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  作者: 小林マコト
第一部 愚王 
20/131

3-8

 地下の廊下に転移した二人は、扉が開け放たれたままの突き当りの部屋に三人の人影を見た。


「金髪の死体の山に三人の金髪って……なんだかおかしな状況ね」


 そうふざけたリゼルヴィンにリズが冷たい目をやれば、肩を竦められ、まるで自分が馬鹿なことを言ったような態度に苛立つ。

 ちらり、とこちらに気付いたギルグッドと目があい、更に苛立ってしまう。

 ジュリアーナはギルグッドとの会話に集中しているのか気付いていない。ジルヴェンヴォードは周りに目をやれる精神状態ではないのだろう。


 地下の廊下は音がよく響く。ジュリアーナとギルグッドの会話も響いて聞こえるが、その内容は拍子抜けするほど普段通りの他愛無い話だった。普段と違うのは、ジュリアーナの表情がどこか明るいことか。


「楽しそうね、二人とも。ジュリアーナ、これは一体どういう状況?」

「主さま……! 先程、この方とのお話が終わったところです。すぐ後にギルグッドさまがいらしたので、世間話でもと」

「そう。どこまで話したの?」

「すべてお話させていただきました。私が知ってること、すべてを。ただ、あのことだけは、お話していません」

「……そう」


 リゼルヴィンが声をかけると、ジュリアーナは更に表情を明るくし、心なしかその髪も瞳も、いつもよりくすみがなくなっている気すらする。

 隣に立っているリズに気付いて嫌そうな顔をするのは、いつも通りだった。

 可哀相なくらいに震えるジルヴェンヴォードに近付き、しゃがんで抱きしめる。可哀相に、可哀相にと怖いくらいに優しく言うリゼルヴィンに、ジルヴェンヴォードの震えは止まらない。


「忘れることは恐ろしいことだけれど、思い出すことも恐ろしいことよね。でも、あなたは悪くないわ。すべてあの王が悪いのよ。エンジット国王、ニコラスが悪いの。あなたは巻き込まれただけ」


 水が滲みていくように、リゼルヴィンの言葉はジルヴェンヴォードの心に沁み込んでいった。魔法も何も使ってはいない。それは、リゼルヴィン自身の言葉だからこそ、優しく聞こえているのだろう。


「憎むのなら自分の不運ではなく、ニコラスを憎みなさい。あなたがこのことであいつを殺したいと思ったのなら、深く深く、憎むことよ。そうすれば、あなたの憎しみが、あいつの体を貫くわ」


 その言葉に、ジルヴェンヴォードの震えがぴたりと止まった。

 それに、リゼルヴィンがにたりと笑う。


「大丈夫よ、憎むことは誰でもすることなんだから。何かを思うことは、絶対の自由よ。それだけは誰にも邪魔されないの。口にしなければ知られたりしない」

「なん、で……」


 なんで私がこんな目に。


 小さな声だったが、確かに呟かれたその言葉に、リズは驚いたような表情をし、ギルグッドは微笑みを変えず、ジュリアーナは興味なさげに聞き流した。

 ジルヴェンヴォード――正確には、ジルヴェンヴォードと呼ばれた旅商人の娘は、他人を嫌うことも出来なさそうな柔らかな表情から想像も出来ないような、憎しみに満ちた表情で吐き出すように言った。


「どうして私なのよ……! 金髪なんて、金髪なんてどこにでもいるのに……!」


 彼女の中に、強い憎しみが生まれていくのを、リゼルヴィンは肌で感じる。

 リゼルヴィンは、他者の憎しみには敏感だ。


「そうね、あなたは悪くない。あなたを選んだ、あの男が悪いのよ……!」


 一言一言に重みを持たせ、言う。

 彼女の青い目が、憎しみの炎で赤く見えた。


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