騎士団の本部にて
またまたかなり空いてしまって申し訳ありません!
亀更新ですみませんーー!
騎士団の本部は、ものすごく壮観だった。
広い庭に入口へと続く小道があり、芝生がびっしり生えている。建物は壁が真っ白で、年代を感じさせるのに小汚く見えない。きっと、丁寧に手入れをしている人がいるのだろう。
まぁ、とりあえず見学してみろと言われ着いてきたが、職場の周囲の環境はクリアだ。
「ついてこい」
レオンに呼ばれて慌てて後を追いかける。
中に入っても、廊下は美しかった。フカフカの絨毯を踏みしめ、壁に騎士団を象徴する、前足を振り上げた馬の紋章がタイルとして埋め込まれているのを見たときは鳥肌がたった。
やばい、超かっこいい。
「すげ……」
「クラモチ、早くしろ」
「はーい」
ドアを開けて待っていたレオンに礼を言って中に入り―――絶句した。
「おかえりぃ、隊長」
机の上に足を載せ、赤い短髪で猫目の青年が間延びした声で言っている。
おおう、レオンとはまた違った、それこそ火傷するぜ! 的な美形だ。
髪の色をつっこみたいところだが、私はそれよりもその部屋の散乱具合が気になって仕方なかった。
机の上に散乱した書類、そこからこぼれ落ちたらしき床の書類と紙くずと本と上着。
―――さっきまでの綺麗さはどこいった!?
そんな惨状に慣れきっているようにレオンは机の男にズカズカ近付いていった。
ちょ、おいこら! 書類踏んでる! いいの!?
「ランセル、足を下ろしてそこをどいて」
そして私の後ろから聞こえた張りのある声に思わず飛び上がって、その場を横に移動する。
い、いつのまに後ろに人が!?
振り向くと、青い長髪を後ろで括っている、優しげな柔らかい雰囲気の美形がこちらを見下ろしていた。
「はーいはい」
ランセルと呼ばれたそいつがよっこらせっと立ち上がった。そこでようやく私に目を向ける。
わ、赤髪はよく見たらリングのピアスをしてる。髪の色も相俟って、なんだかヤバそうな雰囲気の人だ。ひぃ、ちょっと怖い!
ランセルと入れ変わりで座ったレオンの側に、青い長髪の人が移動する。
「お? 誰こいつ」
私が小さく会釈すると、ランセルは目をパチクリと瞬かせた。
「クラモチハルキ。新人として入団させる」
レオンの言葉にランセルが首をさすりながら片眉を跳ねあげ、青い長髪の人は表情を無くす。
「レオン、訓練期間はどうした?」
「必要ない。俺が認めた。不服か? ロイ」
青い長髪の人の名前はロイだそうです。
ロイは困ったように眉尻を下げる。
「不服というかな……さすがに、こいつだけ特別扱いというわけにはいかないだろ?」
「黙認しろ。不満があるやつは叩き潰せ」
譲る気がないようにレオンがそうのたまう。
「ふーん? ……裏口入団って、やつかぁ?」
ランセルの目が不愉快そうに細まり、私は刺すような視線に体を縮みこませた。
こっ、こわっ! 私、別に訓練期間あっていいよ! って、違う! まだ入るとは決めてないのに、なんでこんなに怒られる雰囲気なの!?
「例の人身売買のがそれだ」
レオンが少し考えた後に忌々しそうに言う。
それ!? またしても物扱いか!
ランセルとロイが目を丸くし、あろうことかランセルに至っては、私の顔を数拍見つめた後に、小刻みに震えながら噴き出した。
な、何!?
ギョッと体を引いた私の前でランセルが大笑いし始める。
「そーかお前が! 凍れる牙と呼ばれる我等が隊長に、回し蹴りくらわせたらしいじゃん! アッハハハハハ! やべぇ、お前、ほんとすげぇわ! いやーいいもん見た!」
ひーひー言いながら体をくの字に折ってランセルが笑う。
何だろうな、この人。初対面だけど、ものすごく殴りたい。
「そんなんもー歓迎するに決まってるじゃんなぁ! よろしくハルキ! オレはランセル・ホイットマン。通称隊長のお膝元班の班長やってんだ」
手を握られブンブン上下に振られる。
にこやかに笑われ、見た目よりも怖くないのかもと思った。
しかし、この人、レオンのこと嫌いなんだろうか。隊長ってレオンのことだよね? それに回し蹴りくらわせた奴なんて、嫌いはすれど喜ぶなんて普通じゃない。
はっ、もしや、レオンに余程酷いことされてるとか!? やばい、騎士団に入るのはやめといた方がいいかな!?
