気に入らない
結局あれよあれよと入団することが決まり、私、今何故か二番隊の皆さんの前に立っております。あれ。
「本日付で、カエンベルク隊長の伝令役を務める、クラモチハルキだ。まだ年若いが、隊長に一撃くらわせるほどの実力者だ!」
ロイの言葉にどよめきが起き、一気に私に視線が集中する。
ぎゃあ、やめて見るんじゃない! 私、立派な目立つの嫌いな日本人なの! てか、一撃くらわせたぐらいでどよめきが起きるって、レオンどんだけ超人扱いされてんのよ!
「みな、よく見習い、歓迎するように! クラモチ、挨拶を」
ロイに促され、少し前に出る。
「えーっと……」
うわ、全員目が超怖い。そりゃそうか。伝令役って、出世街道まっしぐらって聞いたことがある。ずっとそれを目指していたのに、自分で言うのもなんだか虚しいが、ぽっと出のちんちくりんにかっさらわれたら、私だっていい気はしない。
「クラモチハルキです。一応得意なのは棒術です。よろしくお願いします」
ペコリと頭を下げ、人当たりよさげに見えるように笑ってみせる。
やっぱり、ここは無難にいっておくべきだろう。
「意義あり!」
唐突に上がった剣呑な声にビクゥと体が跳ねる。
「伝令役は、戦場や普段の任務において我々への伝達を担います! 急に出てきたどこの馬の骨とも知れないやつの情報を信じることはできません!」
何だとコラ誰が馬の骨だ表出ろ! この白金天使顔! ……しまった、これ貶してない!
意義を申し奉りあげやがったのは、白金の髪に碧眼の、これぞ王道と言わんばかりの美少年だった。多分、同い年くらい。
神経質そうに吊り上がった眉すら美しい。あれだ、なんか、お人形みたい。
「控えろ、アルベルト・グリーン」
「何故です。私は、間違っていますか」
ギッと鋭く睨まれる。
おおう、美人に睨まれると怖いよ。
美人に触発されて周りの連中もそうだそうだと騒ぐ。
「納得できません。是非とも、お考え直しくださ―――」
「だぁまれよ、グリーン」
隊列の一番前にいたランセルが、凄みのある好戦的な、けれど冷たい笑みを浮かべてグリーンと呼ばれた美人を見つめた。
周りの人がまるで何かにあてられたように顔色を青くする。
なんだろう。肌がぴりぴりする。
ぴりぴりとした空気に、いくら私でも気がついた。今、ランセルは死ぬほど機嫌が悪い。
「間違ってるかって、お前聞いたなぁ?」
「は、はい」
頷いたアルベルトにランセルが小バカにしたような笑みを浮かべる。
「言うこと為すこと、ことごとく間違ってんだよ、坊っちゃん。副隊長が、控えろっつってんだろうが。あれは注意じゃなくて命令だった」
ランセルの言葉にアルベルトの顔色がサッと変わった。蒼褪めたように見える。
ランセルが笑みを消し、唸る獣のように歯を剥き出しにしてアルベルトに近付き胸ぐらを掴んだ。
「それをお前は無視したんだよ。お貴族様には上官の命令を無視していいっつー権限でもあんのか? あぁ?」
アルベルトが顔を苦しげにしかめる。
「申し訳ありません。そのような、つもりではなく、隊規を乱す者を……」
「周りを見てみろよ。隊規を真っ先に乱したのは、どう見てもお前だろ」
グ、とアルベルトが詰まる。
「隊列に戻れ、ホイットマン、グリーン」
レオンの低い声にビクゥッと二人が跳ねる。
「……オレ、今回悪くないけど!」
「喧嘩おっ始めた時点で似たようなもんだ」
ヒデェとランセルが肩をすくめ、アルベルトを放す。
どうやら機嫌は直ったらしい。
「アルベルト・グリーン」
レオンが呼ぶと、アルベルトは弾かれたように顔をあげた。
「はっ」
「お前、こいつが気に入らないのか?」
こいつと言いつつ私を手で押さえ込むな! 背が縮む!
手を払い落とすと、その場が凍る。
ん、何?
「……ほう、クラモチ。お前、いい度胸だな?」
「いってーんだよバカ! 足地面にめり込ませる気か!」
「人間はそう簡単には地面に刺さらん」
「わかってるわ!」
私とレオンのやり取りに、二番隊の皆さんが目を丸くする。
アルベルトすら険を無くしてまじまじと私達を見つめている。
はっ、隊長相手に生意気だからか!?
ぎゃあ、よりいっそう嫌われるじゃないか!
頭を掴まれ二番隊の皆さんの方に顔を向けられる。
「いった!」
「どうなんだ、グリーン」
隊長の私を無視した言葉にアルベルトがごくりと唾を飲んだ。
「……正直に申し上げれば、そうです」
「そうか」
私から手を離して、レオンが私を見つめてきた。
何、何だよ。やるのか! 上等だ!
いいことを思い付いたように、レオンがニヤリと笑う。
「ならば、手合わせをしてけりをつけるか。それなら誰も文句はないだろう」
はぁ!?




