関係はまだ危ういものだ。エグランティーヌが何か言い出しても、ジルヴェンヴォードを女王にすることは出来ない。何より、ジルヴェンヴォードにその器はない。
この場で話し合われ、決定されたものは、エグランティーヌから逃げ道を奪った。
エグランティーヌは、どんなに嫌であっても、女王になる他なくなった。
可哀相には思わない。王族に生まれた時点で、どう育てられてもこうなる可能性はあったのだ。それがあまりに低いものであっても、可能性があればこうなることもおかしくはない。
「では、これでおしまいということにするわよ。この場で下された決定が国のため、民のためになるよう力を尽くすと、我らが黄金の獅子に誓いましょう」
リゼルヴィンが会議の終わりを告げ、各々立ち上がり帰っていく。
それを見送っていき、最後にリナが出て行ったあと、扉が完全に閉まったのを見て、リゼルヴィンは椅子に力なく座った。
疲れで体が重たい。額を円卓につけると、その冷たさが気持ちよかった。
「これくらいで疲れるなんて……体力が落ちたのかしら……」
だらしない格好をしているのはよく理解しているが、今だけは許されると信じたい。
今日は朝から動きすぎた。魔法も使いすぎて、魔力がなくなってしまうのではと心配する必要のないことまで心配してしまった。ウェルヴィンキンズの住民を転移させ、グロリアを迎え撃ち、王城内にいる者全員を眠らせたりと、このくらいでリゼルヴィンの魔力がなくなることはないが、本来の魔力は今朝取り戻したばかりで制御の仕方を思い出すのが大変で無駄に消費してしまったのだ。流石に疲れが出る。
明日もまだまだやるべきことが残っている。エグランティーヌを説得しなければならないし、ジルヴェンヴォードにも色々と教えなければならない。ジュリアーナのためにも動かなければ。
「しっかりしなさい、陛下に叱られるわよ……」
自分に鞭打って、なんとか立ち上がり、部屋中のロウソクの火を消して回った。
屋敷に戻ったらまず、ミランダがちゃんと眠れているか確かめなければ。王城に行く前に見たミランダは取り乱したままで、リズに任せてしまった。その後も屋敷に戻らず、エグランティーヌと共に王都へ向かって来ていた各地から派遣された軍を返していたらこの会議のために移動せねばならない時間になり、結局ミランダの様子を見れていない。怖くて眠れていなかったら、今あるもので一番砂糖が合う美味しい茶葉を使って甘いお茶を淹れ、一緒にいてやろう。
ミランダには世話になった。落ち着いたら、ミランダと弟のことにも、手を貸してやらなければ。それがある限り、ミランダは怯えながら暮らすことになる。
部屋が真っ暗になったのを確認し、扉の外へ出る。
四大貴族以外、誰も知らない少しの先も見えない真っ暗な道を進むリゼルヴィンは、闇に溶け込んで見えなくなる。
このまま闇に溶けて、消えてしまえればどれだけいいだろう。
そんな、くだらないことを考えるなんて、やはり自分は疲れている。
小さく乾いた笑いを残して、まだ雨の降る道を、ゆっくりと歩いた。