「あぁ……まぁ、じゃあ、実力者ではある……の、か?」
ロイが首を傾げ、困ったように笑う。
「初めまして、ハルキ。おれはロイ・シュバルツ。レオンの副官だ」
「え、副官って……」
「二番隊の、副隊長ということだ」
レオンが机の上の書類を選別しながら答えた。
あれ!! 偉い人じゃない!? …………ん、待てよ? もしかして、レオンって、それより偉い人なんじゃないの?
チラリと盗み見ると、レオンは今さら気づいたのかというような呆れた顔をしていた。
「あれだ、隊長に回り蹴りしたっていうから、どんなごつい野郎なんだろうと思ってたんだけど、想像と違ったわー」
「はぁ……」
流されそうになって我に返る。
違う! 私は今日、見学だけしに来たの! このままじゃ、ズルズルと入団することになってしまう!
「わっ……俺、入るなんて一言も言ってません!」
今さらながら敬語を使ってみた。
「え、そうなのか?」
ロイが目を瞬き、ランセルがレオンを見る。
「らしいけど隊長ー」
「どうせ入る。言わせておけ」
「だってさ」
なんで、そんな、若干楽しそうなんだ!
「だってさじゃないですよ! 勝手に決めないでください!」
「ここに入らなかったら行くところないんだろう」
ウッと詰まる。
まぁ、そう言われるとそうなんだけど。
「え、何だ? わけあり?」
「それもとびきりな。あまり突っ込んで聞いてやるなよ」
「え、別に……」
特にわけありじゃないと言いたかったが、レオンに睨まれて押し黙る。
はいすみません。異世界だなんだと言うわけにもいかないんだ。
ランセルに向かって曖昧に苦笑すると、彼は興味無さそうにフーンと言った。
「まぁ、二番隊にはそんなやつも多いよな。特に平民の奴とかさ」
……なんかもう、さ。ランセルって、見た目に似合わず優しいよね。なんでもないように慰めようとしてくれてるのがヒシヒシと伝わってくるよ。
「経歴より何より厄介なのが、こいつの能力だ」
「何だ? 蟲使いとかか?」
「あーあれなー。余程じゃねーと使いもんになんねえよなぁ」
え。何、虫? 虫使って何すんの?
「いや。簡単に言えば、魔法が効かない魔法だ。発動すら止める」
「……ん!?」
パチクリとランセルが目を見開く。
「隊長ー、それ、まったくおもしろくないっすよ」
「お前が冗談言うなんて珍しいなレオン」
ランセルとロイに言われて不機嫌そうにレオンが顔をしかめた。
「俺がこういう時に冗談を言うと思うのか、お前らは」
「……え、まじ?」
二人が私を見た。
それは、未知のものを見るような、警戒するような鋭い目で。
思わず、ビクリと体が跳ねる。
「まあ、だから脅威かと言われたらそんなことはないんだがな」
レオンのバカにしたような声音に二人の雰囲気が柔らかくなる。
それにほっとした。
怖かった。今すぐにでも、排除されるような、そんな雰囲気だった。
どうして? そんなに危険視されるような能力なの?
「ランセル、お前が制御装置を外しても意味のない奴ってことだ」
「―――へぇ」
ランセルが歯と闘志を剥き出しにして笑う。
何、その血沸き肉踊る感じの笑みは!
「そういうわけだ、ロイ。なんとかしろ」
「わかったよ。目の届く距離にいた方が、この子にとってもいいだろ。ランセル班でいいか?」
レオンが肘をついて掌に顎を載せ、面白そうに唇を歪める。
「何を言ってる。こいつは、俺の伝令役だ」
は?